第49話:天国と地獄
突然軽い衝撃が走り、何かがのしかかるような重みと連続的に微弱な衝撃がお腹にあたる。まだ寝ていたいという衝動はあったが何事か確認する為に瞼を開けてみると、お腹の上に幼い女の子が跨って楽しそうにはしゃぎながらポコポコと俺のお腹を叩いていた。
「おっきろ~♪ おっきろ~♪ おねぼうさん♪」
「・・・・・・」
「おっきろ~♪ おっき・・・・あっ!」
女の子は俺と目が合って少しビックリしたようだが、俺が起きたことが分かりお腹から飛び降りてピュ~っと部屋から出て行く。
「ゴー兄ちゃん! おねぼう兄ちゃんが起きたよう!」
「そうかそうか、起こしてくれてありがとな」
「ほめてほめて~」
「よーし、頭を撫でてやろう」
「えへへ~♪」
何やら和やかな会話が聞こえてきたと思ったら鍋を持ったゴードンとその横に先程俺のお腹の上ではしゃいでいた女の子が皿を持って部屋に入ってくる。
「よっ! 起きてるようだな」
「あ、あぁ」
「おきてるよ~、メロディがちゃんとおこしたもん」
「悪ぃ、ちょっとテーブル出すからそこ退いてもらえるか」
場所を譲るとゴードンはテキパキと畳んであったテーブルを出して鍋を乗せ、女の子は皿を並べ終えると「お姉ちゃん達呼んでくる~」と言って部屋から出て行った。
「ホントはもう少し寝かせといてやりたかったんだが、よくよく考えたら皆で食事出来る場所ここしかないんだよな。とりあえず、表で顔洗ってきたらどうだ?」
ゴードンに促され若干寝ぼけ眼のまま外に出ると、シエル達が呼びに行った女の子に手を引かれながこちらに向かってきている。
「おはよう、なんかまだ眠そうねぇ」
「・・・・むしろあれだけ飲んでなんで平気なのか聞きたいよ」
「お酒・・強いから」
「そんな事より早く顔洗ってその眠そうな顔どうにかしなさいよ、これから朝食なのにそんなだらしない顔してちゃダメだからね」
シエル達は家に入って行っていき、俺は川の水を利用して作られた水場に向かう。水場には農作業(?)等を終えた子供達が手を洗いながら楽しそうに水遊びをしており、そんな子供達を一瞥して顔を洗った後にある事に気付いた。
(タオル持ってくんの忘れてたなぁ、このままで戻ったらま~たシエル達に何か言われそうだし・・・・どうするか)
色々と考えているうちに誰かが服を引っ張っていることに気付きそちらを振り向くとメロディがタオルを差し出すように立っている。どうやらわざわざタオルを持ってきてくれたようで、それを受け取り頭を撫でてあげると嬉しそうに顔をほころばせた。
家に戻って食事を済ませ、ゴードン達が片付けをしているところを横目に今日の予定はどうするかという話になる。
「昨日の話にあった人を探すの?」
「そうだな、状況と現在はどうなっているのか知りたいし」
「似たようなケースなら結果も同じようなものになるかもしれないし、そこから今回の依頼の今後を推測していくってわけね」
「あぁ、結果が少なからず悪い方になるなら俺達の行動も急がないといけないから」
「だったら俺がその話を教えてくれた人まで案内するよ」
いつの間に片付けを終えたのかゴードンが会話に混じってきた。
「お前子供達の保護者だろ、ここをしばらくの間留守にしても良いのか?」
「たしかに長い時間離れるのは問題だ。だから俺とテツヤで街に行って、シエル姉達に留守番をしてもらおうかと考えているけど・・どうだろう?」
「私はそれでも良いよ、というかあの兵士達を見たら気分が悪くなるからあんまり行きたくなかったし」
「私もそれでいいわよ、少しやってみたいことがあるから」
「ていうかゴードンは良いのか? わざわざ俺達の為にそんな事までしてくれて?」
「もともとは買い出しのついでさ、だからテツヤには荷持持ちを手伝ってもらうぜ」
予定が決まった後はスムーズに準備を行い、その最中にポアラが以前使った重力魔法の詠唱を教えてくれと言ってくる。どうやら彼女のやってみたい事とは魔法の習得だったようで、俺の方も特に隠す必要が無いので詠唱と制御・応用を教えゴードンと共に街へ向けて出発した。
「それで、いったい誰から聞いたんだ?」
「・・・・兵士だ」
「領主に関係あるような事を兵士が話すのか?」
「そいつとはガキの頃からの親友でな、それに兵士と言っても『元』だ」
雑談を交えながら歩いているうちにとある家の前に着き、ゴードンはおもむろに扉をドンドン叩き出す。
「おーい! ゴードンだ、ナタルは居るかー!?」
声を上げてから扉を叩くのを止めて間もなく一人の青年が欠伸をしながら顔を出してきた。
「何の用だよゴードン、こっちは遅くまで仕事していたからまだ寝てたんだぞ」
「悪ぃ悪ぃ、ちょっとお前に聞きたい事があってな」
「聞きたい事だぁ、下らない事だったらぶっ飛ばすぞ」
「以前聞いた行方不明者の事なんだが」
「っ! ・・・・・・入れ」
家の中に通され辺りを気にしながら窓を全て閉めてしまう。
「その前に、隣にいる奴は誰なんだ? この話をして大丈夫なんだろうな?」
「こいつはテツヤ、先にテツヤの事情を話した方が良いんじゃないか?」
ナタルは何かを警戒しているようなので俺から先に自己紹介と受けた依頼やその為にナタルが持っている情報が聞きたいという事を話した。
「なるほどな、たしかに似たような状況のケースを俺は知っている」
「そう、その話を聞きたいんだ」
「状況をほぼ同じなようだから省くが、その先の結果を言えば娘について領主の家に訪ねてきていた人達もいつの間に行方不明になった」
「訪ねてきた人達も!?」
「あぁ、始めこそそれらは兵士の間で噂になったが、緘口令が出されてしだいに噂も自然消滅していったよ」
「そっか・・」
「俺が知ってるだけで同じケースが4~5回あって、どれも同じような結果で終わっていったよ。お陰で俺は兵士でいるのが嫌になって辞めて実家を継いだってわけ」
ナタルの話を聞き終え、お礼を言ってから家を出て買い出しに行く。途中の通りでなにやら騒ぎが起きていたので覗いて見ると、目の焦点が合っていない20~30代の男が何やら大声で叫びながら剣を振り回して誰もいないところを斬り付けていた。
「ちっ! 魔薬中毒者かよ」
「魔薬?」
「本来ならこの国では扱いが禁止されている『ヘブン』と呼ばれる依存性が強い違法薬物。それを摂取すると全てから解放されたような充足感や快楽を得るらしいが、摂取し過ぎて薬が切れた時はあんな風に幻覚・幻聴など様々な症状が出て最後は廃人になるのさ」
(元いたとこの麻薬と同じようなものか・・)
受けた依頼がそれ程進展せずその事で頭がいっぱいだった為、目の前の事件を関係無いとばかりに他人事のように眺めていた。




