第三章 其の1
~~第三章~~
「……またかよ……」
入学式に続いてまた同じ病院の同じ病室とは。誰だ、こんなところに連れてきた奴は?
あのときはここに1週間も拘束され、毎日のように腐れ看護師にオモチャにされたっけ。まったく、あいつのせいで毎日が悪夢だったぜ。
……あれから1年。やっぱりいるんだろうな……
「あら、お目覚めのようね」
って、いってるそばから現れやがったよ。聖マリアンヌ病院の悪魔が……。
「あらら、怖い顔しちゃって。キレイなお姉さんにあったら笑顔を見せるものよ」
「ケッ! 昔の悪行三昧を忘れる程バカじゃないんでな!」
「ウフフ。若気のいたりじゃないの。ねちっこい男は嫌われちゃうぞ」
「嫌われて結構。あんな辱しめを受けるんならなっ!」
この梶原美鈴、人が動けないのをいいことに、注射の練習に使うわ、盲腸の患者がいるからとアレは剃るわ、もういいように使いやがったのだ。お陰で年上の女が嫌いになったんだぞ!
……ただでさえおれには出会いが少ないのに、許容範囲を狭くしやがって……
「酷い。寂しいと思って一生懸命慰めてあげたのに……」
「はん! あんな慰め受けるくらいなら道端で死んだ方が遥かにマシだっ!」
「あ、それってキズつくぅ~。可愛いお姉さんのちょっとしたスキンシップじゃない。そんなに怒んないでよ~」
「あれで怒らない男がいるなら紹介してくれ! 代わりに突き出してやるよ!」
「あら、あたしの魅力になびかない男の子はいないのよ。忍くんみたいに嫌がる方が珍しい……って、もしかして、同性趣味?」
「違うわいっ!」
ったく、誰だよ、こんな女を魔界から召喚した奴は? 責任者出てこいやっ!
「うふふ。ほんと、忍くんっておもしろいわ~。こんなからかい甲斐のある男の子ってなかなかいないわ~~」
こっ、この女、いつか魔界に返してやるからな!
心に固く誓っていると、開け放れたドアからロボ美和が……2体、入ってきた。
「気分はいかが?」
いつものジャージ姿のロボ美和がいう。
「昨日はありがとうね。助かったわ」
頭に包帯を巻いた軍服姿のロボ美和がいう。
どちらも同じロボ美和だ。こいつ、量産型だったのか……?
「なに呆けてるの? ……忍ちゃん、打ちどころが悪かったんですか?」
「ええ。それで精神的におかしくなって、女と見れば襲いかかってくるんです」
「テメー! おれの視界から消えやがれッ!」
悪魔にマクラを投げつけてやった。
いつもいつもいぢめやがって。おれになんの恨みがあんだよ、こん畜生がっ!
「このように凶暴化してますのでご注意を」
「魔界に帰りやがれッ!」
ウフフと邪悪な笑みを残して去って行った。
「相変わらずモテモテね、お姉さんには」
「アレをどう解釈したらモテモテになるんだよ?」
「見たまんまじゃない。それより体は……大丈夫そうね。それでは」
当たり前だ。こっちとら剣の達人たるじいちゃんに鍛えられてきたんだ、こんな傷くらい3日で治してみせるぜ。
「んで、そっちのは同型機種───うごっ!」
手加減なしで殴られた。
「な、なにもグーで殴ることないだろうが! 怪我人に……」
「その年上に対する口の聞き方は壊れたままのようね。なんならリセットしてあげましょうか?」
「そ、それが教師のセリフかよ?」
「教師としての発言を求めたいなら、まず生徒としての発言を覚えなさい」
「…………」
畜生め。なんで女ってのは口が達者なんだよ……。
口で負けたおれは、無口な方へと目を向けた。
入ってきたときは同型かと思ったが、よく見ればちょっと違っていた。
ジャージのロボ美和は目が吊ぎみだが、目の前のロボ美和は目が垂れてる。体格もちょっと厳ついし、醸し出している雰囲気が真面目であった。
「わたしは柊真子。美和の従姉妹で見た通り軍人よ」
「見習───」
いい終る前にロボパンチがヒットする。
す、少しは手加減しろや! その拳には瓦20枚割ってんだからよ……。
「男嫌いのあんたが教師になるって聞いたときは驚いたけど、なるほど、こんな男の子がいるなら長続きもするわね」
「変な誤解しないでちょうだい。あたしは教師としてきてるの。そういうあんたはなにしにきたのよ? 甲殻連隊のお偉いさんが」
甲殻連隊? って、確か帰らずの森に
入る秘密の部隊のことか?
