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第七章 其の1

   ~~第七章~~




 異様な森だった。


 緑と闇が絡みつく重さのある森だ。


 崩壊したビルや押し潰された家々に異形の樹々が絡みつき、天を覆う程育っている。


 歪に育つ樹々。絡みつく蔓。何千年も前からあるような太い根。たった7年で良く育ったものだ。


 爆発した戦車や装甲車の上を駆け抜け、襲いくる魔獣を払い除けながら辺りへを見回す。


 ……確かに"駆除"しなければ不味い結果になることが良くわかるな……


 線を引くように消えて行く景色。現れては殺されて行く魔獣ども。走ることだけが唯一の仕事なおれは余計なことまで考えていた。


 先頭を走るバルタベルは、氷の鞭で魔獣どもを打ち払い、バルパーベルは炎の翼で左右から襲いくる魔獣どもを炭にしている。後ろの3人は頭上と追ってくる魔獣を葬っている。おれ、やることなぁ~しっ。


 ……しかしなんだ。もう2㎞は走ってるのに魔獣が一向に減らんな……


 やることがないんで下らない考えしたり、殺される魔獣を見てて、ふっと疑問が湧いた。


 前の2人はわかる。ベルだから。けど、後ろの3人の武器はGX。オリハルコン製のミニガンだ。弾を撃つ武器なのにもう30分は撃っている。それも途切れることなくだ。いったいどうなってんだ?


 不思議である。謎である。後ろを見たいが全力疾走中にすることではない。ああ、わかっている。けど、我慢は体に悪いという。悪くなるのはダメだ。これから大事が控えているのだから。それはいけない。体のためにも大事のためにも見るべきだ。うん。それが良い!


 スピードを落とし、3人の後ろについた。


「なにしてるのっ!?」


「気にしない!」


 叫ぶ真子だが、止まって文句をいえる状態ではないで黙認してくれた。


 GXから伸びる弾倉帯が甲殻鎧の背中、バレーボールを半分にした半球体に続いていた。


 どういった仕組みかは謎だが、その半球体が弾薬庫になっているらしい。


 ん、待てよ。そういえばこの3人の甲殻鎧、他と違くないか? 背中の半球体もそうだが、全体的に細い造りになってるし、ヘルメットがなにやらロボットのようになっている。


 ……うん。気がつこうよおれ……


「───ッ!」


 と、第6感が悲鳴を上げた。


「皆、散れッ!」


 ビルの残骸を砕く程の蹴りで横へと跳んだ。


 40m程跳ぶと、お相撲さんが7人程集まったかのような大木があり、反射的に回り込んだ瞬間、光が世界を支配した。


 続いて脳天を揺るがす程の大爆発が起こった。


 ティンカーベルの記憶にこれと同じものはないかと探ると、『滅砕陣めっさいじん』という爆発型魔法陣を発見した。


 一定空間に敵を誘い込み、爆発で殺すという技だ。だが、これは対聖魔戦士用だ。ってことは嵌められたってことか、こん畜生がッ!


 爆発が収まり、樹の根から跳び出す───と、すっかり敵に囲まれていた。


「ほぉう。滅砕陣に気がついたヤツはどんなかと思えばまだガキじゃねーか」


 左斜め上方向。枝の上。黒光りする皮鎧を纏った男───っていって良いのかは謎だが、竜顔したヤツがこちらを見下ろしていた。


 ……この感じ、魔将か……


「お前、ベルを継いだのか?」


「あんたを喜ばすのは癪だが、ティンカーベルを継いだよ。こっちも聞いて良いかい。あんた、名前は?」


「フフ。おもしろいガキだ。おれはガザハル。エベレルの戦士だ」


 名乗ると、背中に蝙蝠のような羽根を羽ばたかせた。


 剣も持たず身軽な格好からして魔王軍の特攻隊ってトコロたな。まったく、どうしておれの周りにはこーゆー暑苦しいヤツしか寄ってこないかね? なんの呪いだよ、こん畜生がッ!


「しかし、よくおれたちがくるってわかったな?」


「あのガゼルタが帰ってこないんでな、用心のために仕掛けておいたのさ」


 ふ~ん。ただのサド野郎かと思ったらなかなかの実力者だったんだ。


 構えるオリハルコンの剣を樹の根に突き刺した。


「あんま時間がないんでな、やるんならぱっぱとやってくれ」


「良いのか? 剣が得意なんだろう」


「ああ。剣は得意さ。だが、嫌いじゃないぜ、拳で戦うのも」


 いって構える。


「嬉しいことをいってくれる3代目だ───」


 双方同時に消えると、その中間で拳と拳が激突。空間を歪ませた。


 この魔の練り具合からして魔闘術使いか。あのサド野郎より断然強いぜ!


