蕩ける・・・
前回14話の最後部分をヒューバート視点で。
少々・・・R15??
彼女が肩に受けた魔傷の痕に、ヒューバートは氷の秘術で応急処置を施した。
焔で受けた痕なぞ、この冷気で消して見せる。痕なぞ決して残してたまるかと。
これでさしあたり傷は・・・あの男の痕跡は残るまい・・・。
胸の中で暴れまわる、嫉妬という名の緑色の目の魔物を押さえつけながら、表面上は努めて穏やかに、処置の痛みに脱力した彼女の体を抱き止める。
痛みに、悔しさに震えるその身体を労わるように、そっとその頬に手を当てると、彼女が漏らした震える吐息が掌をくすぐり、ヒューバート自身をも震わせた。
普段、あれほど気丈に落ち着いた彼女が自分に見せた弱さが甘美な誘惑となってヒューバートの心を貫く。
今はこれほどに脆くも儚い・・・。
いっそ、つけいりたい、手に入れてしまいたい。
まるごと全て、今すぐに。誰かに奪われてしまう前に。
そして。
ヒューバートの長い指がシズリの唇のラインをそっとなぞり・・優しくそれを撫でた。
その柔らかさを確かめるように、あの男の唇の痕跡を拭うように。
今日は幾度となく噛み締めたせいかその唇はむしろ蠱惑的に、誘うように紅く、あかく色づいている。
親指で押さえると、弾む熟れた果実のやわらかさに溜息が出そうになり、とどまる。
これにあの男が・・・!!
そう思い出すだけでも腸が煮えくり返り、あたり一面をまたもや凍らせてしまいそうだ。
―――だが。
左の腕と胸板でシズリを抱きとめ、支えた体勢のまま、その指は再びシズリの唇を優しく撫でた。
指でこの柔らかくも繊細な唇をたどれば・・・熟れて湿った感触が甘やかで・・・身の内に湧き上がる本能と嗜虐心をそそられる。
白い頬に汗で張り付いた、黒い艶やかな髪を空いた方の右手でそっとほどいてやる。。
朱に染まり、破れたシャツから覗く素肌と乱れた胸元に官能的な痛みを覚え、蕩けそうになる。
気がつけば碧く、潤んだ2つの瞳が丸く、驚いたように見ひらかれ、ヒューバートを見上げていた。
その、やや怯えたようにこちらを窺う瞳の中に、熱っぽく、濃く深く色づいた自らの群青の瞳が映っているのが見て取れ・・・吐息をついた。
その瞳が映す己の姿こそ、真実の自分を映し出していたのだから。
それは・・・
刀を交えた後の高揚感か、天冰を振るったせいか。
はたまた掻き立てられた嫉妬心のせいか。
たまらなく彼女を貪りたいと思う自分がいる。それこそ肉食獣のように。
彼女はこんなにも疲れ、傷ついているというのに。
―――それこそ、カンザキと同じ穴の狢・・・。
同類の匂いを感じるはずだ―――。
思わず自嘲し、瞳を閉じ、ぐっっと自分の中の猛る獣を氷の深淵に鎮める。
籠った熱を冷ますように。
氷の面で隠した、残酷で我儘な己自身を押さえつけ、黙らせるように。
まだ、その時じゃない―――。
逃げる兎は追いかけても、無理矢理閉じ込めるものではない。
可愛いからこそゆっくりじっくりと追いつめ、飼いならし・・・自ら進んで罠に飛び込ませるべきではないか?
そして腕の中という永久の檻に閉じ込めてしまえばいい。
兎自身も気づかないうちに。
だから・・・今はまだ、だ。
やがて、長々と嘆息し・・・閉じた瞳をゆっくりと開き、またたかせた。。
瞼の奥で暴れる灼熱を押さえつけ、いつもの色の瞳をのぞかせながら。
せめても、とシズリの唇をヒューバートの左親指がそっとなぞる。
「・・・ここも、消毒してもよいだろうか・・・?」
囁きかけるように、宥めるように・・・そして請うように尋ねた。
ヒューバートの瞳が誘惑するかのような光を浮かべる。
群青の瞳が夜空の深淵のように濃く、瞳に浮かぶ光がそれに浮かぶ星のように。
シズリの喉がひゅっっという音を立てる。
碧い瞳がなんともいえない光と涙で潤んでいる様子に、ただ、甘やかに背筋が震えた。
親指で愛しい兎の唇をなぞりながら、顎に当てた掌で愛撫するように、宥めるようにくすぐり・・・頤を持ち上げ、その瞳を覗き込んだ。
静寂が、青い魔鉱石の光が周囲を満たす。
シズリの瞳にヒューバートが映り、ヒューバートの瞳にはシズリが映る。
その唇を味わおうと、己をシズリの唇に上書きしようと、ヒューバートはそっと唇を寄せた・・・・。
が!!
「シズリねえちゃん~」
情けない声が・・・坑内に響き渡った。
シズリが真面目にスルーなスキルがデフォなせいか、中佐殿がKYで
あさってなアプローチばかりするせいなのか・・・このお話は
糖分控え目すぎないか?色気なさすぎじゃないか??と思いまして。
少しは中佐に飴を・・・と思ったものの、こうなりましたww
そしてクリスピン少年、すっかり忘れられてましたww
仮にも民間人、しかも子供をほったらかしちゃだめだろう、中佐!