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第三章 其の4

削除した部分を復活させたのでグダグダです。すみません。軽く流してくださいませ。


      ○●○●○●○●○●



「パワーレッドがんばれぇー!」


「負けるなー!」


 子供たちの声援を受けるおれ───パワーレッドは敵の拳銃に脅えていた。


 ……そりゃいったよ。敵はどこだって。だからってなにも本当に出すことないじゃないかよぉ……


 確かにパワーレッドはヒーローだ。パワーソードを振り回し、パワーガンで敵を撃ち払う。ああ、仕事上見ているからその強さも知っているさ。


 だが、あれはテレビの中のお話であり、おれの右手にあるパワーソードもプラスチック製品だ。まあ、武器にはにるだろうが、拳銃持ってる奴に挑もうとする武器ではない。


 ……これで十分という奴、代わってやるから今直ぐここにこいや……!


「くるなァー! きたら撃つぞッ!」


「落ち着けっ! 誰もあんたを捕まえようとはしない。だからその子を放せ!」


「うるせーっ! お前におれの気持ちがわかるかーっ!」


 ああ、知らねーよ! 知りたくもないわっ!


 なんて叫びたいが、女の子を人質にされた状況では下手なことはいえないだろう。


 まったく、フラれて自棄になる気持ちはわかるが、だからって拳銃持って暴れることはないだろう。人に向ける前に自分に向けやがれってんだ。


香織かおりを出せっ! ここに連れてこいっ!」


「香織って女はいないっていってるだろう!」


「ウソをいうなっ! 香織はここで働いているんだ、早く出せっ!」


 ったく、めんどくせーな。っうか、香織って誰だよ?


 にしても叔父さんもムチャゆーよな。高校生に説得とか。


 ……いやまあ、成功したらボーナスを出すって言葉に乗っちゃったおれがバカなんだけどな……


「わかった。今呼ぶからその子を放せ。人質ならおれがなるら」


「うるさい!」


 ───ズダン!


 轟音がした。と、おれの横にあたエンジェルくるみ(等身大フィギア)がの頭部が弾け飛んだ……。


 ……おい。


「───テ、テメーこの野郎! 危ねーじゃねーかっ! 死んだらどうすんだっ!」


「うるせー! おれと香織の邪魔する奴は死ねー!」


「死ぬのはテメーだ! 女にフラれたたからって逆恨みしやがって! そんな腐れ男に生きてる価値なんてねーよ! 腐るならゴミ箱で腐りやがれってんだ、こん畜生がっ!」


「お前にもてない男の気持ちがわかるか! 香織はおれの全てだったんだっ!」


「ケッ! そんなんだからフラれるんだよ。男なら諦めんなよっ! 腐んじゃねーよっ! そこで止まったら幸せはこねーんだぞ! おれなんか何度邪魔されようが諦めたりはしねーぞ! 例え神が邪魔しようが諦めたりはしない。おれは彼女をつくる───って、おいっ!?」


 力説するおれを無視して腐れ男が倒れた。


「忍先輩。大丈夫ですか?」


 と、ワンピース姿の綾子あやこが現れた。その可愛らしい手に"スタンガン"を持って……。


 もう考えるのも突っ込むの怖いよ!


「忍先輩。その人死んじゃいましたかね? これ、ちょっと強いんですよ」


 不安ならやんたよ!


「……いや、まあ、大丈夫だろう。こーゆー奴はしぶといから」


 根拠はなにもないけどね。


「ほっ。良かった」


 さ、爽やかに微笑むね、綾子ちゃん。ぼく、ちょっと引いたよ……。


「───忍、大丈夫か!?」


 お客さんを避難させていた叔父さんが戻ってきた。


 落ち着いて周りを見渡すと、声援していた子供たちも人質にされていた女の子も安全圏に誘導され、愚かなフラれ男くんがお縄にされていた。


「なんとかね。でも、もう2度とやらないからね!」


「ああ。加奈美に知れたら殺されるしな」


 仮面を外すと、押さえていた汗が一気に吹き出し、脚から力が抜けて床に沈み落ちた。


 思わず血が昇ってしまったが、拳銃にさらされるってのは心臓に悪い。マジ兵器は怖いわ~!


