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第六章 其の3

      ○●○●○●○●○●



 7月10日。午前8時15分。エルクラーゼ奪回作戦が開始された。


 おれたちベルと真子たち甲殻隊を輸送ヘリで運び、甲機隊や特別攻撃隊は新国道を輸送車輌で帰らずの森へと向かっている。


 ヘリの窓からはいつもの光景が広がり、遠くに見える青い海の上では失敗したときのために核ミサイルを積んだ戦艦やら空母が見えた。


 ……いつも滅亡と紙一重だったとは。毎回怖いことなってたんだな……


「あ、そーだ。林さん。魔将とシルってなにが違うの?」


 ふっと突然思い出したので聞いてみた。


「作戦中はバルパーベルだ」


 まったく、軍隊用語はめんどくさいな。通じるんだから良いじゃない。と、口にする程お子ちゃまではない。社会では切り替えができてなんぼだしな。


「で、どうなんです、バルパーベル」


「そうだな。軍隊で例えるならシルは総司令官で魔将は大隊長かな? 魔将にはそれぞれ担当する地区があるからな」


「外に出てくる部隊もあるんですか?」


「ああ。確認しただけで4人の魔将がいる。中でもティンカーベルが倒した死霊のガゼルは結界突破の常習犯でな、あいつに殺された仲間は2千人を超すよ」


 淡々と話すバルパーベルだが、その目には憎しみや悲しみが浮かんでいた。


 真子の話によると、この林隆二さん、2代目だという。


 ……教えられて気がつくおれはほっといてください……


 第4次ティンカーベル回収作戦(まだ森の中にいると信じられていた時代です)のとき、第4甲殻隊の隊長だった林さんは、バルパーベルと森に入った。


 侵入者を発見した魔獣どもは次々と集まり、怒濤のように襲いかかってきたそーだ。


 森に入って1時間。半分に減らされた第4甲殻隊は撤退を余儀なくされ、30分後にはバルパーベルと林さんだけになっていた。


 ベルを殺せとばかりに他の地区の魔将まで集まるが、ティンカーベルに次ぐ実力者。なんとか脱出したものの治療不可能まで負傷したバルパーベルはは林さんを後継者に選んだ。


 確かにベルを継ぐことは難しい。だが、その人が魂となるなら継ぐことは簡単だ。真砂美がしたように愛する人の武器になりたいと思うのは魂になる方が決めるのだから。


 魂となることを選んだ初代バルパーベル───いや、『リアラ・ゼルシス』の思いが恋なのか愛なのかはわからない。が、林さんを守りたいと思った気持ちはわからなくはないし、リアラ・ゼルシスを思う林さんの無念もわからなくはない。


「……そういうの、なんか羨ましいです……」


「なんだ、突然? ───って、柊だな、変なこと吹き込んだヤツは」


「良いな~。あんな美人に思われて。どうやって口説いたんですか?」


 元の魂さんに邪魔されることなく魂を奪えるって並じゃないんだよ。


「バカいってんじゃないよ!」


「───ってッ!」


 ……岩をも砕く拳で殴らないで欲しい。こっちは甲殻プロテクターしか纏ってないんだからさ……


「なにふざけてるの。見えてきたわよ」


 真面目なライラさんの注意に窓の外へと目を向けると、帰らずの森を囲む『不可侵の壁』が見えた。


 高さ100m。厚さ30m。森を囲む長さといったらうん百㎞。そんなのをたった1日で創り上げ、邪悪なる魔を漏らさないように結界を張るんだから凄いばーちゃんだよ……。


 その光景に飲み込まれていると、輸送ヘリが着地した。


 皆さまに続いて外に出ると、工作兵や一般兵が慌ただしく駆け回っていた。


 ……外も中もバタバタしてるな……


 ぼんやり眺めていると、ラ───バタバタベルがおれの肩を叩いた。早くこいって。


 司令部のような建物に向かう2人に着いて行く。その後ろからは真子率いる甲殻隊が続いた。


 警備兵が守る扉を幾つも潜り、少し降下する通路を60mくらい進むと、青学の大講堂級の大空間に出た。


 第2富士基地の地下にあった訓練施設の壁のような重厚感ありまくりの装甲で覆われ、装甲車やブルトーザーのバケモノといった特殊車輌が並んでいた。


「まったく、何度きても嫌な空気だよな、ここは」


 なにやら林さんが愚痴ってる。まあ、確かに嫌な空気(っうか、魔)が濃いな……。


「なんですか、第6結界門って? 他にもあるってことですか?」


 目の前の扉にそうデカデカ書いてあるんだよ。


「森に入る門は全部で16。どこも同じ造りだ」


 ふ~ん。結構あるんだな。でも、そんなにあると守るの大変なんじゃね?


