第17回:悪魔との契約
悪魔の契約は禁忌の所業。
現代の魔女組合は公平・平等を旨に自ずから管理し、必要悪の反社会組織として存在している。
必要悪と言っても、ギャンブルなどの持つそれとは違う。発達した近代社会に致命的な影響を与えず微々としながらも利益をあげる代わりに生存を許してもらっているに近い。つまり、おめこぼしだ。
だから、築かれた秩序を崩壊させうる、悪魔との契約は認められない。
矮小な人間が分不相応な力を得てはいけない。
弱きものは弱いまま。強きものは強いまま。主従も、虐げる力関係も変化なく、安定し、揺るがない、それが社会の理想。
それが現代の風潮だ。
その風潮の中で、魔女たちはロウソクの火のように、かろうじて消えるのを免れている。
「わかってるのか?」
ジェラスは尋ねる。自分のしようとしていることの重大さを。
禁止されているだけではない。下っ端の使い魔には組合の危うい立ち位置など気にしない。
悪魔との契約は、それ自体危険だ。強欲な悪魔たちは決して自分たちに分の悪い取引をしない。常に優位に立とうとする、それが悪魔だ。
足元を見て無理に等しい要求をしてくることも珍しくない。
それなのに、君は挑むのか?
「ボクにできることなんて、たかが知れているから」
そんなことは知っている。
「ユーワのためにできるだけのことをしたいんだ」
たとえ、命を懸けても?
ご主人様のため、命を懸ける。その行為は褒められこそすれ、使い魔として非難されるものではない。しかし、なんだかジェラスには許せない気がした。
「ダメだ。やっぱり、そんなこと。悪魔との契約は禁じられている」
「契約するのはボクだけだ。君に迷惑はかけないよ」
タンゴは懇願する。
「多分、ボクは消えることになると思う。君はボクのこと嫌いだから、うれしいだろう?」
ジェラスは喧騒を忘れた。