第18回:不確かな怒り
黙りこくってしまったジェラスを前に、タンゴはどうしていいのかわからず自分の手をかいた。
ご主人様たちが穏やかに談笑している部屋の隣、電気のついていない用具室に彼女らはいる。
烏猫であるジェラスの毛並みは暗闇に溶け、ネコの目をしても見えづらい。薄い三日月のような瞳がぎらりと浮かんでいる。
ジェラスはどうしたのだろう。なにも言い出さない。
迷惑はかけないっていったのに、タンゴには理解できなかった。なんでジェラスは睨むように黙っているの?
瞳に呪縛されたかのように動けない。恐怖というなのロープはタンゴの小さな決意を縛る。
けれど。
「ボクは本気だよ」
自分を奮い立たせるように、改めて口にする。
そう、おびえてなんかいられないんだ。ユーワを守るためにボクは悪魔と命の取引をする。
自分のためなら尻込みしてしまうかも知れない。他ならない、ユーワのためだからこそタンゴは薄氷の上も渡っていける。ジェラスを前にしただけで縮み上がりそうになってしまうのにも抗える。
「ボクは悪魔と契約する。君は証拠を全部隠してほしい。ボクの体も含めて。ユーワやロンドにはわからないように」
ジェラスはかっとなった。
「ダメだ」
死体処理でもしろということか。
最中のフォローのほかにも、後片付けをしろということか。
ネコの終焉。
親しいものたちには屍をさらさない。
大事な人たちを悲しませないため。自らの死を引きずらせないための、最後の思いやり。
つまり。
彼女は僕が悲しむだなんて考えていない。
いなくなって嬉しがるものだと本気で思っている。
ジェラスは言いようもない怒りに包まれて、なぜ自分が怒っているのかもわからず、言い放った。
「不愉快だ。そんなこと、あきらめるんだな」
他に言葉はなく、話は終わったのだとジェラスの背中は告げていた。