第58話:地下施設
奥の警備はたしかに外よりは多かったが予想していた数程ではなかった。だが、警備1人1人は見るからに外にいた奴等以上の屈強な体躯をしており統率がとれている。気配を消し木々を利用して奥の塀のとこまできたはいいが屋敷に近づく隙が見当たらず潜入できずに手をこまねいていた。
「くそ~、ほんの少しでいいから奴等が奥の隙間を確認する時間が無くなればなんとかなるんだが」
「さっきの魔法で眠らせたら?」
「あれだけハッキリしているようじゃ眠気を促したり眠らせる魔法なんて使ったら魔法攻撃を受けてるって気付かれる可能性が大だし、近くの仲間に起こされるのおちだな」
「1人限定じゃないんでしょ、なら奴等全員に強めの魔法を使って一瞬で眠らせればいいじゃない」
「それは無理ね、あれだけ小まめに巡回してるんじゃすぐに眠った奴等が見つかるわ」
「あの、囮で誘き出すのはどうですか?」
「それも止めた方がいいわね、100パーセントの確証は持てないけど一瞬見えたタトゥーが私の知ってるものと一緒ならアイツ等『漆黒の毒蛇(レイヴンバイパー)』かもしれない」
「漆黒の毒蛇?」
「えぇ、冒険者ギルドでも危険指定されている盗賊団よ。男なら子供だろうと老人だろうと容赦無く殺し、女なら悪逆非道の限りを尽くし飽きたら奴隷として売ったり殺したりするらしいわ」
「私もそれ聞いたことあります。でもポアラ姉、漆黒の毒蛇の活動範囲は北のシルドライト王国じゃなかったですか?」
「そうよ、しかも半年以上前にギルドとシルドライト王国が共闘して壊滅させたはずなのよ」
「だから確証が持てないってわけか、もしかしたら生き残りがいてこっちに逃げてきたのかもしれないな」
「だったら尚更戦力を分散しない方がいいですね、それだったら囮には私がなります」
「何言ってるパルティ!」
「そうよ、アナタも知ってるように女にも非道な事を平気する奴等なのよ。もしアナタが捕まりでもしたどうなるか」
「大丈夫です、シエル姉、ポアラ姉。囮になると言ったけど、私自身がやるわけでありませんから」
「「・・?」」
「そうか!」
俺が気付くと同時にパルティの姿がブレ、一瞬にしてパルティの隣に瓜二つの分身が現れる。シエルとポアラは始めこそ驚いたものの、すぐに興味津々とばかりに分身の身体をペタペタと触りまくっていた。
「へぇ~、話には聞いていたけどこれ程とは」
「ほんと凄いね、ほら胸だって本物と同じ大きさ柔らかさだよ」
「・・・・あのなぁ、今は急いでるんだからほどほどにしておけ」
「なによ、テツヤだって触りたいくせに」
「そんな議論はあとでいいから。パルティ、たしか視覚同期はできるんだったよな?」
「うん、あと同期できる範囲だったら私自身で分身を操作することもできるよ」
「だいたいどのくらいだ?」
「精確に調べたわけじゃないけど、たぶん100~200mくらいだったら大丈夫」
「十分だ、さっそく始めよう。俺達から少し離れたところからアイツ等の1人に向かってナイフを投げてくれ、できれば上半身のどこかをかする感じで」
「直撃させなくていいの?」
「あぁ、攻撃に失敗し見つかったから逃げるという風にしたいからな。その後は正門の方に向かって走ってくれ」
「分かった」
作戦を開始すると歩哨や近くを巡回していた警備がザワザワと騒ぎながら分身が逃げていった方に向かって走っていってしまう。予定通りにいったのだが熟練の戦士を思わせる見た目や行動とは裏腹にあまりにも呆気なく陽動に引っかかったので逆にこれは罠ではないのかという考えが頭をよぎった。罠を考慮しすぐには動かずその場で様子を窺うが、誰かが潜んでいたりこちらに向かってくるような気配は全く感じられなかったので屋敷と塀に挟まれた奥の小道に駆け入った。
「ねぇテツヤ、ここ隠れるとこ無いんだからどうやって屋敷に入るか教えてくれない?」
「ん? あぁ、もちろん窓から入るのさ。ここを見た時2階に一箇所だけ明かりが点いていないとこがあったからな」
「2階からねぇ、どうやって登るのよ? 梯子なんてどこにも無いのに」
「ちょっと待て・・・・よし、上手くいってるな。今からやってみるから皆も俺に続いてくれ」
壁から手を離し間髪を入れずに壁に向かってジャンプする。壁と塀を三角飛びで交互に蹴っていき、ほどなくして1階の屋根に辿り着いた。
「「「・・・・・・」」」
「おーい、ボサッとしてないで早くこっちに来い」
「・・・・! いやいや、なに難易度が高い技をサラッとこっちに要求してるのよ!」
「そうよ、そんなやったことない技を練習無しでいきなりやれとか無理に決まってるわ」
「三角飛びはやった事あるけど連続は無いですねぇ、というかそんな技やる人初めて見たよ」
「あのな~、俺だって素でこれができるわけないだろ。それなりの対策は講じているし、基本の身体能力は明らかにお前等の方が高いんだから大丈夫だ」
