第一章 其の3
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やっと見知ったところまで帰ってきた。
いや、いつものことながら遠くまで走ったものだ。まさかフルマラソンをやっていたとは。自分の集中力(現実逃避ともいう)が怖いよ……。
「ふー。喉が乾いたな」
なにか飲むかと自販機を探すと、公園の向かいにある酒屋を発見した。
そこにするかと近くと、なにやら公園にたむろするケダモンが視界に入った。
いつの時代になっても滅びない馬鹿ども。なにもこんなご時世に出てこなくてもいいのに……って、だから馬鹿っていうのか。納得───している場合ではない。絡まれてる女の子を助けねば。
「コラコラ、そこの若人たちよ、嫌がる女の子を無理やり誘おうなんてゲスのやることだよ。男ならいい寄られるくらいになりなさい」
……もっとも、実行しても邪魔されるんだけどな、おれの場合は……
「あぁあっ! なんだテメー?」
「邪魔なんだよ、あっち行ってろ!」
鋭い目で睨んでくるが、加奈美の嫉妬に狂った眼光に比べれば天使の眼差しである。
……ああ、あれは凶器だ……
「あ、すみません。助けてください」
と、ケダモンに囲まれていた女の子が助けを求めてきた。
……気のせいかな? この娘、妙に落ち着いてません……?
女の子の年の頃は、加奈美と同じか下って感じ。髪は短くてボーイッシュな雰囲気だが、その可憐さはなくなってはいない。加奈美にも負けない美少女である。
ちょっとタイプかも。テヘ☆
「なに笑ってやがる! 殺すぞッ!」
「失礼した。つい本音が顔に出てしまった。で、だ。ここは平和的に話し合いで解決……は、無理だよね。その小さなオツムでは……」
わかってはいるんだけど、せめて人間扱いしてやらないと可哀想じゃん。
「ケンカ売ってんのか、テメーッ!」
「死ぬまで泣かすぞッ!」
ヤレヤレ。思った以上にオツムが小さいようだ。これならまだ原始人の方が賢いぞ。いやまあ、原始人についてそんなに詳しい訳じゃないけどねー。
「おれさ、弱い者イジメって嫌いなんだよね。あんたらだって強いヤツにイジメられんの嫌だろう?」
「っざけんなッ!」
懇切丁寧な説得にも関わらず、馬鹿どもが襲いかかってきた。
嫌になるくらいゆっくり。こんなの瞼を閉じてても避けられるぞ。
右に左に避けるが、誰1人当てることができない。まったく、貴重な体力を無駄に消費してるよ。おれを含めてな……。
「まだやる?」
開始して5分。馬鹿どもが息切れし、更に5分後には、地面に崩れ落ちてしまった。
「ったく。いい若い者がだらしない」
おれ、17歳。まだまだ元気です!
と、崩れ落ちた1人が立ち上がった───と思ったら、なんのことはない。逃げ出しただけであった。
根性がないなと見送っていれば、残りも逃げ出してしまった。
……ウム。群れの習性ってやつだな……
遠吠えを聞きながら自販機に移動した。
さて。なににしようかな~? よし。エネルチャージXにするか。
「くぅ~~! この1杯がたまらんぜい!」
などとおやじモードに入ってしまうおれであった。
「……あ、あの……」
なにやら横から声がして振り向くと、女の子が……って、そういや助けたんだっけ。
「ごめんごめん。すっかり忘れてた。ケガとかなかった?」
「はい、大丈夫です。助けていただいてありがとうございました」
なかなか笑顔がグーですな。
「いいよ。お礼なんて。おれが勝手にやったことだからさ」
素っ気なくいってエネルチャージXを飲み干した。
さて。喉も潤ったし、我が家まであと数㎞。加奈美の手料理が待っている。あんな妹でも料理の腕は最高なのだ。
「じゃーな。早く帰りなよ。本当のケダモンがくる前にな」
女の子に別れをいって駆け出した。
「あ、あの───」
後ろから声がかかるが、気にせず角を曲がった。
駆けること数百m。前方からガタイのいい男が駆けてくるのが見えた。
「───綾子ぉおぉぉぉっ!!」
突然の叫びに体が勝手に反応し、その場から塀に跳び退いた。
なにか、加奈美の『お兄ちゃーん!』に似てたからさ……。
男はおれなどいなかったように走り去って行った。
「……うん。見なかったことにしよう……」
それが幸せに生きるコツである。
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ありがとうございました。