第八章 其の4
○●○●○●○●○●
食堂を出て近くのエレベーターから地下へと降りる。
この基地は、避難シェルターも兼ねているとかで、至るところに地下に降りられる場所があり、全ての場所に続いているそーだ。
地下40mに到着し、エレベーターを出ると、正面に案内図が貼られてあり、ここは、第10区画というらしい。
ここにきたとき説明を受け、主要な場所は案内されたが、ここに降りたのはこれが初めて。第4訓練所とはどこだと悩んでいたら、今乗ってきたエレベーターの扉が開き、8人くらいの男性らが降りてきた。
感じる魔力やこのエレベーターを使ったからにして甲魔兵の方々だろう。その方々に第4訓練所を聞いたら今からいくつかところなんだそうだ。
じゃあ一緒にと着いて行くこと1㎞ちょっと。第4訓練所に到着した。
……まったく、疲れはしないが時間がかかってしかたがないな……
広いんだからカートかなんか用意しとけよと心の中で呟いていると、なにやら騒ぎ声が聞こえてきた。
前回の訓練所とは違い、ここは金属の壁に覆われており、広さもバスケットボールのコート2面分しかなかった。
もちろん、4方を壁に覆われているから中は見れない。ならなんでわかるかといえば、観戦用のモニターが4つあり、今ちょうど一樹が甲殻鎧を纏った誰かさんと戦っているからだ。
そのモニターの前には十数人もの甲魔兵の方々が観戦していた。
「上手い! 甲殻鎧も着てないのに矢部を吹き飛ばしやがったぞ!」
「連体隊長に次ぐ実力者なのに!」
この人たちの言葉が通りなら人類の未来は真っ暗でしかない。せめて今の一樹の倍はなければ帰らずの森の中心部には到達できない。魔将に会ったら即死亡だぞ……。
壁で覆われているにも関わらず、おれの存在を感知した一樹がこちらを見た。
……おれは今、人生最大の過ちを犯そうとしているのではないか……?
「────君、風間忍くん、だったかな?」
と、1人だけ制服姿のおじさんが話しかけてきた。
「あ、はい。そうですけど?」
「やっぱり、風間……直也の息子か」
「とうさんを知ってるんですか?」
とうさんの顔の広さは知ってるが、まさか自衛軍にまで知り合いがいようとは。いったいどんな仕事してんだ、うちのパパさんは?
「ああ、直也とは小学校からの友達さ。まあ、森が落ちてからは会ってないがね。直也は元気かい?」
「はい。仕事仕事で忙しくしてますよ」
……時々、浮気をしているようですがね……
「あの、一樹に用があるんですが……」
「あ、ああ。そうだった。話は導師から聞いてるよ。ちょっと待って───」
「───いえ、こちらから行きますから」
おじさんの言葉を待たず勝手に第4訓練所の扉(自動で3重になってるよ。どんだけ厚いんだ、ここは?)を開けて中へと入った。
一樹と戦っていた矢部さんとやらとすれ違ったが、知り合いでもないんで軽くお辞儀するだけに留めた。
「よっ!」
フレンドリーに挨拶したが、友達でもないんで無視されました。だよね~。
「しかし、元気だな、お前。昨日、一般病棟から移ったって聞いたのに、もう訓練とは。そんなに元気ならおれの相手になってくれよ。ここってティンカーベルの力に合ったヤツがいなくて困ってんだ」
「だったら森にでも行けッ!」
そう吐き捨てる一樹くん。目が野獣になってるぞ、お前……。
「上司がダメっていうんだよ。で、しょうがないからお前で我慢しようと思ってな───」
人差し指に魔を軽く集中し、一樹に放ってやった。
ちゃんと手加減したのに一樹くんったら壁まで飛んじゃって。そこまで無視することないじゃないか。
「おいおい、ちょっ───」
「───バルタス!」
言葉途中で一樹が復活。かざす人差し指から魔力の矢を放った。
当たればレベル23でも吹き飛ばす威力だが、生憎おれはレベル150(当社比で)である。その程度でどうこうできる聖魔でもなければ肉体でもないので正面から、なんの防御もせずに受け止めた。
「───隙だらけだぞォッ!」
と、一樹が真横に出現。重い蹴りが顔面へとヒット。今度はおれが壁まで飛ばされてしまった。
「……いてて。最初のはフェイントかよ。っつーか、なんだ、お前の魔力集中は? 異常だぞ」
手加減してたとはいえ、レベル50(当社比で)の状態だった。魔将レベルだったのに吹き飛ばされるなんて、どんだけ魔力集中に特化した野郎なんだよ!?