「というか、臭いんですが?」


 なんなんだ、この表現し難い臭いは? これならまだ下水道の方がマシだぞ!


「導師の結界で包まれてはいるが、邪悪なる魔は日に日に増している。あと数日もすれば甲殻鎧を纏っていてもここには立てないだろうよ」


 それはもう滅亡までカウントダウンなんじゃね?


「各員整列っ!」


 真子の号令に2人のベルも動いた。んじゃおれもか。


「第3隊から第6隊までは魔獣の侵入を阻止しろ! 第7隊は地上通路に配置。1匹たりとも地上に逃すな! 扉、開けッ!」


 ミサイルでも防げそうな扉が左右に開いて行く。と、なにやら光の網が現れた。なにアレ?


「森を押さえる結界だ」


 ふ~ん。アレがそうなのか。でもなぜに網なんだ?


「バルパーベル。ティンカーベル。用意して」


 元の世界の戦衣を纏ったバルタベルがまだ2mも開いてない扉に向かって歩き出した。


 異世界からきたライラさん。ちょっと馴染めない人なんだよな~。


 まあ、ベルになるくらいなんだから悪い人ではないんだろうが、あの人、無口な上に限られた人───ばーちゃんや林さん、真子といった身近な人にしか話さないのだ。だからおれも近い人、林さんに行っちゃうんだよね。


「第1隊、第2隊、前進ッ!」


 見ればミニガン───GX(って愛称。正式名は知らん。オリハルコン製です)を構えた十数名の甲魔兵が扉の隙間へと向けながら前進。その後ろからは大口径のライフル───GM─X1にロケット砲を構えた甲魔兵が壁となった。


 再び前を向くと、光の網が薄くなっていた。


「なんなんですか?」


「バルタベルが結界を解いているところだ」


 いわれて見ればバルタベルがなにか呟いていた。


「結界が解かれると同時に敵の特攻隊が押しかけてくる。第1隊が撃退しながら森へと出る。続いて第2隊が取り残しや扉付近の敵を排除する。おれたちが出たあと残りの隊が森の可能な限り駆除。そして、扉を閉める───という作戦だ」


 ……そーゆーことは最初に教えて欲しかったです……


「遅れるなよ」


「……努力します……」


 まあ、新参者は新参者らしくセンパイの指示に従えば良いさ。何度もやってる人たちなんだからな。


 ばーちゃんに頼んで造ってもらった日本刀タイプのオリハルコンの剣を抜き放った。


 ベルは無限でもおれの体は有限。使えば疲れるし、体に負担がかかる。体力温存に心がけましょう、である。


「……落ち着いてるな、お前……」


 まあ、慌ててはいないな。


 これといって怖いってこともないし、不安もない。戦いの高揚さえ感じない。ただ、やるべきことをやるだけ。望んだ世界を手に入れるために戦うだけだ。


「戦って勝つ。それだけです」


「……そう、だな。戦って勝つしかないか……」


 と、光の網が消滅。それを合図にGXを構えた第1隊が駆け出した。


 完全に開いた扉から魔獣の群れが押し寄せてくるが、弾丸の雨がそれを許さない。次々と肉片となりながら粉砕されて行った。


 第1隊が森に出ると、第2隊が前進した。


 2隊が森へと向けて弾丸やロケット弾をばら蒔く。起こる爆発に森が吹き飛ばされるが、それ程被害を与えられていないのがわかった。


 ……まあ、このくらいの攻撃が効いていたらとっくに森はなくなってるか……


「行くぞ!」


 2隊の攻撃が止むと、バルパーベルが床を蹴り、やや遅れておれも床を蹴った。


 森へ出ると、視界いっぱいに魔獣が占めていた。


 再び2隊による攻撃が開始されるが、魔獣は一向に減らない。いったいどこから沸いてくると心の中で突っ込んでいたら、バルタベルが氷の龍を生み出し、魔獣を襲わせた。


 続いてバルパーベルが炎の龍を生み出し、魔獣を襲わせた。


 さすがベル。あれ程いた魔獣の半分を駆除してしまった。


「遅れるなよっ!」


 2人が駆け出す。


 続いておれも駆け出す。


 あれから7年。


 おれはやっと故郷に帰ってきた……。






読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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