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第六章 其の2

      ○●○●○●○●○●



「よっ。久しぶり。元気だったか?」


 ちょうどレベル23を倒したところで話しかけた。


「……忍、どうしてここに? お前も甲殻隊に入ったのか?」


「冗談。誰が軍隊になんか入るかよ」


「ならどうしてここにいる?」


 フルフェイスのヘルメットで表情はわからないが、ムッとしているのは十分理解できた。


「なに、これから害虫駆除のバイトがあるんでな、その前に体を温めておこうと思ってな。お前たちでさ」


「ふざけるなッ! 甲殻鎧も纏ってないお前になにができるッ!」


 あ。そーいえばこいつらおれがベルを継いだこと知らないんだっけ。


 ばーちゃんの要望に応える訳ではないが、投げナイフをイメージすると、加奈美が良く持っているバタフライナイフが右手に現れた。


「随分あっさり出たな。これなら幾らでも出せるぞ───」


 いってナイフを一樹に投げ放った。


 投げる行動と手加減したのとで余裕で交わされるが、そんなの承知。左手に創り出したナイフを隠すための囮さ。


 狙い通り睦月が持っていた銃を破壊してやった。


 更にナイフを創り出して睦月に投げ放った。


 視界の隅に一樹を入れながら次々にナイフを放っていると、その一樹が消失。真横に現れた。


 でも残念。気配は消失してないんだよ。


 振り下ろされる剣を交わして蹴り1発。したら今度は睦月が真横に現れていた。さすが睦月。伊達におれと組手はしてないよ。


 咄嗟に盾を創り出すのと睦月の蹴りが放たれるのが同時。だが、強度はおれの勝ち。余裕だぜ! とニヤリとしようとしたらまた一樹が剣を放ってきた。


 まったく、良いコンビネーションを身にもつけやがって!


「ハァアッ!」


 気合い1つで弾き返してやった。


 と同時に盾を睦月に投げ放つが、そこに睦月は存在せず、おれの右斜め下にいた。


 さすが睦月と心の中で褒め称え、向かってくるガードつきナイフを素手でつかみ取り蹴りを1発。壁へと貼りつけてやった。


 ダァン! ダァン!


 多分、一樹が銃をぶっぱなしたんだろうと頭の隅で理解し、音がした方に手のひらをかかげて受け止めた。


「お見事。んじゃ、これは褒美だ、グライナー!」


 手のひらから光の弾丸が何十と放った。


 1つと外れることなく一樹に命中。まるでマシンガンで掃射したかのように土煙が舞った。


 やがて土煙が晴れると、ボロボロになった一樹と睦月が現れた。


「ったく! お前ら弱すぎだ! あっという間に2階級特進だよ。ふざけんなっ! おれはテメーらの弱さで夏美ちゃんや綾子に恨まれるなんてゴメンだぞ!」


 そういい放って訓練施設から出た。


 もうちょっと根性を叩き直してやりたいが、これ以上やったら殺しかねない。小出しに叩き直してやろう。


「強いのね」


 出ると、なぜか怒った真子と初めて見る男女が待ち構えていた。


「どちらさまで?」


「あなたと同じベルを宿す仲間たちよ


「おれははやし隆二りゅうじ。バルパーベルだ」


 と、二十代後半くらいの赤毛の男性が名乗る。



「わたしは、ライラ・ギブレー。バルタベルよ」


 こちらも二十代後半くらいの白髪の女性が名乗る。


 どちらも睦月や一樹と桁違いの魔力を感じたが、ティンカーベル程ではなかった。


「どうも。風間忍です」


「───やっと3人になったな」


 と、またもや気配もなくばーちゃんが現れる。


 いつも無愛想なばーちゃんが満面の笑みを浮かべていた。


 ……喜んでいるのか悪巧みしているのかわからん笑みだな……


 立ち話もなんだからと作戦室に場所を移した。


 でっかいハイテクなテーブルにモニターいっぱい。そんなロマンを胸に作戦室に入るが、学校の会議室にも負けぬ素っ気さだった……。


 各自、それぞれの場所に座ると、軍服姿のおねーさんがお茶を運んできた。コーヒーはないの?


「忍くん。君が強いのは認めるけど、味方を傷つけるのは止めてくれないかしら」


「あんな役立たずいらないよ」


「奪回には彼らが必要なの! 敵はそう簡単にやられてはくれないのよッ!」


 誰も簡単に勝てるとは思ってないよ。ただ、簡単に勝てたら良いな~とは思ってるけどさ。


「まあ、そう怒るなよ。あれはこいつなりの優しさなんだからさ」


 赤毛の男性、林隆二さんが間に入った。


「導師から聞いたが、あの子らティンカーベルの友達なんだろう」


「なるほど。追い返そうとしたのね」


 3人の視線から逃れるようにお茶を飲んだ。


「前にもいったが、子供を戦いに巻き込むなど不本意なことだ。しかし、あの2人の心の強さ、体の強さはベルを継ぐのに相応しいのだ」


「おれはティンカーベルに賛成だな。確かにあの2人の強さはずば抜けている。だからこそ今は慎重に育てるべきじゃないか?」


「これが3年前ならそうしていたわ。けど、今はそんなこといってる場合じゃない。魔王の目覚めは直ぐそこ。無茶はしょうちよ。だからこそのわたしたちでしょう!」


「ああ。おれも戦いの中で育ててもらった。こうしてベルにもなれた。だかそれはバルパーベルの死の上に生きている。それをやれというならおれは喜んでやるが、この子たちはまだ高校生だ。しかもあの森で沢山の死を見ている。それをまた見せるのは酷ってもんだろう」


 さすがベルを継いだだけはある。林さんの強さや悲しさが痛い程わかるよ……。


「───失礼します!」


 と、迷彩服に身を包んだ睦月と一樹が入ってきた。


 どちらもおれを見る目が刺々しい。敵にしちゃったかな……?


「座って」


 真子の命令に2人が席に座ると、突然ばーちゃんが立ち上がった。


「エルクラーゼ奪回作戦は、ティンカーベルを中心とした強硬突破で行く。エルクラーゼ奪回後は、全員でティンカーベルを守り、なんとしてでも基地に連れ帰る。これは司令部の決定だ。いいな、ティンカーベル?」


 良いも悪いも最初からおれにあったのかよ。


 なんて突っ込みたいところだが、自分の意志でここにきたのだ、拒否などない。


 言葉には出さず、黙って湯飲み茶碗をかかげて見せた。


「明日を求める勇者たちに光あらんことを」


 おれを抜かす全員が席を立ち、ライラさんを抜かす全員が承諾の敬礼をした。


 ……さて。殺し合いの始まりだ……




      ○●○●○●○●○●















読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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