「痛むように殺してやるッ!」
それは困る。ちっぽけな命だが、これがないと幸せを噛み締めることができないんでな。
踵落としがくる前に軸足を蹴り飛ばし、先程より強い魔力を手のひらに集中。一樹の腹へと押しつけてやった。
「───────」
声にならない悲鳴を上げながら壁へと激突。そして、陥没してしまった。
「あれ? 強すぎたか? 悪い悪い。お前の強さを過剰評価してたよ」
なんとか壁から剥がれたものの限界間近らしく、まともに立ってられなかった。
「……こ、殺してやる……!」
「おう。その意気だ。ファイトファイト!」
なんて煽るが、体が着いてこない。息を吹きかけたら倒れそうなくらいまで弱っていた。
「……哀れだな、お前……」
それでも倒れずに向かってきた一樹に蹴り1発。また壁まで吹き飛ばしてやった。
「もう良い。お前、邪魔。お荷物だ。こんな役立たずがいたら勝てる戦いも勝てたもんじゃない。お前1人死ぬのは構わないが、お前の死で綾子が使い物にならなくなったらおれが困るんだよ」
ゆっくり一樹に近づき、やっと立ち上がったところでまた足を払ってやる。
「ばーちゃんにはおれがいっといてやる。綾子にもな。だから出て行け」
「───断るッ!」
全ての力を使って叫ぶが、叫んだだけではどうにもならないだよ。
「なあ、頼むよ。出て行ってくれよ。お前がいたところで魔将1人も倒せないんだよ。今のお前ではな」
「───だったらおれを殺せッ! 綾子を守れないおれを殺せぇっ!」
……あの敗北が余程堪えたんだな……
「できる訳ないだろう。味方に敵をつくってどうする?」
ばーちゃんの配慮か、壁が透明となり良いタイミングで綾子を出してくれた。
「……どうしても出て行かないのならしかたがない。綾子に頑張ってもらうしかないな。しばらく戦いはないっていうし、おれがみっちり鍛えてやるよ。まあ、多少の怪我や傷はカンベンしてくれよな」
「ふざけるなッ! 綾子に手を出す奴はおれが殺してやるッ!!」
「はいはい、後でな。おい、綾子。訓練するぞ。入───」
「───バルタス! バルタス! バルタス!」
魔力の矢を何度も放ってくる。まるで命を削るかのように。
……ティート・セイアン……
(はい)
あいつに力を貸してやってくれないか? あいつの妹に対する気持ちはあんたの兄貴にも負けてないものだ。あんたらなら一樹の気持ちが良くわかるだろう。
(……ですが、それではあなたが危険では……)
(……ちょっとティートさん! お兄ちゃんにはあたしがついてるのよ。あんなゴリラの思いに負ける程あたしの思いは弱くはないわ! お兄ちゃんを守るのはあたし! 1番大好きなのもあたし! お兄ちゃんをいじめるアホは"あたし"が許さないんだからァッ!」
……それを悲しいと思うのはおれだけか……?
(浮気したら許さないんだから!)
おれって可哀想すぎないか?
(……わたしも兄が好きでした。兄のためにベルの魂となりました。ですが、兄の恋人には勝てませんでした……)
(ふん! そんなんだから融合できないのよっ! 恋人いるからなによ! 兄妹だからなによ! 世間がなによ! あたしはお兄ちゃんが好き! その思いだけは譲らない。後悔はしない。あたしはどこまでも貫くんだからっ!)
ま、まあ、なんにしろだ。あいつの思いはあんたと同じだ。敵わないとしりながらもあいつは諦めないし、何度倒れても立ち上がる。妹を守るために必死に戦っているんだよ。
「───ハァッ!」
気合いとともに一樹を吹き飛ばす。
またも壁に激突するもその目だけは死なない。その思いも死んでないだろう。
……まったく、こいつの闘志はおれの根性にも負けてないな……
「さて。そろそろ終りにするか」
「……終るものか……」
必死に立ち上がった一樹へと歩み寄り、そのギラつく目を覗き込んだ。
───ティート・セイアン───
手のひらに現れた光を一樹の額へと押し込んだ。
永遠より長く光より一瞬。一樹の中で"聖なる魔"が輝き始めた。
力が徐々に体へと広がる。手の先、足の先、髪の毛1本1本にまで力が行き渡る。
そして、力が体に満ちると、閉じていた瞼が開いた。
「……その心、おれが守る……!」
強固な意志と明確な殺意。そして、背筋が凍る程の聖魔が輝いていた。
……ま、真砂美。手加減なしだ……
数分後、第4訓練所が全壊。第2富士基地の1区画を使用不能にしてしまった。
○●○●○●○●○●
読んでもらえて嬉しいです。
ありがとうございました。




