表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/43

第五章 其の3

      ○●○●○●○●○●




 7年前、魔獣と化した人々がおれたちに襲いかかってきた。


 7歳のとき、誕生日祝いにじいちゃんからもらった小太刀で突き進むが、しょせん10歳の体力ではそう長続きはしない。直ぐに追い詰められてしまった。


 殺される。それは生まれて初めて経験する恐怖だった。


 体が震え、涙が出た。全てのことから逃げたくなったが、おれがなんとかしなければ大切な妹が殺されてしまう。だから必死に堪えた。


 お前らなんて恐くない。負けるもんか。絶叫しながら、涙を流しながら戦った。魔獣となった人々を殺した。守りたいと、生きたいと、その思いで突き進み、そして、力を手に入れたのだ。凄まじい力を……。


 その力は本当に強大だった。それまで苦労して倒した魔獣を難なく倒し、行く手を阻む森を簡単に薙ぎ払った。


 その力が余りにも凄く、おもしろいように死んで行く魔獣に酔しれてしまい、おれは大切なことを忘れていたのだ。おれの後ろには大切な"妹たち"の存在に……。



(そうだ。あの日お前は殺したのだ、もう1人の妹をな)



 ……なにもかも覚えている。妹が魔獣に変化して行く光景も、その苦しみも、その妹を殺す瞬間まで見ていたのに、おれは受け入れるのが嫌で逃げ出したんだ……!



(あのとき、お前が殺さなければもう1人の妹が殺されていた。お前がやらなければお前まで殺されていた。それが事実。それが全てだ。確かに、そんなものを見て逃げ出したくなるのは当然。苦しむのも当然。悲しいのも当然。だが、今ここで"名"を呼ばなければまた望まぬ事実がお前を潰す。───見よ)



 逆らうことを許さぬ意思がおれの顔を持ち上げ、男が加奈美の首をつかみ上げる光景を見せつけた。



(また、妹を殺すのか? それでもお前は逃げるのか?)



 ───ふざけるなっ! 誰が殺すかっ!

 逃げたりするかっ! あんな外道、2度もしてられるかよッ!



(……では、呼ぶが良い。我が手から受け継いだ光を。お前だけに許された聖なる名を、な……)



 熱き意思が消えると、優しくて温かい意思が輝き出した。


 その意思は段々と輝きを増して行くと、1人の女の子へと変化した。


 あのときのまま、元気な笑顔で、悪戯っ子の目で、おれを見ている。



(……お兄ちゃん……)



 腕を伸ばしてそのふっくらとした頬に触れると、温かい光がおれの中に流れ込んできた。



(……お兄ちゃんの温もりだ……)



 目にいっぱいの涙を溜めながら小さく笑った。


 ……ごめんな。お前のことを閉じ込めたりして……



(もう良いよ。ちゃんとあたしを思い出してくれたんだから)



 鼓動を感じる。温もりも感じる。意思がここにいると叫んでいる。



(お兄ちゃん。今のあたしには抱いてあげることはできないけど、あたしはここにいるよ。お兄ちゃんの力になるよ。だから忘れないで。あたしがここにいることを……)



 ……ああ。忘れたりはしない。逃げたりはしない。今度はちゃんと守って見せる……!



(……さあ、呼んで。あたしを……)



 ああ。そうだな。呼ばなくちゃ。遠い昔に封じた全ての光を……。


 心の奥で光が輝き始めた。


「……そうだ。もっと輝け、おれの大切な"真砂美まさみ"よ……」


 そして、蘇った。おれの"なる"が……。




      ○●○●○●○●○●









読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