「どうぞ」


 差し出してくれたハンカチをありがたく受け取り汗を拭った。


「───忍!」


 聞き慣れた声に顔を上げると、久しぶりに見る父上どのがいた。が、その横に浮気相手と思われる香山かやまさん(?)もいた。


「久しぶり。加奈美まだ怒ってた?」


「聞くくらいなら早く帰ってこい。魂抜けてたぞ」


 そりゃ不味い。早々に帰らないと加奈美のやつ餓死するぞ。


 あいつ、行動は過激だが中身は繊細にできてる。許容を超えると魂が抜けるのだ。


 ……ほんと、加奈美に支配されんな、おれって……


「ああ、今日帰るよ」


 そろそろ睦月の家にいるのも飽きてきたしな。


「兄さん。忍は疲れてるんだから程々にしてくださいよ」


「ああ、わかってる。香山。鑑識に連絡してくれ」


「はい」


 しかしなんだ。香山さんって男を寄せつけない雰囲気を噴き出しているな。


 うちのとうさん、自分から進んで女を口説くタイプじゃない。見た目はいいが中身は昔気質のデカ。かあさんに押されて結婚した男だ。


 そんな男がこの鉄の女を口説くなんてありえないが、この人も口説く姿も想像できない。大人の恋愛は理解できんよ……。


「忍。とりあえず休憩室で休め」


「ああ、そうするよ」


 叔父さんに促されて休憩室へと向かう。


 その途中、店内放送で事件が解決したことを告げているが、おれの中ではまだ解決していない。


「叔父さん。香織って誰? そんな人、いたっけ?」


 そう尋ねると、なんとも不可解な顔でおれを見た。


 ってことはやはりアトラクション係の人か。誰だ?


「……お前らしいといえばらしいが、もう1年もバイトしてるんだから仲間内の名前くらい覚えておけよ……」


「だって役名で十分通じたから。で、なに役の人なの?」


「司会の山口……いや、エンジェルくるみの司会をしていた方だよ」


「ああ、あの司会のおねえさんか」


 顔と名前が一致した。


 全てが解決された心地良さ。これで事情聴取がなければいうことなしなんだが、事情聴取経験者としてはため息しか出てこない。結構面倒くさいんだよ、事情聴取って……。


「忍先輩のおとうさんって渋いですね」


「外にいればな。家じゃ空気の抜けた風船だよ」


「───それは安息している証拠よ。外では危険にさらされているのだからもっと優しくしてあげなさい」


 と、第3者の声が入る。香山さんだ。


 化粧っけもなく、パリパリのスーツに身を固めた女刑事。この歳(25、6歳かな?)で警視庁に入れるんだからエリートなんだろうよ。


「忍くん、だったわね?」


「はい。事情聴取ですか?」


「ええ。体調が悪いならもう少し後にするけど?」


「大丈夫です。慣れてますから。こういうことには」


 ……嫌な慣れだな、まったく……


「そう。なら始めるわね───」


 年上が嫌いなおれとしては少々悪意は入るが、しゃべり方には好感が持てた。


 見た目は固いが口調は柔らかい。こちらの負担にならないように配慮もしてくれる。こーゆー人ばっかりなら年上にも興味が持てたんだけどな~~。


「───ありがとう。ご協力感謝します」


 意外と早く終わってしまった。


「いいんですか、こんなんで?」


「ええ。思い出すことがあるならおとうさんに伝えてちょうだい」


 口許だけ笑って去って行った。


 ちょっとだけ年上の女の人を見直した。なんでああいう女の人が世間に溢れていない。世の中間違ってるぞっ!


