第三章 其の3
○●○●○●○●○●
日曜日。おれは睦月の家にいた。
いや、正確にいうなら病院脱走した日から睦月んちに厄介になっていた。
学校も病み上がりと称して休んで、加奈美から逃げていた。
賢明な諸君ならおれがここにいるのかわかっているだろう。
……だから助けてください! 加奈美の怒りを静めてください……!
あの晩、美鈴が住むマンションをやっとのことで見つけ出し、ベッドに寝かしつけて家に帰ると、我が妹どのが般若に変身していた。
おれの行動を読んでいた加奈美は、おれが帰ってくるまで起きていたのだ。
鉄拳が飛んできた。
体の細い加奈美ではあるが、おれと同じくじいちゃんに鍛えられている。しかも、空手は有段者で入部1月でレギュラーを得るくらいの実力者。その1撃は並の男じゃなくても悲惨な結果をもたらすことであろう。
なにに怒っているか理解はしたが、黙って受ける程納得はしていない。
無理やり付き合わされておでんを食べただけだもん。浮気じゃないもん。年上に興味ないもん。なにより妹にキレられる理由なんてないもん!
いわれなき罪を押しつけられて黙っている程おれは寛容じゃない。
鉄拳を避け、自分の部屋にダッシュ。当分の着替えと資金を持って窓からジャンプ。玄関へと戻り、靴とローラーブレイドを持ってアデューした。
それから3日。加奈美のいない生活をエンジョイしてたワケさ。
「うん? もうでかけるのか?」
例の雑誌事務所に行く日だそーだ。
「ああ。10時まで行かなくちゃならないからな」
「10時……って、もう8時かよっ!? 」
慌てて布団から飛び出し、あたふたと着替えた。
「がんばれよ、悪役さん」
睦月の嫌味を背にローラーブレイドを装着して睦月んちから飛び出した。
ここから1時間ちょっと。本気を出さねば遅刻する!
……しかたがない。"力"を出すか……
人を避け、車を追い越し、近道をすること40分。なんとか遅刻せずに北部百貨店に到着できた。
「おはようございまーす!
おもちゃ部(正式名は知らん)の部屋に入り、挨拶する。
ここがおれのバイト先だ。とはいっても働く場所は屋上であり、アトラクション係だがな。
今時珍しいが、北部百貨店は、ヒーローヒロインのアトラクションに力を入れている。売場にもステージがあり、土日はミニアトラクションをやってるくらいだ。
力を入れているだけあってアトラクション係の人たちは、現役のスタントマンにも負けない。なのでここで働くには並以上の運動神経がなければ勤まらない厳しい職場である。
「あ、忍。今日は売場の方に出てくれ。信高が休みなんだ」
と、アトラクション係の係長の叔父さんがやってきた。
この人は、かあさんの弟で高科豊さんだ。
「信高さんが休みなんて珍しいね? 風邪でも引いたの?」
まさに戦隊ものに出てくるレッドそのものの。元気が服着ているような人だ。
「いや、葬式だよ。おじさんが死んだとかで。だからパワーレッドをやってくれ」
「喜んでっ!」
ヨッシャー! 今日はツイてるぜ!
売場でのアトラクションは動きが小さくて済むから楽なんだ。これが屋上なら軽く1㎏は痩せれるくらい激しいんだから。
「おはよう、忍くん。今日はよろしくね」
「あ、司会のおねえさん。おはようございまぁ~す」
アトラクション係に2人いるが、未だに名前は知らない。2人同時に現れないから司会のおねえさんで済んでるからな。
「今日のアトラクションはなんですか?」
「今日は新商品が出たからその紹介よ」
新商品=新武器ってこと。なら戦闘はなしだな。ますますラッキー!
「じゃあ、直ぐに変身してくれる。打ち合わせするから」
司会のおねえさんに返事して更衣室に向かう。
「ゴーチェンジ! パワーレッド!」
変身してパワーソードとパワーガンを装備する。
「さあ、敵はどこだっ!」
○●○●○●○●○●
読んでもらえて嬉しいです。
ありがとうございました。