 拳対拳に負けたガサルバ。やはりサド野郎よりできる野郎だけあっておれの力を理解し、渾身の蹴りを放つ前に飛び離れてしまった。


 強いだけじゃなく冷静さまで持ってやがるぜ!


 と、周りで観戦していた魔獣どもが一斉に襲いかかってきた。


 ───ったく! 隊長が違うと部下まで違うのかよっ!?


「グライナー!」


 光の弾丸で掃射し、樹の根に刺したオリハルコンの剣を抜き放った。


 光の刃でも良いのだが、おれのために生み出されたもの。ならば、しっかり使ってやらなければ剣に失礼ってものだ。


 襲いくる魔獣を一刀両断。2撃を与えず葬るが、100匹も斬ると段々鬱陶しくなってきた。


「ガァーッ! 鬱陶しいぞ、こん畜生どもがッ!」


 もう我慢の限界とばかりにオリハルコンの剣を投げ放った。


 幾十もの魔獣を突き殺しながら森の奥へと消えて行くオリハルコンの剣。君の犠牲は一生涯忘れないよ。


「ライナ・グーファ!」


 ソフトボールくらいの光の球を魔獣どもが密集しているところに投げ放ち、その場から撤退する。


 見た目は弱そうだが、その威力はミサイルにも負けてない。戦車なら余裕で粉々にできるぞ。


 更に1発。オマケに1発。サービスでもう1発。と、ライナ・グーファを

放ちながら滅砕陣で吹き飛ばされた場所に戻ると、GXの発射音が耳に届いた。


「───こっちか!」


 誰が撃ってるかは知らないが、生きていることは確か。見捨てる訳にもいかんでしょうよ。


 音がした方に駆けること約50m。数百もの魔獣に囲まれている3バカを発見した。


 ……ったく! 世話のかかるヤツらだぜ……


「グライナー!」


 一気に殲滅してやりたい気持ちを抑えながら光の弾丸で削って行く。


「───ッ!」


 第6感の命じるまま体を捻ると、森の奥に消えたオリハルコンの剣が通り過ぎて行った。


「3人、逃げろっ!」


 ライナ・グーファを連続で放ち、逃げ道をつくってやった。


「どこを見ているッ!」


「もちろんあんただよっ!」


 襲いくる大槍を払いながら白髪の大男に向けて叫んだ。


 ったく! いろんな種族がいるな、魔将ってのは。どういった関係で集まってんだ?


 鋭い突きを回避しながら白髪の大男に詰め寄るが、こいつも冷静で強い。大きく後ろに跳ぶと、上下左右から魔獣どもが襲いかかってきた。


「ダイナ・グライナー!」


 壁となる魔獣どもを光砲で吹き飛ばし、空いた穴から白髪の大男の懐へと入った。


「悪いな。死んでくれ───」


 光の刃を胸に深く突き刺し、聖なる魔を一気に解放。跡形もなく消滅させてやった。


 そんな隙を狙っていたのか、なんとも絶妙なタイミングで竜顔の戦士が真後ろに現れた。


 ───避けられない。なら守るのみっ!


 拳が当たるだろう場所に魔を集中。鈍い音が響き渡った。


 それでも完全に相殺できないので体を回転しながら力を逃がし、2撃を避けるためにグライナーで弾幕を張った。


 樹の根が凹む程の威力で着地。そして直ぐにジャンプ。雨のように降ってくる魔獣を回避した。


「ライナ・グーファ!」


 集まってくれたことに大感謝。お礼に爆葬してあげましょう。


 と、遠くで火柱が上がるのが見えた。


 あの感じからして押してるって感じではない。追い込まれているって感じだな。ったく!


「行かせるかよっ!」


 竜顔戦士と3つ目の人狼が左右から襲いかかってきた。


 魔の強さからして3つ目の人狼も魔将か。まったく人材が豊富で羨ましいぜ。


 まあ、羨んでもしかたがない。敵は敵。お願いしても味方になってくれないんだ、とっとと排除しましょうか。


「死ねやっ!」


 2兎追うものは1兎を得ず。良いこといった人に従い、まず3つ目の人狼の足首を捕らえ、竜顔戦士へと投げ放った。


「ダイアラー!」


 当たるとは思わないので閃光弾を放って一目散に逃げ出した。


 後ろから光が追い越し、世界を真っ白に染め上げる。いや、我ながら凄まじい光だぜ。


 そのまま全力で駆けていると、霧が出てきた。


 森で霧が出るのは不思議ではない。そう思っていたら霧が濃くなるにつれ体が重くなり、なぜか息切れしてきた。



(……お兄ちゃん、ベルの力が消えて行くよ……)



 聖なる魔が消える? ってことは、あいつのテリトリー───つまり、『破壊の樹』が近いということだ。



(これ以上近づくと危険だよっ!)



