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第十章 其の2

      ○●○●○●○●○●



「グゥードゥ・グゥードゥ・ナル・ファファード・オーアル」


 襲いくる巨大な手に向けて光の網を投げ放った。


 これは帰らずの森を押さえる術と同じ系統で、竜機兵を押さえるために生み出したものだ。


 光の網に行く手を阻まれた竜機兵ライトバルは、必死に網を破ろうとしている。


「ここでは不利だ! 出るぞっ!」


 3人を促し外に向けて飛び出した。


「一樹。出たら綾子と合流しろ。加奈美と睦月は甲殻隊を下がらせろ。全員が下がったらエルクラーゼを呼ぶ!」


 仲間がいては思いっきり戦えないからな。


 ───バチィーン!


 チッ。もう破りやがったか、こん畜生め!


「ザ・ドゥーブゥ・バド」


 右手で4m程の増幅魔法陣を創りだし、


「バードゥ・ゴアラ」


 左手で1m程の光弾を生み出し、増幅魔法陣へと放った。


 6mまで大きくなった光弾がライトバルへと襲いかかり、大爆発を起こした。


 樹の破片やら爆煙やらと一緒に噴き出されたおれは、破壊の樹から距離を取る。


 トンネルの出入り口で更なる爆発が起こり、その中から巨大な手が突き出される。


 続いて蝙蝠を思わせる羽根が広がり、大地を引き裂く足が現れる。


 ビルさえも薙ぎたおせる尻尾が爆煙を振り払い、分厚い胸と凶悪そうな頭かわ世界に出現した。



《───愚かなるベルどもよ、我が怒りを受けるが良い───》



 グェオオオオォッ!


 大地を揺るがす程の咆哮をあげ、50mもある巨体を大地に突き立てた。


 ガイナーの記憶にあるライトバルと、姿も威圧感も全然違う。こんなバケモンじゃなかったぞ……。


 と、右胸の凹みに闇が生まれた。って、それはっ!?


「ジーザ・ジーザ・バルガ・ナーズ!」


 怨念になりそうなくらいの意思を込めて呪文を唱えた。


 それは、竜機兵ライトバルの超魔力砲───ジーナス。この『神の怒り』で破壊された城や要塞は100を超す。


 そんなもん放たれてはばーちゃんの結界があってもヤバいぞ!


 エルランが修得した最大奥義。最強の防御魔法陣を展開。そこに黒い帯が襲いかかった。


 超熱超圧超魔力。三位一体となった攻撃が激突。凄まじいスパークが起こり、防御魔法陣が崩壊。軌道を剃らして森の中へと消えた。


 と、音が消失。直ぐ様、音が襲いかかってきた。


 その爆発はミサイル100発にも勝る威力があった。


 ……673体もの竜機兵と戦ったシズマのベルたちよ。おれはあんたらを尊敬するぞ……


 と、第6感が逃げろと叫んだ。


 咄嗟に光の盾をかかげると、黒い弾丸が降ってきた。


 広範囲に降り注ぐ魔力弾から身を庇ったものの、その威力はダイナ・グライナー級。とてもじゃないが堪え切れない。10秒としないで大地に叩き突けられた。


 ……まったく、難儀なことに首を突っ込んだもんだな……


 それでも突っ込んだ以上、抜かなければおれたちに幸せはない。そうだ。愛や話し合いで解決できる相手じゃないんだ、遠慮も躊躇もしてられるかよっ!


「───おれの幸せを奪う者、それは敵だッ! ゼルナ・グライナー!」


 おれが出せる最強の光砲をライトバルに向けて放った───と、右手から、左手から、おれの後ろからと、4色の光が撃ち上がった。


 5色の光がライトバルの頭に直撃。その巨体を吹き飛ばした。


 ───チャンス!


