第五章 其の1
~~第五章~~
昼休み、自分の席でぼーっとしていると、クラスの野郎どもが集まってきた。
「なあ、風間。長津と篠原ってどうしたんだ? もう4日も出てこないじゃないか」
「ああ。美和ちゃんに聞いても出かけてるとしかいわないしよ」
もう4日か。時が過ぎるのは早いもんだ。
「人類のために奮闘してるよ」
事情を知らないおれにはそうとしかいえんよ。
「なんだよそれ?」
「ボランティア団体にでも入ったのか?」
「睦月はともかく一樹がボランティアはないだろう」
確かに。アレは綾子以外のことはどうでも良いタイプだ。
「まったく、バカは死ななきゃ治らないとは良くいったもんだな」
「なんだよ突然?」
「なんでもないよ」
あのビルの向こうにあるだろう帰らずの森へと意識を向け、ばーちゃんがいった言葉を蘇らせた。
帰らずの森の中心には『破壊の樹』と呼ばれる巨木がある。その元凶を倒さなければ森も魔獣も増え続ける。もし、結界の容量を超えれば大地の栄養を糧に魔王は目覚め、あの日見た光景が再び始まるという。
生命を歪ませる『破壊の樹』は邪悪なる意思。それが全世界に広まれば聖なる魔を使うばーちゃんたちに勝ち目はない。人類は滅亡するだろう。
『───地球が地球でなくなる前に。魔の星になってしまう前に破壊の樹を倒す───』
それを目指して次々と森へと入っているそーだ。
いずれ睦月や一樹も入るだろう。甲殻隊としてかベルの後継者としてかはわからないが、殺し合いに出るのは間違いない。森がなくなるか自分が死ぬまでな……。
7年前、それぞれの思いで生還したのに、また、それぞれの思いでで戻る。因果な運命ってか? まあ、決めたのはあいつらだ。おれがどうこういう資格はないんだけどな……。
「今日も戦闘機が飛んでるぜ」
澄みきった青い空に幾十もの飛行機雲がつくられて行く。
もう少しで夏がくる。楽しい夏休みがやってくる。
『───悲しい時代の暑い夏。楽しもうじゃないか、夏なんだから──』
夏は年に1度。今日という日も1度しかない。ああ、まったくだぜ!
「悪い。おれ、頭痛いんで早退する」
こんな天気が良い日に勉強なんてやってられるかってんだ。
燦々と輝く初夏の日差しを浴びようではないか。駆け巡る爽やかな風をこの身一杯に感じようではないか。さあ、飛び出そうぜいっ!
ってなノリで学校を抜け出した。
ロボ子ちゃんに見つかると厄介なのでいつもの経路で逃走。自画自賛したくなるくらい大成功であった。ガハハ───
「あ、お兄ちゃん」
「へ~。凄い抜け道を使ってたんですね」
と、体が爆破した。
余りにも油断してたのと、思いがけない人物の出現に魂の方まで吹き飛んだぞ……。
「───って、どうして綾子ちゃんがいるの!?」
「加奈美ちゃんが出て行くのが見えたから着いてきちゃった」
「ぜ、全然気がつかなかったけど?」
「エヘヘ。あたし、昔っから尾行が得意なんだ」
「いや、笑うところじゃないし、自慢するとこじゃないから」
「ごめんね。ここ最近、うちに誰もいないから誰かといたかったから……」
「ちょ、ちょっと、泣かないでよっ!」
「……ご、ごめんなさい……」
「もー、わかった。わかったから泣かないでよ! 一緒に行こう! 綾子ちゃんも一緒。どこまでも一緒よっ!」
「ありがとう、加奈美ちゃん!」
どうにかこうにか魂が復活。したけど、体はもうちょっと時間がかかります。
「お兄ちゃん、いつまで固まってるの?」
「うちのお兄ちゃんも忍先輩くらい柔軟だったら良かったのにな~」
「いいじゃない。お兄ちゃんを殴るのは許せないけど、あの一途なところは共感できるわ。うん、立派よ」
「……愛の押し売りはいけないのよ……」
「そーね。だったら相思相愛になれば良いのよ。あたし、応援するわ!」
「あたし、禁断の愛なんてイヤ。もっと男の人と話して、いろんな人と恋がしたいわ」
「そんな不純なこといってたら変な男に騙されるわよ! もっと一樹さんを愛しなさい!」
「……加奈美ちゃんは、忍先輩を愛せて幸せ?」
「愚問ねッ! 誰よりも幸せ過ぎて申し訳ないくらいだわ。ねっ、お兄ちゃんっ!」
愚答だよ、こん畜生がッ!
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読んでもらえて嬉しいです。
ありがとうございました。




