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上官殿の申すことには。  作者: 此花タロウ
上官殿がセクハラな件には
25/33

甘く、疼かせるもの

 うっすらと、やわらかな朝の光が仄かにさしこむ宿の部屋。

 部屋の中央に鎮座したベッドの中で見つめ合うは男と女。



 ――こう書くとアレでR18な展開ですか!

上官殿の~(ここ)」はR15です!(・・・たぶん)

 総員退避、回れ右―――!レッドカードにつき即退場!!

 と、なりそうながらも・・・よく見ればそうではなく。 

 実際、黙する二人の間には言はなく、視線の先は交じらうことなく膝に落ちるのみで。



 

 だが・・・上官殿はどうやら再び眠りの雲に襲われ始めたらしい。その目の焦点が再び、ぼんやり彷徨い始めている―――しかし、ここで二度寝されては困る!

 ベッドの上にきちんと正座をしたシズリは改めて背筋を伸ばし、真面目な話を続けるべく、きっ、と表情を引き締めた。


 これは彼女自身は勿論、当事者であり、直属の上司たる中佐殿ご自身にもきちんと事実を明らかにするだけでなく、 互いの認識を一にすべき大事な事柄なのだから。


 

 こほん、と咳払いをひとつ。


 

「中佐殿、そこにお座り下さいませ」

 

「・・・座っているが」

 

「ぐっっ・・!―――失礼いたしました。では、改めて再度確認させていただきますが、昨晩は〝何も〟なかった、ということでよろしいんですよね?」

 

「・・・・・・・。では聞くが、〝何も〟とは何が、だ?」

 

 具体的に、かつ詳しく頼む、とぼんやりと霞んだままの瞳の・・・寝起きでござい、といった風情のまま、答えにくい問いをしれっと投げてくる上司に・・失礼ながらも少々いらっっとくる。


 〝何も〟って・・・〝ナニも〟に決まっていますでしょうが!そしてそんなこと・・言えるわけがないでしょうが!!そこはそれ―――察して下さいよ!!!


 

 え、もう少し詳しくお話下さい!そんな風にぶつぶつ言われても、よく聞こえません。もそっと大きな声でお願いいたします・・・。

 ・・・って!ちょ、なにまたまたうつらうつらとしてるんですか!

 ちょ、ちょ、ま!!!




 

 いーやー!!!!人の膝を枕に寝ーなーいーでー!!




 

 シズリに向き合ったまま、腰から下はベッドの上にきちんと正座したままで上体だけでばたり、とシズリの膝の上につっぷしてきた上司の背をゆさゆさと揺らせども、揺らせども・・・聞こえてきたのはすぅすぅという平和な寝息のみ。


 

 先程話をしていたときも徐々に再び目の焦点がぶれはじめたな~、これはまだ眠いんだろうな~とは思ってはいたけれど・・・まさかこんなに急に、糸が切れたかのように突然寝こけるとは思いませんでした!



 予想外です。不可避です。突然回避できませんとも!ちゃんと取説に書いておいて下さい!!(涙目)



 だが困った。非常に困った状態だ。

 うーん、と嘆息しながらシズリはしばし悩み、考える。

シズリに寝衣を誰が着せたのか、ショートパンツと靴下を誰が脱がせたのか―――今は考えるまい。

 否、考えてはいけない―――そう、決して!!


 

 そう自分に言い聞かせながらも、こうしてよくよく自分の、上官殿の着衣の状態を見てみれば、上官殿は昨日の服のままで・・・きちんとベルトもしたままだ。

 自分も寝衣の下にはきちんと胸当ても下着もつけている。

(もっとも、胸当てに仕込んでいた仕込みナイフはさすがに抜き取られていたが・・・)



 そう―――昨晩は何もなかった。そうに違いない、うん!



 

 落ち着き、きちんと順を追って考えていけば心が平生の状態に追いついてくる。つい先ほどまでのパニック状態からは何とか脱せたようだ。

 すわ、私ってば上司を襲ったのデスカ!?とついないほど焦り、ぴぃぴぃと喚いた挙句に土下座まで披露してしまったことを思い出せば・・・思わず頬が羞恥に赤らむ。



 ―――もっとも、肝心の上官殿は寝起きの不機嫌ぼんやりオーラのまま、私を子供のように抱き上げたかと思えば、何やらブツブツつぶやくのみで・・・聞いてたんだか、聞いてなかったんだかよく分かりませんでしたが。


 

 先程まで上官殿が(ぼんやりした瞳のまま、ではあったが)ぽつぽつ、ぶつぶつとつぶやいた限りでは、どうやら私は手当を受けながら、あのまま寝てしまったらしい。

 何でまた突然寝てしまったのか、甚だ疑問であるし・・・その直前に何だか色々やらかしたような気がするが・・・上官殿がそう仰るのですから間違いないのだろう!



 そう―――何もなかったのだと。そうに違いない、うん!