「エルクラーゼ。おれの鎧よ、我が身を纏えっ!」


 神鳥の指輪が輝き出すと、光が上空へと放たれた。


 光の網に激突する寸前、光が消失───と、幾条もの光の帯が天を駆け出した。


 ───《聖光魔法陣》───


 100mもの光の魔法陣が完成すると、この7年、ガイナーを思い続けた結晶が降臨してきた。


 竜機兵にも負けぬ太い脚。真っ白な翼。2本の角を生やした鳥の顔。シズマの神鳥エルクにしてアルシャ王国の紋章ラーゼ。まさに剣王ガイナーに相応しい鎧であった。



(───5人のベルたちよ。我が思いに力を───)



「我が名は忍。この思いを継ぐ者なり───」


 エルクラーゼから放たれた光の帯に包まれた。


 永遠に包まれていたいと思う程の心地好さが消えると、目の前にライトバルがいた。


 ……ふむ。確かに纏うとはいったが、まさかエルクラーゼと一体になるとは思わなかったよ……



《───愚かなるベルどもよ。まだ抗うか───》



 声のような思念がおれの頭に届いた。


「ケッ! それはこっちのセリフだ! テメーこそ諦めて降参しやがれっ!」



《───愚かなり。以前、我が身の不甲斐なさにどういった結末を迎えたか忘れたか───》



「愚かはテメーの方だッ! 総入れ替えしたベルを甘く見るんじゃねー!」



《───ならば、どちらが愚か力で決めようとしましょう───》



 ライトバルの右胸の凹みに闇が収束。ジーナスが放たれた。


「ダナ・ジーン!」


 あちらが神の怒りでくるならこちらは『光の手』で受けてやんよっ!


 右の掌から撃ち出された光砲とジーナスと激突。巨大な光爆を生み出した。


「忍。こんな超がつく戦いをしていたら導師の結界まで吹き飛ばすぞ!」


 体の中から睦月の声が発せられた。


「そうだ、風間。相手の隙を突け」


「だな。こんな戦いしてたらこっちが破壊者だ」


 底なし同士が延々と戦ってたらこの国がなくなってしまう。なるべく帰らずの森内で収めましょう、だ。


「剣よ。おれの剣よ、出てこい!」


 かかげる右手に神鳥の剣───『ルクシャー』が現れる。


 大巫女フィンカーが祈りで鍛えた剣王だけが振れる剣王だけの剣だ。


 あちらさんも黒い剣を出現させ、こちらを伺っている。


 と、50mもの巨体がウソのように舞い上がり、20mもの剣を稲妻のように振り下ろした。


 衝突する剣と剣。飛び散る火花。生まれる波動。もはやこの戦いに小規模はない。あるのは甚大な被害だ。


 上段から振り下ろすルクシャーを交わすかと思えば胴払いで斬りつけてくる。流れるむような動きは1流の剣士であった。


「───うがぁあぁぁっ!」


 突然、背中に痛みが走った。って、尻尾攻撃かよっ!?


 まあ、それは良い。尻尾を失念していたおれが悪い。だが、なんで痛みまで伝わってくんだよ!? 反則だろうがッ!


 痛みと怒りで次の行動を忘れてしまい、ライトバルの拳を顔面に受けてしまった。


「風間、くるぞ!」


 くるといわれても目がチカチカしてどこからくるかわかんねーよっ!


「忍、デルムだ!」


 リルターベルの技───そうだ、忘れてた!


「デルム!」


 エルクラーゼから魔風が放たれる。


 5人で動かすということは5人の力が使えるということ。そうなるようにフィンカーが創ったのを忘れてたぜ。


 ようやく視界が回復してきてライトバルが大地に倒れているのがわかった。


「ナーヤ!」


 すかさず氷の礫を放って動きを封じようとしたが、さすが最強の竜機兵。鋼鉄をも噛み砕く口から火炎を吐いて溶かしてしまった。


 さすがだ! だが、そのくらいで動じたりはしない。大地を蹴ってルクシャーを振り下ろしたが、紙一重で避けられてしまった。


 再度、ルクシャーを振るうが、出だしが半歩だけ遅く、回避されるのがわかった。ならばと、回し蹴りにチェンジ。ライトバルを蹴り飛ばしてやった。


 だが、それで終りではない。蹴った右足で大地をつかみ、ルクシャーを薙ぎ払った。 


 砕ける胸甲。これで怒ることはできねーぜ!


