第53話:暗殺者の実態
「う、う~ん・・私、いったい・・・・?」
「よっ、気が付いたか」
「っ!」
「そう警戒するなって、別に何もしていないしする気も無いから」
「・・・・本当でしょうね?」
彼女(?)は身を守るように腕を組んで胸を隠し訝しそうな目をしながらズリズリと後ろに下がっているが、隙あらばすぐにでも攻撃を仕掛けるという気配を漂わせている。
「止めておいた方がいい、怪我の治療は終わっているとはいえ体力の方は回復していないだろうからな」
「怪我? ・・・・っ! そうだ、私・・・・・・負けたんだ」
「明確な勝敗の付け方を決めていなかったが、これが死合だったら俺は君を殺すことが出来たという意味では俺の勝ちという事だな」
「そうね、それでどうして殺さなかったの?」
「言ったろ、聞きたい事があるって」
「その割には手足とか縛っていないのね、目覚めてすぐに私が逃げたらどうする気だったのよ?」
「その可能性も考えたが、逃げた場合怖くて逃げたとか有る事無い事言いふらすだけさ。そうすれば真偽はともかく君のルザートゥスとしての評価が落ちるだけという訳だ」
「なるほど色々と考えているのね。・・はぁ~分かったわ、胸を触られた事にはまだ思うとこがあるけどこれ以上ルザートゥスの名を落としたくないし。知ってる事は教えてあげる、それで聞きたい事って何かしら?」
彼女(?)が攻撃体勢を解き警戒を少し緩めて目の前に座ったので、俺もいざという時の為の臨戦態勢を少し崩してから聞きたい事を思案し話し始めた。
「それじゃまず、君が噂のルザートゥスで間違いないか?」
「どの噂を言っているのか知らないけど、ルザートゥスなのはたしかよ」
(という事はやっぱりご年配の方になり、そうなると見た目はお得意の幻ってとこかな・・・・はぁ~若い美少女じゃないのか)
「そんな難しい顔しちゃってどうしたの?」
「いや、あのさ。素顔を見せられないのは暗殺者なんだし解らないではないけど、出来れば年相応の姿になってくれないかな? あと喋り方も」
「年相応って何言ってるの? 昼間みたいに幻を見せてるわけじゃないし、今は素顔なんだけど」
(アンチエイジングってレベルじゃないだろっ!)
「なんか要領を得ないわねぇ、一体何が言いたいわけ?」
「えっと、ご年配の方にしては頑張っているなって・・・・」
「年配! 私が!? 随分と失礼な事言うわね、まだ16の私のどこが年配に見えるわけっ!」
「16っ!? いやいや、ちょっと待った。君はルザートゥスなんだろ?」
「えぇ、そうよ」
「だったら16はありえないだろ」
「なんでよ!」
「なんでって、噂のルザートゥスは数十年前から活動してるんだぞ、なのにそのルザートゥスである君が16は無いだろ」
「!! はは~ん、そういう事か。どうりで話が噛み合わない訳だわ、でも少し考えれば分かりそうなものなのにね」
「・・?」
「あなたが聞いているルザートゥスの噂は私のお爺ちゃんの事よ、つまり初代ルザートゥスの噂ってわけ。そして私は二代目ルザートゥスというわけよ」
一瞬目の前の人物が言った言葉で考えが停止しいきなり何を言ってるんだコイツという思いが駆け巡ったが、徐々に言葉の意味が浸透し考える事を再開させる事によってなるほどと納得させる事が出来た。
「そうなるとルザートゥスは君の爺さんの名前という事になるのか?」
「ううん、お爺ちゃんの名前は別。ルザートゥスはあくまで暗殺者としての名前よ」
「じゃ君の名前も別にあるわけだ、よかったら教えてくれないか?」
「パルティよ。敗者として知ってる事は教えるって言ったから教えたけど、パルティ=ルザートゥスというのは誰にも秘密よ。お爺ちゃんだって自分がルザートゥスというのは周りに秘密にしてたんだから」
「あぁ分かった、それは約束しよう。それじゃ次に、君に俺達を殺すように依頼したのは誰なんだ?」
「知らないわ」
「えっ? 依頼主を知らないって、じゃあどうやって依頼を受けたんだよ!?」
