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第九章 其の2

      ○●○●○●○●○●



 GXモドキで空を飛ぶ腐れども薙ぎ払うこと3分。帰らずの森の名所へと辿り着いた。


 破壊の樹を守る『レルバード・シル』のテリトリー『破王陣はおうじん』だ。


 対ベル用に創られたものらしく、この領域で聖なる魔は掻き消されてしまうのだ。


 ……まったく、厄介な陣をこしらえてくれたもんだよ……


「しかも、こんなに腐れどもを用意しやがって」


 破壊の樹まで約500m。下の草が見えない程の数に胃が痛くなってきた。


「お帰りなさい、わたしの可愛い坊や」


 と、半透明の女魔将が進み出てきた。


 前は良く観察できなかったが、こうして見るとかなりの美人さん

だな。まあ、年上という時点で敵だがな。


「なにもここまで歓迎してくれなくても良かったのに


「ウフフ。気にしないで。坊やを可愛がるのがわたしの趣味だから」


 ……おれの近くにいる年上の女はこんなんばっかり……


「か、可愛がるのは良いからエルクラーゼを返してくんないかな?」


「ごめんなさいね。返すと怒られちゃうの」


「あ、そっ。なら───」


 話途中でミサイルが至近に撃ち込まれた。


 爆発すると同時に腐れどもの中に飛び込み、残りの弾丸を女魔将に食らわす───が、やっぱり通り抜けてしまった。


 さすが半透明。物理攻撃は無理か。ならば構ってても時間の無駄。予定通り"攻撃目標"に向かいましょうか。


 この破王陣、レルバード・シルが自ら張っているのではなく、魔法陣と魔導具の組み合わせでできてるらしい。


 魔法陣の各所にある魔石が聖なる魔を吸い取る装置で、それを壊せばベルの力が使え、エルクラーゼの位置がわかるらしい。ただ、魔石の位置がわからないから自力で捜してくれとのことだった。


「クソッ! なんでそこで文句をいわなかった、バカなおれよっ!」


 なんとかなるだろうと軽い気持ちでいたが、こんな魔獣の海からどうやって捜せっていうんだよ、こん畜生がッ!


「オホホ! 捜しものは見つかって?」


 物理攻撃がまったく効かない女魔将。弾丸が飛び交う中で平然と立っていた。


「テメーは後で必ず泣かしてやるっ!」


「ウフフ。わたしは坊やを鳴かせたいわ───」


 振り上げた手からなにか白いものが噴き出した。


 弾丸を食らわせながら襲いくる白いものを避けたが、完全には避けられず、右腕を掠めた。


「───ッ?!」


 頭で理解するより第6感が理解し、右腕の甲を強制排除した。


 大地に落ちた右腕の甲が酸でも浴びたかのように溶けて行く。


 ───チッ! この女魔将破魔使いだったのかよっ!


「あらあら、勘の良い坊やだこと。でも、次はどうかしら?」


 向けられた人差し指から『破魔の矢』が射られた。


 反射的に左腕に仕込まれた甲殻の盾を展開するも一瞬にして霧散してしまった。


 おれの烈光の矢に匹敵するスピードと威力だな、こん畜生めッ!


「本当、いたぶり甲斐がある坊やだわ」


 文句をいってやりたいが、避けるのがやっとで意識を回すことができない。


「畜生がッ!」


 GXモドキで大地を撃って煙幕を張って逃げ出した。


 腐れどもを撃ち殺しながら注意深く大地に目を向けるが、全然それらしいものが見つけられない。って、埋まってたらどうしよう!


「オホホ! 見つけたわよ、わたしの坊や」


「勝手に決めるなッ!」


 無駄と知りながらも弾丸を撃ち込むが、やっぱり通り抜けて後ろの魔獣を殺すだけだった。


「クソったれがッ! 結界が解けたら真っ先に殺してやるからなッ!」


「その前にわたしが殺してあげるけどね」


 撃つ避けるの繰り返し。あーもー! 誰かなんとかしてくれぇぇぇっ!


「───いゃあぁぁぁっ!!」


 と、突然、女魔将が悲鳴が轟いた。


 振り返って見れば半透明の体が消えて行くではありませんか。どーゆーこと?


「よくもあたしのお兄ちゃんをいじめてくれたわね! このクソババアがッ!」


 声がした方を見れば少し離れたところに加奈美が立っていた。なぜかオリハルコンの槍を大地に突き刺して……。


「……か、加奈美……?」


「お兄ちゃんが戦ってたのはこいつの影よ」


 その視線の先、加奈美の足下にしわくちゃのばーちゃんが倒れていた。


 まさに一撃一殺。なんの躊躇も手加減もない1刺しであった。


「お兄ちゃんは先に行って! 魔石はあたしが破壊するから!」


「行けといわれて行けるかよ!」


 次々と襲いくる腐れども。とてもじゃないが槍1本で対処できる訳がない。このまま残したら確実に殺されるぞ!


「大丈夫! あたしの方の甲殻隊がもう直ぐくるし、このクソババアを刺したときに魔石の位置は見れたから!」


 ……え、えーと。それはつまり、心が読めるってことですか……?