 

 シズリは問題を、胸に浮かぶいくつかの疑問を他所の棚に上げておくことにした。これ以上考えないほうがよい、身のためだと自らに言い訳しつつ。



 

 そう自分自身に納得させれば、改めて今の状況に戸惑う。相変わらず上官殿は(人の膝の上で)気持ちよさそうにお寝み中だ。

 思わずしげしげとその寝顔を見入ってしまう。

 睫毛・・・ながっっ。肌もきれい・・・。

 そして、ほんの少しだけ、うっすらと顎に浮いた無精髭がどこか・・・普段と違い、より人間味を出しているようで。



 

 確か27歳だと聞いているが、こうして眠っているときの顔は意外なほどに幼く見える。 普段は一部の隙もないほど整った、どこか冷たくも遠い存在に思えるほどの美貌だというのに。

 〝氷の男〟だの〝無口・無表情・無感情の鉄面皮〟だの言われているのが・・・嘘みたいだ。



 

 シズリは知っている。

 たった一年、されどこの一年の間、最も傍近くに仕えたことで、この上司が見た目ほど冷たくも超人たる人間でもないことを。

 勿論、彼の持つその才は非凡でありえないほど優秀ではあるが・・・その実、努力を怠らない人だ。



 あのとき握りしめた掌は、日々剣の鍛錬を怠らないために硬い皮で覆われ、消えることのないマメがそこにあることを、部下をけして捨て駒にしたりなどせず、自分の身を盾にしてでも守ろうとする熱い心がその胸にあることを。



 

 そんな彼が朝に弱く、寝起きも悪いことをシズリは新たに知ってしまった。意外な一面だと思う。

 それにしても・・・まさかここまで、とは思いもしなかった。

 そして今は子供のようにシズリの膝に頭をもたせかけて眠っている。普段、あれほど近寄りがたい雰囲気を醸し出している彼が、だ。



 

 少し乱れて寝癖のついたシルバーブロンドにそっと指先を伸ばしてみる。それはさらさらとやわらかく―――指の間でするりとほどけた。

 その髪の感触が指に気持ち良くて、ついついたどってしまう。普段なら恐れ多くて絶対にできないことだけど。

 眠り込んでいることをいいことに、膝を貸しているのを言い訳にこっそり、あくまでもこっそりとその感触を楽しむ。



 

 こうして膝枕をしながら髪を撫でているとむずむずと・・・妙な気持ちがこみ上げる。

 上司が、あの(・・)ヒューバート・ヴァン・ラーツィヒ中佐がこうして無防備な姿を晒し、子供のように眠っている。

 しかもシズリの膝の上で、だ。



 そう思うと―――



 

(か・かわいい・・・)



 突然、胸の奥にきゅううん、とうずくものを感じた。


 

 ごくたまに、その美貌に見とれたときに感じるどきどきとは異なる・・・胸の奥をきゅうっと掴まれているかのような―――それは甘く、痺れるような感覚で。

 例えるならば、小さな子猫を抱き上げたときに感じた庇護欲に似て非なる・・・どこか甘くも痛く胸を苛む、これまでには感じたことのないような感情で。

 仮にも6歳も年上の、しかも上司に対して〝かわいい〟と、そう思ってしまうのはいさかか失礼かとは思うが・・・慣れぬ感情に戸惑わされた。




 

 再びその髪に指先を伸ばし、その目にかかる前髪をそっと指で払う。・・もう少しこのままでいてもよいかもしれない。

 そう思いながら。


 そして、そう思ってしまったのが・・・恐らく疲れているであろう上司を起こさないためになのか、はたまた自分の中に生じたこの甘くうずくような感情のためなのか・・・それはシズリ自身にも分からなかった。



 

 そのままどれほど座っていたのだろうか。

 窓からは先ほどよりも、より光を増した陽光がさしこみ始め、鳥のさえずる声が耳に届き始めた。

 だが、相変わらず胸を締めつけ続ける感情に戸惑いながら、半ば上の空のまま――再びその髪をすくいあげたところ、その群青の双眸がふ、とゆっくりと開かれた。



 

 わわ!!髪触ってたのがバレました!?



 

 思わぬ不意打ちにわたわたと焦るあまり、行き場を失くした手が空を舞う。

 とっさに身を離そうとするも、上官殿はぼんやりと視線をさまよわせたまま、相変わらずシズリの膝の間に顔をうつぶせたままで・・・その手はシズリの腰に回された状態のため、離れようにも動けない。



 

 こっそり髪をさわっていたのがバレたのか、そして何より―――この、バクバクと煩いほど鳴り続ける心臓の音に気付かれたのでは、と思えばいたたまれず・・・酷く気まずい。

 思わず視線を窓の外にそらし、気まずい沈黙を、この場の空気をやり過ごそうとした―――。

 が、腰に回された手にぎゅっと力が籠められ・・・シズリは思わず、自らの膝の上に顔を寄せたままの上司の後頭部を見つめた。




 胸が鳴る。口内が渇く。汗の滲んだ掌をぎゅっと・・・握りしめた。

 そのとき、上官殿の顔がふいに上げられ目と目があった。

 その群青の瞳が物問いたげな表情を浮かべたまま・・・ゆっくりとシズリの瞳を射抜いた。



 

「シノノメ少尉・・・君は・・・」



 

 ごくり、と思わず唾を呑む。次に告げられる言葉は果たして非難の言葉か、それとも謝罪か、はたまた・・・?



 

「黒、か・・・・」

 意外だ、君ならきっと白かと思っていたのだが。だが・・・云々。

(以下の言葉はシズリの耳には入らず。否、寧ろ入ることを拒否されました)




 


 シズリ・シノノメ少尉、21歳。

 生まれて初めて、思わず上司の顔面に膝蹴りを入れてしまいました・・・!!



こんなはずではなかったのですが・・。


このままではヒューバート氏がさらに残念な人になってしまいそうです・・。

普段はちゃんとかっこいい、まともな人(の設定)なのですが、寝ぼけて口がすべったもようです。


いっそ拍手小話にしてしまうか迷いましたが、載せてしまいました・・・orz

申し訳ありません。

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