「忍先輩。破壊の樹が大変です」


 振り返って見れば破壊の樹が黒い霧に覆われていた。


「……なんか、最悪って感じるのはおれの気のせいか……?」


「いや、ぼくもそう思う」


「……どうしよう、お兄ちゃん……」


「とりあえず、聖なる魔を放ったらどうでしょう。さっきも炎を放ったら邪悪なる魔が消滅しましたから」


 ということは、より強い聖魔を放ってば良いワケだな。おしっ!


「ライナ・ロスナ・ベル・バラーズ!」



 ───聖光魔法陣五聖砲───



 訳せばそういう名で、5つのベルの力を一気に放つ魔鋼機エルクラーゼの必殺技だ。


 ジーナスの3倍の威力があり、数多くの竜機兵を葬ってきた術である。


 絡み合う5色の魔力が一直線に駆け抜け、黒い霧に直撃した。


 爆発は起こらなかったが、幾ばくは消滅した。


 まあ、威力があるのかないのかイマイチわからないが、効くのは効いている。ならば、どんどん撃てだ?


「ライナ・ロスナ・ベ───」


 途中で第6感が逃げろと叫び、体が反応した。


 視界の隅を黒い帯が駆け抜けて行くのを認識しながら放たれた方向に目をやると、ライトバルがこちらに駆けてくるところだった。


 おのれライトバル。おれ以上に諦めが悪い野郎だぜ。素直に死んでやる優しさはないのかよ!


 自分でも驚くスピードで体勢を戻したが、敵はそれ以上のスピードで詰め寄り、振り上げた黒い剣を振り下ろした。


「───うがぁあぁぁぁぁっ!!」


 右脚に表現できない痛みが生まれた。


「風間、くるぞ! 根性だせッ!」


 世の中根性で解決できるなら世界は平和だ、こん畜生がぁあぁぁぁっ!


 痛みを恨みで塗り潰し、ルクシャーを一閃。弾かれるがまた一閃。更に一閃。ライトバルの右手首を斬り落とす───が、それで終りではない。翼を羽ばたかせ、ダナ・ジーンでその首を減し折ってやった。


「まだだ! この恨みはこんなもんじゃねーぞ!」


 残った左足で大地をつかみ、ルクシャーで吹き飛ばしてやった。


「死ねや! ライナ・ロスナ・ベル・バラーズ!」


 5色の光がライトバルを包み込み、世界を光で染め上げた。


「ケッ! あの世で悔い改めやがれッ!」


「───忍先輩。破壊の樹が!」


 いわれて振り返れば絶句もの。誰か冗談といってくれ……。


「……ま、幻、じゃないよな……」


「……現実だ……」


 やっぱり。破壊の樹の側にいる数十体もの竜機兵は……って、黒い霧が竜機兵になってんじゃねーか?!


 お、おにょれ腐れ魔王め! まだそんな隠し種を持ってやがったのかよ……。


「畜生が! これ以上どうしろっていうんだよっ!」


「じゃあ、逃げて勝ちましょう」


 綾子が自然にいい出した。


「どういうこと、綾子ちゃん?」


「ここは1つ、破壊の樹だけ吹き飛ばしましょう。樹の中からドカーンと。そうしたら竜機兵も生まれないんじゃないんですか?」


「で、でも、あんなの残したら不味いんじゃない?」


「あたしたちは神さまでもなければ救世主でもない。ただ、明日が欲しいだけの小さな存在です。欲しいものを欲しい分だけ頂いた。これ以上欲張ったらいけないわ」


 全員が沈黙する。


「……ま、まあ、綾子のいう通りだな。なんでもかんでもおれたちがやることはない。バイトはバイト。命まで懸けてられるかだ」


 人類皆兄弟。生きるも死ぬも皆一緒。全員で明日を築こうじゃないの?


「ライナ・ロスナ・ベル・バラーズ!」



      ○●○●○●○●○●




読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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