第9回:たわいなく騙されて
ユーワにとってタンゴは家族も同然だ。
タンゴにとってもユーワは唯一の家族である。たとえ、タンゴが実の親の顔を覚えていたとしてもそうだっただろう。
タンゴは集会に行くのを嫌がった。ユーワはこれまでのように決して怒らず優しくたしなめたが、タンゴを留守番にはさせなかった。
タンゴは行きたくない理由を言わなかったが、ユーワには薄々予想がついていたのかもしれない。
けれど、ユーワはタンゴを集会に連れて行った。
「アンチユダ?」
タンゴは聞き返した。
そう、とジェラスはしたり顔でうなづく。
タンゴはその言葉に聞き覚えがなかった。いや、聞いたことくらいはあったかもしれないが故郷にいた頃色々教えてくれた先輩ネコはアンチユダという存在について説明しはしなかった。
「残酷なやつだ! ひどいやつだ! 魔女という魔女の敵。とってもおっそろしーやつのことだ! お前みたいなできそこないのネコを連れてたら、お前のご主人様は……」
「ど、どうなるの…!?」
息を呑むタンゴに満足して、ジェラスはにやりとほくそえみ、もったいぶった言い回しで告げた。
「……十中八九、間違いなく、ぶっ殺されるのさ」
その言葉を聞いた途端、タンゴは呼吸を忘れた。
体中の毛が逆立った。
ユーワが殺される。
いなくなる。
タンゴは前に仲の良かった1匹の小鳥が死ぬところに立ち会ったことがある。うるさいくらいおしゃべりだったのになにも言わなくなって、冷たくなって、やがて土の中に埋められた。
ぽっかりとおなかの辺りに穴が開いたように寂しくなったのを覚えている。
ユーワが埋められてしまったら自分は穴ぼこだらけになってしまう。それどころか、穴が大きすぎて自分が消えてしまうんじゃないだろうか。
そうタンゴは思ってその想像もしたくない終焉を恐怖した。
「やだ、やだ。どうしたらユーワは殺されないの? どうしたらユーワは助かるの? ねぇ、教えてよジェラス」
タンゴの狼狽振りに、ジェラスの優越感は満たされたのか、ジェラスはおもいっきり意地悪な顔をして締めくくる。
「誰がお前なんかに教えるもんか! どうせ教えたって、できそこないのお前じゃ、うまくいきっこないね!」
ジェラスのからかいの後には決まって残されるうなだれたタンゴ。
タンゴは、すっかりジェラスに騙されていた。
タンゴにだってジェラスの言うことは嘘だと一笑にふすことくらいできた。でも、見えないなにかが自分達の家の外にいるというのは前から感じていたことだった。
タンゴは結局はまだ幼かったということもあるだろう。
タンゴは時々悪夢を見るようになった。