終章
~~終章~~
「……なにもその歳で人間止めることないでしょうに……」
青海学園2年D組担任、吉崎美和。27歳。永遠なる独身(本人談)にして謎のリーサルウェポン。
久々の登校だっていうのにその挨拶はなんだ? もうちょっと温かい言葉を吐きやがれ、この鬼畜教師がッ!
「おはようございます、先生! これお土産です!」
加奈美と綾子が段ボール(饅頭と酒と
海産物が入っているらしい)を渡した。
「……まあ、確かにお土産は要求したけど、ここまでしなくても良かったのに……」
「いえいえ。先生に借りた恩はこれでも足りないくらいですよ」
なんでもオリハルコンの剣やMG-X1を用意してくれたのは美和なんだってさ。
……まあ、どうやって用意したかは教えてくれなかったけどな…
「それにしっかり遊んだお裾分けです」
高校2年。17歳の夏である。とことん遊ばなくていつ遊ぶ!
食べて遊んで花火見て。25日間を遊び抜いてやったぜい!
まあ、彼女ができなかったのが唯一の心残りだが、人生はまだ続く。いくらでもチャンスはあるってもんよっ!
「それはなによりで。でも、鬼軍曹の真子が良く許したわね? 『次回の作戦が決まるまでは訓練よ! 覚えることは沢山あるんだから!』って、いわれなかった?」
さすが従姉妹だけはある。25日前にいわれたとのとまったく同じだぜ。
「いったよ。うるさいくらい」
「ほんと、凄かったです」
「うんうん。骨折してるのに戦闘機に乗って追いかけてくるんだもんね~」
「しかもミサイルまで撃ってくるんだから非常識な女だぜ」
「非常識なのはお前だ。撃ち落としやがって」
「ちゃんと降下部隊用の甲殻プロテクターを着てんだ、なんの遠慮があるってんだ」
それに逃れるように翼を撃ってやったんだ、それで死ぬならそこで死ねだ!
「……真子に同情するわ。あんたたちのお守りをしなくちゃならないんだから……」
失敬な。こんな優しい男に向かって。
「それより、戦いはどうなったの? 不可侵の壁はまだあるようだけど?」
「森の3分の1を消滅。破壊の樹は完全破壊。魔王ゼイアス軍を半減させてやったよ」
あとちょっとというところで魔竜将とかぬかす4人が出てきて魔将や魔獣を統合して破壊の樹があった場所に『魔城』を造って立て籠ってしまった。
まったく、どこまでも用意周到な魔王だぜ。まだあんな隠し手を持ってやがんだからよ!
まあ、レルバードシル程強くはなかったし、魔城の防御も結界だけだったが、24体の竜機兵と残る魔将、そして数万もの魔獣ども。エルクラーゼを失ったおれらには厳しすぎる。無理と判断して退くことにしたのだ。エルクラーゼが復活するのに半年はかかるからな。
ばーちゃんの"魔眼"での見立てでは、どうも魔王は死んでないみたいで、不完全ながらも新しい体を手に入れたようだ。まあ、それがどんなかまではわからないらしいがな。
「あれだけ暴れてそれだけなの? 国民が知ったら暴動ものよ。あの作戦をやるのにいくらかかっていると思っているの!」
「知るか! おれたちはおれたちの仕事をしたんだ、文句があるならテメ───」
ぴろろろ。ぴろろろ。
と、5つの携帯電話が一斉に鳴り出した。
「なんなの、その携帯の合唱は?」
「真子に無理やり渡されたんだよ」
鞄の奥に突っ込んだ携帯電話を取り出し、1番最後に通話ボタンを押した。
「はい、風間です」
「───本部よりティンカーベルに指令。45地区に魔将ベルリアを確認。聖魔隊はA6作戦で対処されたし───」
と、いって切れてしまった。
……なんだ、A6作戦って……?
そんな疑問を乗せて睦月を見た。
「……やっぱり聞いてなかったか、お前は……」
「おい、長津。こいつはバカか? あれだけ柊さんが念を押していたのに……」
「興味がないことには一切脳細胞1つ使わない男なんだよ、忍って男は……」
失敬だな。興味がないことは忘れる主義なだけだ。
「良いか、忍。簡単に説明する。あの戦いで壁を越えた魔将が2名いる。それを殲滅するのがA計画で新しく設立された機動甲殻隊、今回は林さんが先に出撃してぼくらベルが到着するまで時間を稼ぐ。で、ぼくらベルが到着したら魔獣やら魔将を倒す。それがA6作戦だ」
「そんなの甲殻連隊や降下部隊の仕事だろう。給料分は働けよ」
「……そ、それすら聞いてなかったのか、こいつは……」
「特務甲殻師団は解体され新しく編成されて特殊甲殻機動師団になったんだよ。ほら、あれを見ろ!」
つられて見ると、戦闘機にしては丸っぽく、ヘリにしては速いものが見えた。なんだアレ?
「ライラさんが造った飛翔機だ」
あの人、いろんなもん造るね~~。
「にしても、高校生は勉強するのが仕事だぞ。作戦に入れてんじゃねーよ」
説得力はありませんけどねー。
「なにいってるの。世界の平和はあんたたちの肩にかかっているのよ。とっとと行ってとっとと殺してきなさい。じゃないと男子空手部まで滅んじゃうでしょう!」
ヤレヤレ。おれたちの命は男子空手部存続より軽いってよ。この鬼畜教師がッ!
「……しょうがない、やるか───」
5つの光が輝き、それぞれの魔闘衣を纏った。
「今時の高校生は恥じらいもないの?」
……しょうがないだろう! おれたちの戦いに耐えられる服がないんだからよ……
鬼畜教師の冷ややかな視線を無視して右手を突き出した。
「今日も戦って勝つぞ!」
おれ、ティンカーベル。
「ああ。今日も勝つさ
睦月、リルターベル。
「うん! 絶対に勝つもん!」
加奈美、バルタベル。
「はい。皆で勝ちましょう」
綾子、バルパーベル。
「勝つに決ってる!」
一樹、ティートベル。
重ね合う5つの手が光輝く。
まったく、おれたちと戦おうだなんてバカな魔将だぜ。だが、くるもの拒まず。おれの幸せを奪うことの罪深さを教えてやろうじゃないの。
「……良い? 終わったら帰ってきなさいよ。あなたたちはまだ高校生なんだから……」
そんならしくないことをいう美和にカッコイイ笑顔を見せてやる。
「おれたち青春ど真ん中。バイトに精は出しても命は懸けない。放課後までは帰ってくるよ、美和先生」
突き抜けるような青い空。まだまだ熱い夏は続くけど、哀しい夏は2度とこない。
加奈美がいて真砂美がいる世界で生きているんだからな。
『───明日を得るために(ベルフェルン)!』
5つの魂が青く清々しい空へと放たれた。
最後まで読んでもらえて嬉しいです。
本当にありがとうございました。
次は『聖なる空の天女たち』を終わらせないと。




