第八章 其の5
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「生傷が絶えぬな」
おれは指定席となった中央司令部の屋上。
ブルーな気持ちで夜風を浴びてると、ばーちゃんが気配もなしに現れた。
ティートベルの力を受け入れた一樹の強いこと強いこと。最初に痛めつけてなかったら確実に死んでたぞ、おれがなッ!
「笑いごとじゃねーよ! あれで時給1000円じゃ割りに合わねーよ! 賃上げを要求するっ!」
「ああ。1日で2人もベルにしてくれたのだ、胸を張って要求するが良い」
ばーちゃんの言葉に胸がチクリと痛んだ。
「……なれたのか、睦月のやつ……」
「嫌、か?」
「嫌というか、なんというか、夏美ちゃんに申し訳なくてさ。愛する人をより最悪な戦場に送り出したんだからな……」
睦月が自衛軍に入ったのは夏美ちゃんのためだ。
夏美ちゃんの幸せを築くために夏美ちゃんの思いを無視した。それを悪いとはいわない。おれも同じことしたんだからな。それでも守りたいというなら甲殻隊よりベルの方が良い。より強い力があった方が生存する確率が高くなる。思う力が強さを与えてくれる。そう思ってベルを継がせたが、良かったのか悪かったのか、複雑だよ……。
「誰もが創造神に寄って未来を奪われた。悲しくも愛情に満ちた100と4の真実がある。幾人かのベルが死んで幾人かの悲しみに寄って受け継がれた。愛する人を守るために力となった者がおる。未来のために。愛する人のために。負けることはできない。投げ出すことはできない。ここで止めたら今までのことが無駄になる。その思いも無駄になる。神や魔王に勝つことが勝利ではない。"明日を得ること"が本当の勝利なのだ」
……明日を得ること。それが本当の勝利か……
「望む力を手に入れたのだ、だったら遠慮はするな。躊躇はするな。全力で明日を求めよ」
「……ああ、そうだな。おれにはこの力が必要なんだからな……!」
負けるつもりはない。死ぬだなんて考えない。自分でいったことだ。戦って勝つ。それだけだってな。
「ところで、昨日お主がいったことだが、どういうことだ?」
あん? おれなんかいったっけ?
「運が良いからまた賭けるか。その意味だ」
ああ。アレね。なにかと思ったよ。
「高校生のガキが考えた浅はかな作戦だよ。気にしないでくれ」
「いや、聞かせてくれ。正直いって次の作戦など考えておらんのだ。兵員も武器もこれからなのだ」
「真子もいってたが、そんなに少ないのか?」
「動かせる兵員は約3万。戦闘機78機。戦闘ヘリ200機。戦車装甲車約1千台。ただし、これは結界外の戦力だ。結界内の戦力は、甲魔兵206名。甲機兵367名。簡易甲殻鎧を使用した特別攻撃隊が約300名。そして、ベル5人だ」
……十分な戦力だと思いますが……?
「駆除ならそれで十分だが、侵攻となればその4倍は必要だ。とてもじゃないが話にならん」
「結界を解くとどうなるんだ?」
「7年前の続きが起こる。そして、魔王が目覚める」
「魔王とばーちゃんって、どっちが強いんだ?」
「能力的にいうなら魔王。魔術の多さと知識ならわしだ。だが、そこに破壊の樹が混ざると遥かに魔王が強い」
「つまり、破壊の樹が加わる前に倒せば良いんだな?」
「理屈はそうだが破壊の樹の成長速度は異常だ。しかも、この国の大地の氣がもっとも集中する地に植えられてしまった。結界を解けば3日と置かずこの国は邪悪な森となり、この国の住人は魔獣となるだろう」
そーか。邪悪なる魔は人を魔獣に変える力があったんだっけ。
「結界を解いてミサイルの雨を降らし、また閉じる。全ての門から甲魔兵総出で飛び込み、魔獣や森を駆除する。その間におれたち5人で上から侵入。攻撃しながら破壊の樹へと向かい魔鋼機を奪還。そのまま魔王を倒す。ってことを考えてたんだが、邪悪なる魔があるんじゃダメだな」
自分が平気だからすっかり忘れてたよ。
直径40㎞もある帰らずの森。その蓋が開いたら日本は魔獣天国。もはや人類に未来はないじゃーねか。おれのバカたれが。
「……いや、そうでもない。全てを捨てることはない。なるほど、結界を解くか。押さえるのに躍起で肝心なことを忘れておった」
なんだい突然?
「結界は解けん。だが、小さな穴を開けることは可能だ。お前たちがやったようにな。5つ穴からミサイルとお前たちが突っ込む。そうすれば門の前にいる魔獣どもが少なくなる。うむ。最高の囮だ」
「大丈夫なのか? 魔将が門に行ったら全滅だぞ」
甲魔兵や甲機兵がいなくなればおれたちだけになってしまう。数万もの魔獣がいる魔王軍と戦うには分が悪いぞ。
「己が死ぬとは思わんのか?」
「おれを混ぜて正義のためとか人類のためとかで動いてるヤツがいるか? どいつもこいつも自分の欲望で動いている。自分の欲しいものを得るためなら魔王だろうが神だろうが関係ない。邪魔なら排除する。ただそれだけだ。ってヤツが簡単に殺されるかよ」
「うむ。確かにおらんな」
「敵は共存共栄を求めちゃいないんだ、死を強制してる。だったら遠慮はいらない。躊躇もしない。おれが死ぬか相手が死ぬか。2つに1つ。テメーが死ぬだッ!」
「フフ。敵に回せば恐ろしいが、味方にすれば頼もしい。精々、味方であることを感謝しようではないか」
おれを見て意地悪そうにニヤリと笑った。
その夜、敵になろうかと本気に悩むおれであった。
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