3人は半信半疑といった感じで躊躇っていたが、シエルが半ばヤケクソ気味に壁に向かってジャンプし行動に移ると先程の俺と同じように難なく屋根まで辿り着くことができた。それを見ていた残りの2人も同じように壁を蹴って屋根まで登ってきたが、3人は自分達のやった事がまだ少し信じられないといった感じだ。
「ねぇ、対策って何をしていたの?」
「えっ? あぁ、登るのに集中して気付かなかったか。よし、開いた。・・簡単に説明すると一部の壁と塀を全く滑らないようにしたんだ、壁とか蹴った時に下に滑らずに踏ん張れただろ」
「あっ、言われてみればそうね」
「まぁその辺の話はまた今度だ、パルティは分身を解除してもいいぞ」
「うん」
部屋の中は豪華な調度品が設けられていたが、それらは日常的に使用されている形跡がほとんど見られず新品同然でありプライベートルームというよりゲストルームのようだ。当然のように探索しても出てくるのは金目の物ばかりで俺達が欲しい手がかりはなく、扉に取り付けられていた小窓からは長い廊下と等間隔に取り付けられた扉が見える。
「どう?」
「見た限り警備は居ないな、侵入してくる奴なんていないと思って外の警備で安心しきっているのかも」
「もしそうなら領主はよほどのバカね。まぁ私達には好都合だし今のうちに見て回りましょ、ほら2人も泥棒しに来たんじゃないんだから金目の物なんて漁っていないで行くわよ」
「「は~い」」
警備はともかく使用人すら誰一人通らない廊下はしんと静まり返っており、さすがに静か過ぎるため人が居るのか不安になりいくつかの部屋を扉の小窓から見てみる。各部屋ではいろんな年齢の男性と若い女性との情事が繰り広げられ、刺激が強すぎたのかパルティが顔を真っ赤にしてブツブツと何か独り言を呟いていた。
「あれって彼等が言ってたお偉いさんかもね」
「接待ってわけか、それじゃ各部屋に必ず焚かれていたお香も何かしら理由があるのか?」
「たぶん催淫効果のあるお香だと思うわ、貴族のなかにはそういった物を好んで使う人がいるって話だし」
「ふ~ん」
長い廊下を進み曲がり角に差し掛かった所で人の気配を感じ鏡で確認すると、曲がった先にある奥の扉の前に2人の見張りが立っていた。
「どうする?」
「どうするもなにも、真っ直ぐ進むにしろ曲がるにしろ見張りをどうにかしないといけないのは明らかじゃない」
「いや、それは分かってる。そうじゃなくて、直進か曲がるかって話だ」
「それなら曲がりましょ、あの部屋だけ見張りがいるってのは気になるわ」
「了解、それじゃ手早く済ませるか。パルティ、パルティ」
「ふぁ、ふぁい!」
「おかえり、もう大丈夫か?」
「あっ、う、うん、なに?」
「俺の服装をあの見張りと同じ服装に幻視させてくれ」
「それだけでいいの?」
「あぁ、接近できればいいだけだからな」
「了解、・・・・こんな感じでいい?」
「よし、それじゃちょっと行ってくる」
テツヤは酷く慌てた様子で助けを求めながら見張りの方へ走っていき、少しざわめいてきたとたんに何かが廊下に落ちたような音がして辺りをまた静寂が支配する。何が起こったのか分からない状況を確認する為ポアラが角から顔を覗かせると同時にテツヤは何事も無かったかのように戻ってきた。扉の前の見張りはどう見ても立ったまま気絶している。
「気絶してるようだけど、どうなってんの?」
「この場からいなくなったり倒れたままだと遠くからでも何か起きてるってすぐバレるから、魔法で呪縛してから操作して立たせているってわけだ」
「そんな便利な魔法があるならもっと早く使えばいいのに」
「この魔法の発動条件とかが色々と面倒なんだよ。とりあえず強めの電撃で気絶させたから2~3時間は大丈夫だと思うが、早速この部屋を調べてみるか」
扉を開けるが中は部屋ではなく螺旋階段が下に向かって伸びているだけであり、下を覗いてみてもかなりの深さと明かりが無いことも相まって底の方は暗闇に閉ざされていた。魔法で明かりを灯し慎重に階段を下りていき、しばらくして何かの呻き声のようなものが聞こえてくる。下に向かうにつれその声は大きくなっていき、それに反比例するかのように俺達4人は誰も喋らなくなっていった。螺旋階段の底には1本の横穴があり、奥には扉が設置され声はその向こうから聞こえてきている。
「な、なんだよこれは・・・・!」
「「・・・・っ!」」
「うっ!!」
扉を開けた先で見たものは牢屋にいれられ虚ろな目をし涎を垂らしながら半狂乱状態で頭を壁に叩きつけている者、暴れまわっている者、身体中を掻きむしっている者といった多くの老若男女の凄惨な姿であった。
「迷いこんでしまったのでしたら早くお逃げ下さい、ここは研究と実験を兼ねた地下収容所です」