「いった通り仕事よ」
「アレを逃して事務にでも回されたの?」
「いわないでよ。まさかレベル22の群れができてるとは夢にも思わなかったんだから」
なにやら難しい話をしているようですが、おれに関係ないのなら出て行ってくんないかな。早く寝て早く回復したいからさ~。
「おっと。そんな無駄話している場合じゃなかったわ。風間くん、起きてちょうだい」
「……なんだよいったい?」
「自衛軍に入らない?」
なんの説明もなく入れといわれて『はい』と答える奴、近い将来、悪徳商法に引っかかって身を滅ぼすから注意しろ。
「時給いくら?」
「……げ、月給制だから、いくらとは……」
「じゃあ、断る。よーするにあの変なの着て魔獣と戦わされるんだろう。おれは、そんなことに青春を費やしたくないし、人殺しなんてまっぴら。なにより、おれは彼女をつくらないとならないんだ、そんなことしている暇はない」
「……魔獣に人殺し、か。あの森を知ってなければ出てこないセリフね……」
チッ。生還者を収容する軍人の前でいうことじゃなかったぜ……。
「いっておくが、世間でいわれることは全部ウソだってわかってるんだ、感染とかなんとかいわれて連れてかれる覚えはないからな」
「もちろん、収容する気はないわ。自衛軍に入ってくれるならね」
「ふん。聞くけど、知ってて人を殺すのってどんな気分だよ?」
「吐き気がするわ。けど、魔獣となった人間は元には戻らない。なら、殺してあげるのが救いじゃない」
多分、こいつのいうことが、正しいんだろうし、おれもそう思う。けど、人が魔獣になるところを見たことがあるか? おれはあんな地獄2度と見たくないんだっ!
「……君は、なぜ逃げなかったの? 十分逃げるチャンスはあったのに。調べたら、入学式のときも率先して戦ったそうじゃない。どうして危険だと、敵わないと知っているのに戦うの? あの光景を知っているのに……」
その眼差しに耐え切れず、目を背けてしまった。
クソ! これなら美鈴の悪戯を受けている方がよっぽど楽だぜ……。
「ちょっと、人の生徒をいじめないでくんない。勧誘が目的ならお門違いよ。忍ちゃんは筋金入りの平和主義者。人とは絶対に戦わないわ」
「ふふ。すっかり教師になっちゃって。まあ、いいわ。今日はお礼をいいにきただけだから。あのとき君たちがきてくれなければ死んでいたわ。ありがとう」
「…………」
「美和も戻りたくなったらいつても返ってきなさい。第6特機隊のエースならいつでも歓迎するわ。じゃあ、忍くん。またくるわね───」
去って行くロボ美和2号から1号へと目を向けた。
ロボ美和、帰らずの森が現れる前に組織された特殊部隊にいたのかよ……。
「森に入る奴らって、あんなの着て入るのか?」
「アレは甲殻鎧といって生還者専用の鎧よ。一般の兵は甲殻プロテクターよ」
「美和はなんで辞めたんだ? それだけ強ければ隊長にもなれただろうに」
自衛軍のレベルは知らないが、美和の実力なら連隊長でも不思議ではない。なんたって、美和が空手部顧問になってからは"常勝青海"って恐れられているんだからな。
「美和先生! あんな悲劇のヒロインを庇って死ぬなんてゴメンだわ」
つまり、あの柊って人も生還者ってワケだ。
「いいのか、一般人にしゃべっても?」
「いいのよ。甲機兵や甲魔兵がいる特務甲殻師団の存在なんてちょっと調べれば直ぐに出てくるんだから。それに、あたしがいた特別機動隊なんて役立たず扱いされてるのよ。そんなところに義理立てしたってしょうがないわ」
そんな毛嫌いしてるならちょっと聞いてみるか。
「美和はあの"力"が使えるのか?」
「美和先生! あたしら特別機動隊は、森が落ちる前に設立された一般兵よ」
「じゃあ、さっき出てきた特務なんとかとは違うのか?」
「特務甲殻師団ってのは、森が落ちてから創設された多国籍軍。甲殻連隊。甲機連隊。降下部隊。空撃部隊。戦車部隊からなる人類最後の砦よ」
「ふ~ん。で、レベルってなに? 戦うと力が増すアレなことか?」
RPGはやったことないんでわからんけど。
「帰らずの森に生息する魔獣は大きく分けて24種。レベル15以下が元人間だったりペットだったりする森の警備兵。ここまでなら一般兵器でなんとかできるレベルね。レベル16以上は魔の実で生まれた魔法生物。この主力兵には専用の武器と特殊な能力がないと対抗できない。これと戦うのが真子率いる生還者部隊。つまり甲殻連隊よ」
「の、割りには負けてたぞ」
「アレは真子がバカなだけ。中で散々戦った後、逃げ出した魔獣まで相手しようとしたんだから。外には特別攻撃隊や降下部隊、自衛軍が、構えているっていうのに。まったく、命懸けたって報われる訳じゃないのに……」
「ロボ子ちゃんのイトコとは思えない責任───」
突然、ロボアームがおれの襟首をつかみ、これでもかってくらい微笑んだ。
「いい、忍ちゃん。退院するまで美和先生っていえるようになるのが君への宿題よ。できなかったら殺しちゃうからっ」
「……は、はい。善処いたしますであります……」
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読んでもらえて嬉しいです。
ありがとうございました。
『聖なる空の天女たち』も投稿してるので間が開きます。すみません。