 って、見られていたのか? 筒抜けだったのか? 文字通りおれの心はガラスの心だった───いやいや、今は忘れろ。そんなことに血の涙を流している場合ではない。今動かなければ明るい未来はやってこないのだ、動け、おれっ!!


「……わかった。ここは任せる。おれの"発信器"だ。絶対に死ぬなよ!」


「もちろんよ! お兄ちゃんを残して死んでられますか!」


 発信器を受け取った加奈美は、鬼神のごとく魔獣の群れに突っ込んで行った。


 もはや恐れるに値しない腐れどもに残りわずかになった弾丸をくれてやった。


 GXモドキを解除。破壊の樹へと駆け出す。


 ベルの力を切り、おのが魔力と体力で腐れどもを斬り殺していると、後ろで大地を揺るがす程の爆発が起こった。


 更に爆発。更に更にで爆発。連続で2回。おれと加奈美に与えられた発信器の数だけの爆発が起こった。


 元々手持ちの武器で魔石を破壊できるとは思ってない。絶対に防御されている。だからそれぞれ発信器を持ち、見つけたら発信器のスイッチを入れてミサイルで壊す作戦だったのだが、こうもあっさりと破壊されると今までの苦労はなんだったと、つい考えてしまうよ……。


「ダイナード!」


 このやるせない気持ちを攻撃に変換して腐れどもを薙ぎ払ってやった。


 破壊の樹までの道ができる。


 超魔の鎧を脱ぎ捨て、ライラさんに頼んで創ってもらった"魔闘衣まとうい"へとチェンジした。


 強度的には甲殻鎧に劣るが、動きやすさでいえばこちらが断然上。着心地もこちらが良いのだ。



(お兄ちゃん、上から声がする)



 おれには聞こえないが、懐かしいような切ないような、なんとも心が重くなるような"思い"は感じ取れた。


 光の翼を広げ空へと舞った。


 破壊の樹の高さは約400m。太さは300m。樹というよりは森の塊といった方が良いくらい。本当。伐採できるのか不安になるくらいの存在感である。


 100m程上昇すると、ぱっくりと口を開く穴が現れた。


 直径50mの円形の穴の奥からエルクラーゼの"鼓動"が聞こえてきた。


 その鼓動に誘われるかのように穴の中へと引き込まれた。


 樹が絡み合ったトンネルには、光る苔が付着していて仄かに明るかった。


 奥に進むにつれ、鼓動が思いが強くなってくる。


 ……なんだろう。邪悪なる魔が満ちているのに妙に心が安らぐんだが……?



(……きて。ここにきて……)



 と、女の人の声が心に届いた。


 トンネルが切れると、野球場くらいの空間が現れた。


 なにもない空間。されどベルの力をなくした時点で消滅しそうなくらい濃密な邪悪なる魔が充満していた。



(……やっと。やっときてくれたのね……)



 声がした方へと目を向けると、20歳前くらいの女の人が樹に絡められていた。


 腰まで流れる乳白色の髪に若草色の瞳。壊れそうな程細い体に病的なまでに白い肌。薄れる記憶の中にこの人とは正反対だが、同じ顔をした女の人が浮かび上がった。


「───!?───」


 って、おい! この人、ティンカー・ベルと同じ顔じゃねーかよっ!!


 ど、どういうことだよ、真砂美!? そんな記憶、"ガイナー"や"エルラン"からの継承にはなかったぞっ!



(───ごめんなさい。わたしが封印してました───)



 え? ティンカー? ティンカー・バスト?!


 とても健康的な体と活き活きした瞳が印象的な女の人が心の中に現れた。



(はい。そうです)



 と、見知らぬ記憶が津波のように押し寄せてきた。


 ティンカーとガイナーの関係。魔王との戦い。苦しみや哀しみが心に焼きついた。


 ……双子? ティンカーとこの女の人───"フィンカー"が、双子……!?



(……はい。エルク神の大巫女でわたしの唯一の肉親です……)



 だからか。だからティンカー───ガイナーの魂がなければ動かせないのか……。


 しかしなんだ。ベルには三角関係やら同族愛が多いな。まっとうな"融合"がないじゃねーか。どいつもこいつも競うように愛する人の魂になりやがって。それが愛というなら悲しすぎるぞ……。



(……ガイナー。わたしのガイナー……)



 フィンカーの求める瞳にティンカーの嫉妬が燃え上がる。


 ば、ばーちゃん。神に戦いを挑むような女と神を捨てるような女を相手にどうしろという。おれはそこまで女を知ってないぞ……。


 と、背筋が冷たくなる程の"邪悪なる魔"がおれを突き刺した。


 ……なっ、なんだ、この心臓が潰れそうな凶悪な魔力は!? 意識を集中してないと発狂してしまいそうだぞ!


「……ついにきましたか……」


 やや上から男の声が流れてきた。


 根性を総動員して上へと視線を向けると、 灰色の髪に金と銀の瞳を持つ、30代半ばの男が立っていた。


「……レ、レルバード・シル……」


「ようこそ、ティンカー・ベルどの……」



      ○●○●○●○●○●



 

読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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