「そもそも依頼を受けたのはお爺ちゃんだもん、でもお爺ちゃん出発直前にギックリ腰になっちゃったから内緒で私が来たってわけ」
「でも君は昼間依頼理由は下らないって言ってただろ、それも依頼主に会っていなきゃ分からないんじゃないのか?」
「それもお爺ちゃんがそう言っていたからよ、だから依頼主ついてはどこの誰かも私は知らない」
勝負に勝ってなにかしら情報が手に入るかもと考えていただけあって、依頼主ついて何にも手掛かりが手に入らないというのは俺を落胆させるのに十分な状況である。仕方が無いのでその事についてはスッパリ諦めルザートゥスについて聞いてみることにした。
「君が使っていた分身とは何だ?」
「あれは、一言で言えば魔法ね」
「魔法?」
「えぇ、とは言ってもお爺ちゃんが使っていた分身と私が使っている分身は違う物だけど」
「それなのに同じ分身という名前なのか?」
「最終的に相手に与える効果が似たようなもんだし、ルザートゥスが使う技として相手を混乱させる為にわざと同じ名にしているのよ」
「どんなものか聞くことは出来る?」
「流石にお爺ちゃんの方は教える事は出来ないけど、私のだったら教えてもいいよ」
「ダメ元で聞いたんだが、ホントに良いのか? ルザートゥスの技なんだろ?」
「解ったところで貴方のあんな非常識な防御方法以外で防ぐ手段なんてそうそうないから」
彼女のあまりにも自信たっぷりの言葉で思わず納得してしまったが、内容が解っていたら防ぐ手段なんていくらでもあるもんじゃないのかという考えが湧いてきた。
「私の分身は魔法によって私の身体情報をコピーした魔力を物質化させた物よ」
「・・・・えっと」
「つまりにね・・・・」
彼女の説明を聞きそれを簡潔にするとファイアーボールやフリーズブリットなどで発生させた火球や氷球と分身は似たような物だという事になる。まぁ詳しく説明したら発生方法など違う部分もあるから枠組みで言えば違う分類になるわけだが。それにしても確かに彼女が言ったように解っていても防ぐのは難しそうだ。普通の魔法であれば対極にある魔法をぶつけて相殺とか出来るかもしれないが、これには対極となるものが無い。しかも魔法が物質化した物だからそれが倒されたとしても術者本人には何のダメージも無いが、物質化しているからあちらの攻撃は普通に喰らう。他に色々と対処を考えたが難点ばかり浮かび効果的なものは浮かんでこなかった。
「どう、解ったところで対処は難しいでしょ?」
「たしかに。今のとこ浮かんだ対処が俺がさっきやったことだけだが、万人が出来なようじゃ効果的なものとは言えないか」
「そういうこと、それで他に何か聞きたいことある?」
「他には・・・・」
その後しばらく噂ではなく生のルザートゥスの話を聞いたりして暗殺者とはいえその強さにはかなり興味が湧きかなり盛り上がっていった。
「さて、随分と盛り上がったけどもうこの辺でいいかな?」
「あぁ、かなり興味深い話ばかりで楽しめたよ」
「私もお爺ちゃんの事は周りに秘密にしなきゃいけなかったから自慢話が出来て嬉しかったわ」
「そっか、それで君は今後どうするんだ? また依頼でも受けるのか?」
「とりあえず、家に帰るわ。お爺ちゃんに内緒で出てきちゃったから心配しているかもしれないし」
「今度は敵として出会わない事を願っているよ」
「そうね、でもその時は今度こそ私が勝ちますからね」
一応お別れの握手をと思い手を差し出そうとした瞬間背中に寒気が走り咄嗟に後方へ跳ぶと、一瞬前まで俺が立っていた場所に何者かが飛び込んできて攻撃を仕掛けいた。
「パルティ、無事かっ!?」
「お、お爺ちゃん!!」
お爺ちゃんという言葉で彼女の身内なのは理解出来たが、凄まじい殺気を身に纏い圧倒的な存在感を示して俺を睨んでいるにも関わらず今にも夜の闇に溶けてしまいそうな希薄さという二面性がよりいっそう不気味さを強調し俺の頭の中で危険を知らせる警報がMAXに鳴り響いていた。




