プロローグ
夢を見ている。
暗闇の中。前後左右上下、真っ黒に塗りつぶされたような闇の中でなぜか自分だけは視認できる世界で、レイはことりと首を傾げた。
いつもの夢だろうと思う。
なのに、どこかがいつもと違う。
思い出せそうで思い出せないそれにふと眉をひそめた瞬間、
背後から『声』が聞こえた。
たすけて
たすけて
憐れなまでにか細い声。
この夢にいつも現れる誰かの声。
胸の奥の奥にある何かを掻き立てるような、そんな不安を宿した声。
「どこにいるの?」
思い切って声をかけるが、応えは返ってこない。
胸を引き絞られるような泣き声だけが、いつも聞こえてくる。
切ないまでの悲しさに、レイは胸に痛みさえ覚える。声の聞こえる方向へと走るけれど声の主のところへはいっこうにたどり着かないのだ。
いつもの夢。
そこに
(たすけてはだめだ)
ふいに耳元で聞こえた声にレイははじかれたように顔を上げた。
「だれ?」
この夢を見続けて、初めて聞こえた。
優しい暖かい男性の声。
(あれはああしているのがうんめいなんだよ)
「どうしてっ」
泣きたいのをこらえてレイは尋ねた。
だってあんなに、辛そうに、ずっと、
「なんで、助けたらいけないの」
(あれはそのしょぐうにふさわしいことをした)
(たすけたりしたらきみがそこなわれてしまう)
(それはいけない)
「でもあんなに辛そうな声、」
とうとう泣き出したレイに声はどこか苦笑したような色を乗せる。
(きみはやさしいんだね)
「そんなことない」
(やさしいよ)
そして、ふわりと
(もうこのゆめをみてはいけないよ)
そして、レイは目を覚ました。