第11回:すれ違う絆
夢…だった。
毛並みがじっとりとした汗に濡れていて、べたっと肌にはりつく。黒の染料が少し溶け出していた。
シーツの洗い直しだ、なんて考える余裕はなかった。はっと目を覚ました後もしばし呆然としていたがすぐに慌ててユーワの無事を確かめる。あんまり安らかな寝顔だったから、一瞬びびった。
タンゴはふぅと一息つくとともに今見た夢の内容を思い出して震え上がった。
あれがアンチユダ?
あんなのダメだ。大ダメだ!
ユーワを痛くするなんてゼッタイダメなんだ!
タンゴは悪夢を払いのける口実も見つけられずにいた。
「タンゴ、どうしたの? おいしくない?」
ユーワは普段はぼんやりとしているが、親しい人の感情の機微には恐ろしくさといことがある。その4分の1でも自分や他の人に向けられればいいのに、とも思うが、タンゴはユーワのそんなところも好きだ。
そんなユーワがタンゴの異変に気づかないはずもなく。
「そんなことないよ。ご主人様のお料理はいっつもおいしいです!」
「でも、食欲ないみたい。具合でも悪い?」
「ううん。なんでもない。なんでもないから」
「そう……」
以前のタンゴはユーワに隠し事なんてしなかった。
でも、最近…特に日本に渡ってくる前後から少しずつタンゴだけの事情が増えてきた。
先輩ネコに言わせれば、タンゴも使い魔ネコとしての自覚が出てきたということなのだろうが。
故郷にいた頃のあの出来事があってから、ユーワは時折憂いを帯びた表情を見せるようになった。タンゴはユーワにそれ以上悲しくなってほしくないと思った。それだけだった。
タンゴは自分で解決できることはそうしようとしていた。ユーワに心配をかけないように。
ユーワもタンゴをかわいがりながら、甘やかしはしない。これから先、いつも自分がそばにいるとは限らない。だから、タンゴには立派になってほしかった。
お互いを思いやる気持ちが、一緒だった2人の生活を徐々にずらしていくとしても。
ユーワの学期末試験が近づいてきていた。
双子の魔女がやってきたのは、その頃だった。
そして、魔女が1人死んだ。