第一章 其の2
余力があったので今日も投稿しました。
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「───お兄ちゃんっ!」
部屋のドアがバン! と開き、我が愛する妹、加奈美が怒鳴り込んできた。
ストレートな髪に愛らしい顔立ち。細く小柄にも関わらず豊かな胸。どこをとっても美しい我が妹どの。学園でも1、2を争うほどの美少女だろう。
兄のおれから見ても綺麗だし、自慢でもある。こんな美少女から好きだといわれたら天にも昇るほど嬉しいものだ。
……妹じゃなかったらどんなに幸せか……!
「加奈美。いつもノックしてから入れっていってるだろう」
「お兄ちゃんとあたしの間にはそんな無粋な行為はないわ!」
いっておきますが、清い兄と妹ですから。本当だから。信じて。
「さあ、出しなさい! ラブレターを貰ったこては睦月さんから聞いているんだからねッ!」
鋭い視線がおれのガラスのハートを突き刺してくる。
なぜだっ!?
なぜバレてるッ!?
加奈美や睦月にバレないように頑張って頑張って、これってないくらい頑張ったのに……あっさりバレてるじゃないか……。
いやダメだ! 騙されるな! これは加奈美の誘いだ。この手で何度幸せを奪われてると思ってんだ! 躊躇うな! 毅然としろ! 戦え、おれッ!
なんて、そんな隙を見逃す加奈美ではない。
護身用のバタフライナイフを抜き放ち、ジャケットの下にあるラブレターを奪い去ってしまった。
「ふん! あたしからお兄ちゃんを奪おうなんて1億年早いのよっ!」
言葉にできない。できる訳もない。可愛い妹をが兄の服を、それも肌や手紙を斬らずに奪い去ってしまうのだ、なにかいえるほど変態じゃないぞ、おれは……!
「───ぷっ。キャハハハッ!」
溢れる涙で沈んでいると、加奈美が突然、笑い出した?
「……か、加奈美、ちゃん?」
「やーね、お兄ちゃん。コレ、女の子からのじゃないわよ」
へ? いや、だって、勝美って……。
「悦原勝美は女じゃなくてお、と、こよ」
ピシッ!
無情がマイハートと撃ち抜いた。
「まったく、嫌な予感がして戻ってきて損したわ。いくらお兄ちゃんが浮気症でも男と付き合う訳ないもんね」
……痛い。痛いよ。これまでにないくらいマイハートが痛いよぉ……
加奈美がいる以上、おれに幸福な恋などありえないだろう。ああ、わかってるさ。だが、そこで諦めたらお仕舞いだ。入っちゃいけない世界に入っちゃう。おれは人間から獣になってしまうんだぁ~ッ!
「まあまあ、そう落ち込まないで。その傷はあたしが癒してあげる。この深い愛でね……」
崩れるおれの顔にむぎゅっと柔らかいものが覆い被さる。
と、絶対にいいたくない感情が湧き出してきた。
神さま。いや、悪魔でもいい。どうかこんな愚かなおれを殺してくれぇぇぇぇっ!
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「うわぁあぁぁんっ!」
おれは泣いていた。
年甲斐もなく"血の涙"を流していた。
これが泣かずにいられるか。あんな悲しいことがあって笑ってられるか。誰がなんといおうと泣いてやるっ!
しくしくしく。
もう2時間も泣いてるのに涙が尽きてくれないよ……。
あの後、おれは加奈美に慰められていた。恥ずかしくも加奈美の胸の中で泣いていた。
───注意。詳しくは聞かないでください。おれを優しいお兄ちゃんでいさせてください───
それから正気を取り戻したおれは走っていた。現実(慰め)に耐え切れなくてな……。
うちは4人家族。とうさんかあさん、おれに加奈美だ。でも、両親は共働きで夜が遅かったり早かったりする。そんなだから2人暮らしといってもいいくらいの環境だ。
……それがおれには耐えられないんだよ……
あの過激で見境のない妹と2人っきり。間違いがあったらおれは生きてはいけない。
おれだって男だ。ただの男なんだ。悲しいくらいまっとうな男なんだよ。
「あ~~ん。お兄ちゃんに全てをあ、げ、るっ」
なんていう妹と男の理性。信じられるヤツ、守り切れるヤツ、頼むからおれを助けてくれ。この地獄からおれを救ってくれよぉぉっ!
ううっ。世間から石投げられる人生なんてイヤだょぉ~っ!
ったく! 毎晩、現実逃避できるほど安全じゃないんだぞっ!
「って、支配されてんだよな~、加奈美に」
いつもこうやって熱が冷めるんだから甘いよな、おれって。
「……9時半過ぎか……」
腕時計を見ると、そろそろ『18歳以下、夜間外出禁止令』が出る時間だった。
おれって集中力がケダ───じゃなくて、超人的にあるから死ぬまで走りかねない。前も12時過ぎまで走ってて警察のご厄介したほどだ。同じ失敗を2度もしてらんないよ。
「うへ~~。汗でベタベタだ」
まあ、全力疾走だもんな、汗もかくさ。どこの自販機で喉を潤してから帰るか。
「さて。まずは現在位置を確認するか」
全力疾走で2時間。結構遠くこれるんだよ、知ってた?
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読んでもらえて本当に嬉しいです。
ありがとうございました。