第26回:優秀な使い魔
「……ケンカになりました」
タンゴは報告した。
耳を澄まして、風の妖精のもたらす噂話を聞いていたグロリアは取り繕うように一息ついて化粧のチェックをし始めた。
「……そ、そう。そのようね。ありがとう、タンゴちゃん。もういいわ」
タンゴは軽く敬礼のポーズをとるとさっさとグロリアの部屋を出て行った。ユーワ以外の人間にはクールだっていうポリシーはまだ継続中なのだ。
ユーワが捕まってから二ヶ月経って、タンゴはグロリアの元で使い魔のアルバイトをするようになっていた。
きっかけは、タンゴが双子の魔女に対して使っていた遠目・遠耳の魔法にある。
生活をともにする中でタンゴがグロリアやジェラスに気の利いた行動をとったのは、一度や二度ではなかった。
ジェラスに先んじてグロリアのお出迎えに出たタンゴに、グロリアは「どうして私が早く帰ってくるのがわかったのかしら?」と尋ね、タンゴはクールに答えた。「ふ、妖精さんが教えてくれたんですよ」
ジェラスにはクールの意味がよくわからなかったが、タンゴが思いのほか優れていることはわかった。ジェラスは知らないような魔法のテクニックをタンゴは既にたくさん知っていたのだ。遠目・遠耳の魔法も本来ならタンゴ程度の使い魔が使えるはずのないものなのに。
めきめきと、見違えるようにタンゴは活躍し、そのうち、グロリアにつれられて魔女の集会に出ても、誰もタンゴをダメネコとか偽黒タンゴと呼ぶものはいなくなっていった。それどころか、黒猫でもないタンゴをこんな立派に育てていたのだとユーワの評価もあがっていった。
だからといって、ユーワの復帰が早まるわけでもない。それはそれ、これはこれってやつだ。タンゴもそのことは早くから知らされていた。
タンゴが立派な使い魔になろうと考えたのは、そういうんじゃない。
ユーワがいつか帰ってきたときに「一人でもがんばったね」って褒めてもらうためだ。
ユーワともう二度と離れないためだ。
そのために魔性を身につけるのだ。
だからタンゴは情報収集に余念がなく、どんなにくだらない知識も貪欲に吸収していって、いつしか魔女ネコの代表格となっていった。