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第六章 其の1

   ~~第六章~~



 ───特務とくむ甲殻こうかく師団しだん。第二富士基地。


 日本の、というよりは世界最後の砦だ。


 帰らずの森の殲滅を目的に生まれた基地なだけあり、兵員も装備も最強揃い。その敷地もメチャクチャ金がかかっていた。


 戦闘機や武装ヘリ、降下部隊や特別攻撃隊がいつまでも発進できるように滑走路が4本あり、それらを格納したり整備したりする建物といったらちょっとした街である。


 それだけでも凄いのに、戦車部隊やら装甲車部隊まであった。いや、戦車が200台以上並んでる光景は壮観だったよ。


 それだけ見るのに1日費やして一般兵員の宿舎や武器庫まで見れなかった。


「……眠れんのか……?」


 中央司令部の屋上でぼんやり戦闘ヘリの夜間訓練を眺めていると、真子がやってきた。


「まーな」


 迷彩パンツにTシャツ姿の真子は、おれと同じように手摺に腰を下ろした。


 甲殻連隊連隊長、柊真子少佐。生還者で初の佐官で、なかなかの実力者だそーだ。


「2日後、森に入ることになったわ」


「あ、そう」


 そのためにきたんだ、驚きはないよ。


「……森に入るのは、ベル3人とわたし。そして、睦月くんに一樹くんの6人で魔鋼機エルクラーゼを奪還。甲殻隊は陽動。甲機隊はわたしたちが帰還するまでの退路維持よ」


「失敗するとどうなる?」


「『シル』や魔将ましょうたちが飛び出して7年前の続きを行うわ」


 あの児童公園に現れた男も魔将の1人で、他に30人くらいいるそーだ。


 ベルと同等の力を持つ『シル』は3人いたらしいが、闇の力を持つ『ラルガーシル』は降臨戦争(7年前の戦いをそう呼んでいるそーだ)でばーちゃんに倒しれ、炎の力を持つ『エルバシル』は魔鋼機エルクラーゼの自爆で破れた。そして、破魔の力を持つ『レルバードシル』は魔王を守護しているそーだ。


「魔鋼機エルクラーゼ。シズマの神鳥を基に創った鳥人型魔法鋼鉄機人。5人のベルで動くエルクラーゼが人類の最後の希望よ」


「それがなければおれたちに未来がない。シズマがシズマでなくなり、地球が地球でなくなる、だろう?」


 ここにきて3日。もう何度も聞かされたよ。


「おれはこの若さで死にたくない。彼女もいないし、やりたいこともある。なにより守ってくれる者と守らない者がいる。魔王だろうが神だろうがおれの幸せを奪う者に容赦しない。邪魔するなら排除してやるまでだ」


 なによりおれたちを苦しめた借りを返してやらなければ気がおさまらない。おれから大切なものを奪ったことを後悔させてやる。絶対、おれの手で殺してやるッ!


「そういや睦月と一樹はなにしてんだ?」


 説明やら基地見学であの2人がいることすっかり忘れてたよ。


「地下で訓練してるわ。忍くんもする?」


「遠慮する。小さい頃からじいちゃんに鍛えられてきたし、日頃も鍛えている。魔法関連も初代から受け継いでいる。あとは真砂美の心にどれだけ近づけるかだ」


 おれとベルの繋がりはないに等しい。だから第3者。おれとベルを繋げてくれている真砂美と意志疎通をはかり、理解することがベルを最大限に引き出せる最良の方法なのだ。


 初代は幼馴染みの魂を受け入れ、2代目は親友の魂を受け入れた。そして、おれは妹の魂を受け入れた。まったくやるせなさでいっぱいだよ。


「わたしにはベルの苦しみはわからない。けど、森で味わった痛みなら知っている。邪魔なる魔に負け魔獣になる人々が人であることを望む者へ襲いかかる光景を見た。母親が子供を襲う光景も見た。病院を出たわたしは自衛軍に入隊し、甲魔兵こうまへいに志願した。わたしから大切なものを奪った者に復讐するために辛い訓練も耐えた。魔法も覚えた。けど、わたしの力では魔将にすら追いつかなかった……」


 さぞ悔しかろう。そして、辛かろう。奪われたものが2度と戻らない命ならな……。


「おれがいうのもなんだが、ベルの力なんて望まない方が良いし、持たない方が良い。人でありたいのならな……」


 ひょいと屋上から飛び下りた。


 おれとベルに繋がりはないとはいえ、その強大な力を使うにはそれなりの体がなければ使いこなせない。使えば使う程、真砂美と思いが重なる程、おれの体は変化し、人ではなくなって行く。


 ……なあ、真砂美。おれ、加奈美に悪いことしたかな……?



