美形上司とセクハラについての考察
「私のせ、生理予定日・・・?」
尊敬する上司でもあるヒューバートの口から転がり落ちてきた思わぬ言葉に絶句するシズリであった。
聞き間違いであって欲しい、いやいや、そうに違いない。
冷たき氷の男ともあだ名されるお堅い彼に限ってそのような発言はありえない。
私の耳が腐ってるんだ、そうに違いないと心の中で無理矢理納得するシズリに無残にもヒューバートの次の言葉が追い討ちをかけた。
「そうだ。私も君が女性の日でないほうが望ましいのだが。まぁ、どうしてもその日がよいというのならば構わぬが・・・」
――――あいたたたたたた。
今、心の中の大事なものがいくつか砕け散った気がします!
それとも何か、とても重要な意味があるのでしょうか?
何か女性特有の穢れでうんたらとか。
がっくりうな垂れたシズリをヒューバートは訝しげに見つめる。
テーブルの上に置かれた紅茶は既に冷め、窓の外には既に月が昇り、星が瞬き始めている。
シズリ自身も眼前に星がチカチカと瞬いているような気分だ。
冷めた紅茶の残りをぐいっと一息にあおり、自分よりたっぷり頭ひとつ分は背の高い
ヒューバートをきっっと見返す。
「…なぜ、私の生理周期が関係するのでしょうか? 何でしたらいっそ私は欠場いたしますが!」
「君がいなければ意味がないだろうが」
相変わらず無表情のまま、しれっとヒューバートは答える。
「君が主役なのだから」
わずかに視線が和らぎ、口角がふっと上がる。
しかし混乱の窮みであるシズリにはその笑みを浮かべたといってもよい、彼の表情は目に入らなかった。
何より開いた口がふさがらない。
確かにシズリ自身、21歳というこの若さでラーツィヒ中佐の栄えある副官に任命される程度の優秀さと戦闘における実力、功績はそれなりに自負している。
しかし、中佐殿に比べればまだまだひよっこ、ついていくだけで精一杯だ。
その自分自身が主役だと? 中佐殿は一体何の話をしているのだ?
暗部との演習ではなく、実は余興の紅茶淹れ競争だとか??
いや、それなら生理がどう関係する?
まさか、水着コンテストでも開催しようというのか?
ありえない!
……いや、訂正しよう。軍部の男達ならやりかねない!!
むしろ嬉々として提案するだろう。
以前開催された余興という名の「ムキムキ☆ボディビルディング大会」の光景が、今なお覚めやらぬ悪夢として瞼に浮かぶ・・・。
マッチョどものブーメランパンツ姿を見るのも、自分のビキニ姿を晒すのもどちらも趣味ではない!
断る、断固として断るぞ!!
次々と嫌な予感が泡のように浮かび、背に冷たい汗が流れるのを感じる。
絵に書いたように常に冷静沈着で滅多に取り乱すことのないシズリが黙したまま
赤くなったり青くなったりするのをヒューバートは怪訝そうに見つめる。
「何か問題でも?」
「中佐殿、ビキニはご勘弁下さい……」
「……一体何の話だ?なぜそのようなものを着る必要がある?」
「違うんですか!」
「――――当たり前だろう」
天の助けとばかりにシズリは上官殿を見上げる。
あいかわらず無表情なその顔からは感情や考えはうかがい知れないが、水着大会ではないことが分かり、ひとまず安堵する。
いや、したと思った。
……次の上官殿の一言という爆弾が投下されるまでは。
「――当たり前だろう、我々の結婚式なのだから」
emergency、emergency!総員退避せよ!!
シズリ・シノノメ、21歳、地雷を避けたと安心したところに鋭角45度、方角は中佐より瞬間硬直爆弾を投下されました!(涙)
窓の外では月は静かに輝き、部屋の中では沈黙という名の静けさが室内に帳を下ろすのであった。
シズリの予想もさることながら、上官殿の返事はさらにその上をいっていた、と。(笑)
思いつくがままに書いているのでなかなか話が進みません。。。
早く始まりでもある、1話目の冒頭にたどり着きたいのですが。