第四章 其の1
~~第四章~~
「てあぁーっ!」
木刀を横に一閃させる。
そんなおれの渾身を木刀で受け止める睦月くん。まあ、受け止めるように放ったんだ、応えてくれなければがっかりだぞ。
とはいえ受け止めるのが精一杯らしく、体勢を崩してしました。まるでそれを見越していたかのように一樹が睦月の陰から飛び出してきた。
あの体でこのスピード。まったく嫌になるが、反応できないスピードではない。
蹴り上げられる右脚を紙一重で回避すると同時にこちらも木刀を下から上へと振り上げた───が、凄まじい反射神経で避けられてしまった。
直ぐに体勢を整えて、突きの連打。一樹が下がったところでまた睦月にチェンジ。打ち合いに転じた。
睦月を盾に一樹の侵攻を阻止。しばらく打ち合いが続くが、時間とともに睦月の攻撃が弱くなってくる。とはいえ、隙を見せないのが睦月の怖いトコロだ。
打ち込む速度をアップして、強引に隙をつくり木刀を絡め取る。飛ばされる木刀を視界にいれながら一樹に突っ込む。
渾身の1撃を交わす一樹。先日の礼た、避けるだけを堪能しやがれッ!
「忍ちゃん、止めなさい!」
うっさい。邪魔すんな!
その一瞬の隙を見逃さない一樹が勝負に出た。
その凶器といっても過言ではない拳でおれの愛木刀を横から叩き折ってしまった。
これといって不思議ではないので慌てず騒がずまず正拳に肘撃ちの2撃。まあ、避けられたはしたが、畳と友達にしてやることはできた。ケッ! ざまー見やがれってんだッ!
「それまで。もう十分でしょう」
はいはい、わかりましたよ。
破裂しそうな心臓に詫びながら折れてしまった木刀を拾い上げた。
……悪いな、折れるまで付き合ってくれて……
なぜか病院から脱走(って説明したら母上さまにしこたま怒られました)してから調子が良い。動いてないと気持ち悪いんだよな。
「そこで黄昏ている少年。そろそろこちらに気がついてくれないかしら?」
それが自分のことだと気がついて声がした方に振り向くと、ロボ美和が2機、並んでいた。
あ、この人……誰だっけ?
助けを求めて美和に視線を動かした。
「あたしの従姉妹の柊真子。たった4日前のことでしょうが」
「……あ、ああ。あのときの人か」
軍服じゃなくてスーツだったからわかんなかったよ。
「あ、わかった。見合いだな」
「違うわよッ!」
なんだ違うのか。スーツ着てたから
見合い帰りかと思ったよ。近所に住む知り合いのおねえさんも見合いのときスーツ着てたからさ~。
「だいたいなんで見合いなのよっ!」
「え? 彼氏ができないから見───」
躊躇ない鉄拳が飛んできた。
さすが従姉妹だけはある。グーで殴ってきやがったぜ……。
「美和っ! あんたどんな教育してんのよっ!」
「なにもそこまで怒ることないでしょうが」
「そうだよ。見合───」
ロボアームに負けない力で襟首をつかまれると、血がそうさせるのか美和と同じく往復ビンタを放ってやがった。
「それ以上いったら殺すわよッ!」
「……りょ、了解であります……」
それで納得してくれたのか、まるでゴミでも投げるかのようにおれを畳の上に放り投げた。
あー怖かった。まったく、とんでもない女だぜ。きっと彼氏ができないからヒステリーになってるんだな。まあ、わからんでもないがな。同じ───
「───思っても殺すわよッ!」
「……イエッサー……」
しょうがない。ここは大人しく引き下がるか。
こーゆー自分を突き進むタイプにろくなヤツはいないもん。経験がそういってるもん。
おれの読みに間違いはないとダッシュで道場を出ると、そこにお兄さま2名が立っていた。
まずいな。この『わたしたちは軍人です』といいたげな肉体を持つお兄さまを排除するには体力が落ちている。
「退いてくださいっていったら退いてくださいます?」
「……………」
「ダメですか。ならおれが許す。やっちゃってください」
お兄さま方の背後でにこやかに笑う綾子ちゃん。その両手には凶悪なスタンガンが握られていた。
「───ッ!?」
振り向く暇なくお兄さま方が地に落ちた。
「今時の高校生は魔獣より怖いんだよ、お兄さま方」
綾子に礼をいって部室へと駆け、急いで着替えとおニューのローラーブレイドを抱えて第2校舎の屋上へと向かった。
ここはおれと睦月だけが使える逃げ道があるんです。
ローラーブレイドに履き替える。
「よしっ!」
気合いを入れて屋上の端まで移動し、30m先のフェンスを睨んだ。
「───GO!」
フェンスに向かってローラーブレイドを滑らせる。
心地好い風を感じながら体に流れる『魔力』を練った。
この力はおれが人間として生き抜いた証拠でありあの地獄が本当にあったことを証明でもある。
最初はこんな力は嫌で嫌で仕方がなかったが、睦月と知り合ってからは少しずつ向き合えるようになり、睦月の『守る力が欲しい』って決意がなければ一生隠しているところだ。
そう。これは戦うための力じゃない。誰かを、妹を守るための力なんだ。
フェンスまで2mという地点で練っていた魔力を全身に行き渡らせ、ロケット噴射をイメージして開放させた。
浮遊感と風圧を感じながら8m先のビルの屋上に着地。そのスピードを殺さぬまま滑り、また魔力を開放して隣のビルに着地した。
「フゥ~。ここまでくれ───ふぎゃん!」
後ろに気配を感じて逃げ出したらなにか目の前に見えない壁に激突した。
「そこで逃げるとはな。なかなか勘が良い」
激痛に耐えるおれの背後からしわ枯れた声が上がった。
第6感が逃げても無駄と叫んでいる。なら、あらがうだけ無駄。んじゃ振り向きますかね……。
タンクの上に黒いマントを靡かせた銀髪のばーちゃんが立っていた。
……死神といわれてもおれは否定しないぞ……
「森から逃げた者は1人残らず回収したと思ったんだがな、良く逃げ出せたな」
「昔っから勘が良いんでな」
「なるほど。だが、勘だけで生き残れる程甘くはないんだがな」
「確かにな。だが、無意識のことまで責任は持てんよ
「確かにな。だが、意識的に記憶を封じたらそれは己の責任だな」
「…………」
「随分と深く封じているな。どんなことがあればそこまで深く封じ込めるのだ?」
「……なにをいってるかさっぱりなんだがな。いいたいことがあるならはっきりいってくれんかね」
まあ、わかってはいますけどね。
「柊がいったことだ」
「そこに拒否権はあるのか?」
「一応は、ある」
もう脅し以外なにものでもないよね、まったく。
「受けるもよし。断るもよし。お主が選べ」
「そーゆーセリフは逃げ道を閉ざす前に
いって欲しいもんだね」
「フフ。なるほど柊が手を焼くはずだ。良い根性をしておる」
おれから努力と根性を取ったら正真正銘のケダモンだよ。
「わしも鬼ではない。これを見てから答えるがよい」
ばーちゃんの姿が揺らぎ、意識がどこか遠いところに引っ張られて行った。
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読んでもらえて嬉しいです。
ありがとうございました。