(そうだね。あたしなら泣いちゃうな)



 ……グサっとくるな、それ……



(ふふ。お兄ちゃん、昔っから加奈美に甘かったもね~)



 そーか? 真砂美のワガママに振り回されてる方が多かったぞ。



(だって、そうしないと加奈美にお兄ちゃんを捕られちゃうもん。お兄ちゃん、いつだって加奈美ばっかり心配してさぁ~)



 しょうがないだろう。加奈美は大人しい性格……ん? あれ? 加奈美って人見知りする程内向的なヤツじゃなかったっけ……?



(ほんと、お兄ちゃんは勘は良いのにそーゆーとこは鈍いんだから。加奈美のがんばり見て、どれだけあたしが怖かったなんて知りようもなかったでしょうね)


 それはつまり、加奈美がああなったのは真砂美が原因ってことか?



(あっ、あたし、知らないも~ん───)



 と、心の奥に逃げて行った。


 やれやれ。都合が悪くなると直ぐ逃げるところは昔のまんまだな、まったく……。

 

 中央司令部の中へと入り、エレベーターで地下6階まで降り、看板を頼りに訓練施設へと向かった。


 で、歩くこと1㎞ちょっと。目的地に到着した。遠いよ!


 分厚い強化ガラスの向こう側は、黒々とした森が生い茂っている。


 そこは帰らずの森と同じ環境に造られた魔法訓練所で、包囲された森から逃げ出したレベル6からレベル16の魔獣が放たれている。


 そんな分厚い装甲と聖なる魔で囲まれた擬似世界で、甲殻鎧を纏った2人が何十匹という魔獣と戦っていた。


 ばーちゃんからスカウトされるだけあってレベル6からレベル16では訓練にはならない。なのか、あの日あの公園に現れた竜人型の魔獣───レベル23の群れが出てきた。


 と、近くのエレベーターの扉が開く音が耳に届いた。


 振り返って見れば甲殻鎧を纏った人たちが出てきておれの横で2人の戦いを観戦し始めた。


「……しかし、甲殻鎧を纏っているとはいえ、この短期間で見違える程強くなったな、あいつら……」


「ああ。どちらも筋が良い。完全に甲殻鎧を使いこなしておるよ」


 と、気配もなしにばーちゃんが横に現れた。


 ベルを継いだおれでもばーちゃんの魔を感じ取ることはできない。こっちは初心者。あっちは魔王を封じる程の大魔導師。レベルが違うってよ。


「睦月と一樹が持ってる剣と銃、なんか不思議な力を感じるだが、あれってシズマの技術か?」


 剣も銃もこちらのものであるが、斬れ味と威力が並ではないし、なにか白いものが纏っているのが見えるのだ。


「どちらもこちらの技術と金属を使用しておる」


「けと、あんな剣や銃を持ってる兵隊なんて見たことないぞ」


 あれだけ強力なら人類側にまだ勝算はあるだろうと思うのだがな……?


「オリハルコンという金属を知っておるか?」


「まったく知らん」


 速攻で答える。昔から理科は苦手なんだよ。


「……昔の希少金属で鉄より何十倍も硬いものだ。この基地を造るさい地下の遺跡から発掘されてな、ベルが生み出す武具と同じ効果があるので甲魔兵の武器として錬金したものだ」


「おれの光の刃も金属にできるってことか?」


 なんのことはない。たんなる魔力刀なんですよね、光の刃って。


「できることはできるが、威力は弱まるぞ。それに、お前の戦闘スタイルはなんでもあり。わざわざ1つにしぼることもなかろう」


 基本、拳と剣だが、勝つためならなんでも使う。なんたってじいちゃんの教えが『鍛えられた心こそ無二の武器である』だったからな。


「それでもちょっと試したいんだ、いいだろう?」


「まあ、良かろう。ただし、本気にはなるなよ。あの2人も戦いに出るのだからな。それと、武器は多く創れ。できればナイフ類を。贅沢をいうなら盾も欲しい。腕に装着するものや全身を隠せるものが良いな。そうだ。投擲用のナイフも欲しいかったのだった。できれば当たると爆発する───」


 なにやら永遠に要求されそうなのでとっとと訓練施設の中へと逃げ出した。


 ……まったく、ばーちゃん相手に下手なことはいえんな……




      ○●○●○●○●○●





読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。

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