「忍。今日はあがっていいぞ。これではショーは中止だしな」


「了ー解」


 慣れてるとはいえ不幸の連続はキツイ。気分をリフレッシュしてから帰るか。


 なんて考えてたら叔父さんがサイフを出してお小遣い(1万円)をくれた。


「うまいもんでも食べて行け」


 もう、叔父さまったら太っ腹なんだからっ。惚れてしまうやろー!


 優しい叔父さんに大感謝し、お仕事をするパパさんのトコに向かった。


 なにやら仲間内でしゃべっていたので途切れるのを待ち、切れたところで素早く入って端っこに連れて行く。


「用があるなら後にしろ」


「10秒で十分。お小遣いちょうだい?」


 ニコニコ顔で愛しいパパを見る。


 渋い顔をしていたが、息子の愛らしさに負けたのか、懐からサイフを取り出した。


 開いたところで素早く1万円札を抜き取った。


「あ、お前っ!?」


「ありがとう、パパ! お仕事頑張ってねぇ~~!」


 捕まる前に休憩室から逃げ出した。


 フフのフ。これで新しいローラーブレイドが買える。フラれ男さまさまダゼィ!


 気分良く更衣室で着替え、よし出陣と出れば、なぜかニコニコ顔の綾子ちゃんが立っていた……。


「……えーと。どうしたの、かな……?」


「忍先輩を待ってました」


 当然とばかりに答える綾子さん。


 ……なんかこの子、付き合い難いなぁ……


 可愛いの可愛いし、好みではあるんだが、なぜかそれ以上の感情が出てこないんだよな~~。


 まあ、あのバカ兄貴が背後にいればそんな感情も出てはこないだろうが、おれの第6感が危険信号を鳴らしているんだよ。それも第1種警戒警報がな……。


「忍先輩。この後、なにか予定でもありますか?」


「あーいや、ローラーブレイドでも買いに行こうかなーと」


「良かった。あたしも買おうとしてたんです。でも、売ってるとこわからなくて、デパートならあるかなってきてみたらあの騒ぎがあったから」


 なるほどね。だからいたのか。って、そういえばおれ、綾子に助けられたんだっけ。


 ……なぜか非常識な助け方されたんで理解できんかったよ……


「悪い。まだお礼いってなかったな。ありがとう、助かったよ」


 つい怒ってしまったが、おれ、結構無茶なことしたんだよな。普通、キレた相手にキレたら最悪じゃんか。殺されても文句はいえないぞ。


「いいえ。あたしも助けてもらいましたから、おあいこということで」


「あー、そういやそんなことがあったっけ。いつも不幸だから忘れてたよ」


 幸せより大きい不幸が多いと小さな不幸が追い出されるんだよな。


 ……なんだろう。目が熱いや……


「忍先輩は強いですね。あたしなら諦めちゃいます」


 なんだろう。話の繋がりはまったく見えないが、物凄く同志感が沸き起こってきたよ……。


「いや、結構根性あるだろう。加奈美の眼光にも笑ってたし、さっきのバカにも躊躇がなかった。なにより加奈美の殺気に耐えられる女の子なんて綾子が初めてだよ」


「あたしもお兄ちゃんの攻撃を交わす人、初めて見ました。しかも、怖がらずに反論までするんですから」


 なるほど。おれと同じワケか。道理で同志感が沸き上がるはずだよ。


 過激なシスコンに耐えてれば嫌でも精神に耐性がつくってもんだ。


「お互い、異性運がないな……」


「まったくですね……」


 なにやら妙な連帯感が生まれた。


 付き合う付き合わないは別として、この子とは仲良くなれそうな気がする。それに、苦労を分かち合える者がいるって心強いよ。


 こんなトコ、加奈美に見られたら地獄を見そうだが、元々、地獄の中を歩いているようなもの。なるようになれだ。


「じゃあ、一緒に行くか?」


「はい! 喜んで」




      ○●○●○●○●○●







読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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