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第25回:双子の魔女の口げんか

 ユーワが拘束されてから二ヶ月が経った。

 過ぎ行く時間というものは、受け取る人物の精神が積み重ねた年齢に対して、時間の重みが反比例する。

 双子の魔女の片割れ、エセ大阪弁のステフには二ヶ月は長すぎた。

「いつになったらユーワは開放されるんや。もう二ヶ月やって! 二ヶ月」

「まだ二ヶ月よぅ」

 ステフの隣を歩きながら、鏡に映したようにそっくりな容貌をした魔女は言った。エリーもまた、中途半端に覚え習ったエセ京言葉を話す。

「烙印を押された魔女は普通二年の間は組合の施設に監禁されるもの。ユーワはんが模範生と認められたとしても、釈放は早くても来年の秋になるわ」

「そんなに!? そらあかん。ユーワにとっちゃ、今が大事な時期やんか。昇級試験まるまる逃してまうで」

「そやねぇ」

「えらいこっちゃ。なにかないか。なんとか早いとこユーワを出してやらにゃ……」

「あきまへんわぁ」

 エリーのあまりの朗らかな口調のために、ステフには一瞬言葉の意味がとらえきれなかった。

 言葉の続きを待って、ステフは自分がいさめられたことに気づいた。

「それは、あきまへん。そんなことしたら、ステフまで風当たり強うなりますえ? ただでさえ昇級できるか怪しいのに。ステフは自分の立場ってものを考えておくんなはれや」

 魔女の階級制度は限定された魔女社会では強い意味合いを持つ。魔女の階級は魔女の発言権の強さとイコールで結ばれ、表向き近代化された魔女社会も実際には、お互いの魔術比べで実力を競った昔と、魔女社会統合規格による試験とランク付けで優劣を決める今と、サル山の判断基準がすげ変わっただけで、組織体制自体はなにも改善されていないともいえた。

「昇級がなんぼのもんじゃい」

「階級の上の者の横暴が許されている現状。ステフはんもご存知ですやろ?」

 魔女社会は縦社会。過去の因習は根深く、民主化が進む国際社会に浮島のように取り残されている。

「ああ、胸糞悪いばあさん方は見たことあるわ」

 また、魔女社会は閉塞した世界であるために、古い家柄を中心としたコミュニティの延長であるとも見ることができる。

 神のもとの平等だの、相互理解を掲げる民主化だのおべんちゃらを言っている水面下では、古い伝統に縛られ、誤りとしか思えない不合理がまかり通る。

 ステフなどは実の祖母から、成人までに一定の階級まで達していなければ勘当するとまで言われている。母も父も祖母の意見に反することはなく、ステフの姉も敷かれたレールどおりに既にA級魔女の資格を得ている。世間的な肩書きでしか人を判断することのない、ごく狭い視野を持つ、いびつな家系であった。

「今は堪忍しいな。ステフまでとばっちり受けたら、目も当たらしまへん」

「とばっちりって、んな友情にもとることようゆえんな! エリー!」

「そやかてステフ……うちはあんたのこと……」

 ぎゃあぎゃあと道端でケンカを始めた双子の魔女。のんべんだらりと仲裁を始めた同僚のカエルのポルカを横目に「ようやるわ」とため息をつくカラスのロンド。

 双子とはいえ離れていた時期が長かったせいか、二人はよくケンカをする。

 でも、それもお互いがいなかった時間を埋め会っているのではないかとも思うのだ。

 それにしても天下の往来でケンカし始めるのはどうかとロンドは思うが。

 ふ、とロンドは風の妖精と目があう。普通の人間には見えない、自然の精霊。人間の女の子の手のひらにさえおさまってしまいそうな大きさの小人で、目がくりくりとして、髪が長くて、半透明の少女の姿をしている。

 風も強くないのに、なんだか今日はやたらと、うろちょろしている。

(もしかして……)

 誰かに監視されているのだろうか。

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