第8回:きらいな黒
「元気だよ」
おずおずと、タンゴは口を開いた。
「それは良かった。ところで、少しは黒くなったのかい? タンゴ」
ジェラスはからかうように言った。
いや、タンゴにはわかる。ジェラスは明らかにバカにしにきたんだ。
だって、こいつはタンゴが実は黒くないってことでたまらない優越感を得ているのだから。
「おやおや、またいっそう薄くなったんじゃないか? ダメだなぁ、タンゴは。黒猫がいいのに。魔女の使い魔なのに、黒くないだなんて!」
タンゴは黙った。言い返す言葉を見つけられなかったからだ。それでも、このままでは自分がどこかに消え入ってしまいそうな気がして、振り絞るよう小さな声で抵抗した。
「……ボクは黒いよ」
ジェラスは甲高い声で笑った。笑い声に反比例して、タンゴは自分が小さくなっていくような気がした。みじめな気がした。
「黒いだなんて、よく言えるね! 黒いとは、ボクのようなことを言うんだ。タンゴ、君の黒はにせものじゃないか!」
ジェラスは人目をはばからず散々あたりを笑い転げると、タンゴに興味をなくしたかのようにさっさと去っていった。
テーブルの下にはうなだれたタンゴと、食べかけのケーキ。
集会も最初の3回くらいは良かった。美味しいお菓子に甘いケーキが食べ放題だったし、魔女の足元で行われるネコ達の集まりも悪くなかった。
けれど、タンゴの黒の毛色がにせものだとばれてから、楽しいものではなくなった。特に、ジェラスにばれてからは。
タンゴは、自分が全然黒くないことを気にしていたのに。
4回目でばれてからというもの、タンゴにとって、集会の日はひたすらケーキを食べるだけに専念する、嫌いな日になった。