「危険なの───」


 言葉が終る前に森が消えた。


「……………」


 霧の中にそびえ立つ大きな樹。おれたちの未来を奪った元凶がそこにあった。


「───ッ!」


 第6感が咄嗟に体を動かした。


「勘が良いっ!」


「それがおれの悲しい自慢だっ!」


 光の羽ばたきで空へとジャンプ。魔の強い方へとグライナーを放った。


 と、斜め右下にバルタベルを担ぐバルパーベルが視界に入った。


 その後ろからは魔将らしき鎧男と半透明の女が追っていた。


「ゴーナ・カイザード!」


 バルパーベルの右手からくる双頭の蛇男に向けて光魔の槍を放った。


 光は一直線に片方の蛇頭に飲み込まれ、そのまま大地へと消え、大爆発を起こした。


 と、視界が歪み、冷たいものが体を駆け抜けた。



(お兄ちゃんっ!)



 ……だ、大丈夫、ではないが、根性でカバーして見せる……!


 どこかに落ちて行きそうな意識を一喝。今度はバルパーベルの左手からくる白髪の女戦士に渾身の光魔の槍を突き刺してやった。


 4秒程差を空けて2人のベルの横に着地した。


 目の前に鎧男と半透明の女。更にタダの人狼と竜顔戦士。更にこのテリトリーを生み出している『シル』。これで戦えっていうヤツ、いるんなら容赦なく裏切るぞ!


「あらあら、凄い?坊やだこと」


 半透明の女が可笑しそうに笑う。


 まあ、『破壊の樹』があるならここは、帰らずの森の中心部。森からは数千もの魔獣が溢れ出てくる状況なら余裕ぶっこいてるのもしかたがない。敵は邪悪。正々堂々なんて言葉など知るはずもない。仲間がどれ程死のうが自分の快楽を優先する連中だしな。一々気にもしてられるかよ。


 まったく、なんでこんな作戦に乗ったゃったかね、バカなおれよ。彼女をつくって楽しいデートをするのを夢見る普通の高校生なのに……なんでこんな陰険で自己中心どもに道を閉ざされ……ん?


 見詰める地面が暗くなり、直ぐに明るくなった。


 ……ったく。こーゆー運だけは良いよな、おれって……


「……さて。ゴメンっていったら許してくれる?」


「そうするとわたしたちが怒られちゃうの。ゴメンね、坊や」


「どうしてもダメ?」


 可愛らしくお願いしてみる。


「……油断するな。なにか企んでるぞ……」


 さすが人狼。ケダモンの勘は鋭いぜい。


「仮に企んでいたとして、あんたらの包囲を破れるのかい?」


「無理だな。もっとも各門に配置した6千の獣兵を相手にしたいのなら止めはしないがな」


「じゃあ、少ないトコ教えてっ」


「我々を倒してから確かめるんだな」


 4人の魔将が構える。


「やれやれ。たった2人に4人はずる───」


「───勝手に殺さないでッ!」


「バルタベル!?」


 バルパーベルの手を払うが、フラフラとよろけてしまうライラさん。戦いは無理だって全身で語ってくれちゃいました。


「フハハアハハッ! 3年前を思い出す光景だな!」


「ほんと。今回は誰が犠牲になるのかしら?」


 どこまでも腐り切った畜生どもだ。いつか必ず殺してやる!


「バルパーベル。帰らずの森に入る門って幾つあるの? 悔しいけど、ここは犠牲を出しても1番近い"出入り口"から逃げましょう」


「ったく。諦めが悪いもんだ、ベルってヤツは」


「そうとも。『左手には勇気を。右手には愛を。情熱というエンジンを高らかに鳴らせ。希望の道を爆進だ』ってね」


 30手前の人ならわかるはずだ。


「……そうだった。忘れてた。『1人は仲間のために。仲間は1人のために。5人の剣は希望の輝き。勝利の誓い。我ら未来を守りし者』だったな……」


「おや。戦隊派でしたか。おれはライダー派ですよ」


「フフ。若いのに古いのが趣味なんだな」


「男のロマンに古いも新しいもありませんよ」


「まったくもって同感だ」


 へへ。男と男の会話だ。理解できるものなら理解してみやがれってんだ!




      ○●○●○●○●○●
























読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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