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上官殿の申すことには。  作者: 此花タロウ
上官殿の考えることには
14/33

黒い悪魔が言うことにゃ。

話の展開上、シリアス風味?です・・・

あぁ、闇の、夜の色だ・・・。


霞む意識と腕の痛みの中、ぼんやりとその色を見つめていた。

痺れる身体に、血の滴る腕に指一本動かせないまま、その闇色の瞳に縛られる。

半ば諦めのような、どこか他人事のように冷える心で自分自身を見つめる自分がいる。

だから夢現のまま・・・その瞳をゆっくりと閉じた。



――――柔らかで―――冷たいそれが唇に下りてくるまでは。



「!!」



ぐっっと顎を引き寄せられ、唇をこじ開けられる。

思わず目を見開き、叫びそうになるが、湧き上がる叫びは、恐れは・・・して戸惑いは、男の唇に消えた・・・。

見開かれた碧色の瞳の前に闇色が伏せられ、ふぅっと甘やかな吐息とそれに混じった何かが流し込まれる。



その吐息にのせて、身の内に燃えるように熱い何かが吹き込まれ・・・それが膨れ上がり、広がり・・・全身を貪るように蹂躙した後に・・・消えた。




―――一瞬、何が起きたか分からなかった。

脳髄が痺れ、思考が止まる。

何が起きたのか理解しようとする部分が麻痺したかのように止まり、起きたことを認めまい、拒否しようとしている。



が、・・・やがて思考が回復し・・・理解した。

己に何が起きているのかを。




「っ!」



闇色の髪と瞳の男の唇に紅い(しずく)が浮かび、口の端に紅い筋がつぅっと伝わる。

顎から男の手が離れた瞬間、シズリの左足が弧を描いた!



退()けっ!!」



だが、シズリの脚はあっさりと空を切り、いともたやすくその攻撃を避けられた。

瞬間、男の闇色の瞳と怒りの焔に燃える碧い瞳がかちり、と合う。



男はシズリの怒りに、熱い感情をたぎらせたその表情に目を細める。

そして、噛みつかれた唇に浮かんだ紅い血を、わざと思わせぶりにもぺろり、と舌で舐めとって見せた。


淫靡なまでに艶めかしく、茶化すように、翻弄するかのように。

その唇でつい今しがたまで何をしていたのか、シズリ自身に思い知らせるかのように。



そのからかう様な仕草にかっっと羞恥と怒りがないまぜになった熱がシズリの頬に(とも)る。



「・・・っ何をっ!」



だが、怒鳴りかけて気づいた。

動くことができる、喋れる・・・。



先刻まで、この男の青い焔の魔気と煙に侵され、喋ることはおろか指を動かすことすらもままならなかったはずなのに。

魔気に全身を蝕まれていたはずなのに。



肩に受けた魔剣による傷は時と共に熱く、痛みを増しているが、全身を内側から攻め立てていた魔気が消えている。



・・・もしや・・先程吹き込まれたのは・・・解呪の・・・??

でも何故―――?




――――その瞬間――――

時間(とき)が止まった・・・。

(いな)、凍りつく空間に身動き一つできなくった・・・。




冷やかに刺すような冷気が肌を苛み、ぞわり、と首筋の産毛まで逆立つ。

呼吸すら奪いそうな圧迫感が胃の、臓腑の淵まで締め上げる。

思わず膝をつきたくなるようなプレッシャーが脚を震わせる。



これは・・・既視感(デ・ジャヴ)ですか?

―――それとも―――?



地面に転がった石ころの一つがピシッッと音を立てて凍りつき・・・そのまま砕け散った。

希望という名の胸に宿る石とともに。





          *         *          *




< ~以下、シズリ少尉による心の中のマル秘メモからの抜粋~ >


 ◎上官殿はキレると無表情から超絶笑顔になるらしいということを知りました。

  美形すぎると笑顔はむしろ凶器・武器となるようです。

  でも・・・瞳が一切笑ってないのが怖いです。

  あれは・・・もごもご。(以下省略)


  

 ◎上官殿はキレると所構わず魔刀を無意識に出現させます。

  歩く危険人物、傍から見れば銃刀法違反者です。

 (実際は軍人だから許可はあるけれど・・。でも街中では如何なものかと・・・)


  魔刀出現および暴走における被害の一部は


   ①凍れる焔が周囲を埋め尽くす → 凍傷になります。やめて下さい。

   ②石をも砕く絶対零度の暴走  → 器物破損行為です。やめて下さい。

   ③周囲の魔力を吸い取る効果  → 近所迷惑です。やめて下さい。

   ④強制圧力(プレッシャー)による威圧効果 → 威嚇行為は迷惑です。やめて下さい。

  

     ~ 以下省略 ~


 ◎上官殿は女性を丁重に扱う、紳士的な方だということがよく分かりました。

  (少々部下に対して過保護かとは思いますが・・・。)

  あ、手が大きくて温かくてとても素敵です、はい。




          *         *          *



空気が震え、未だ冷気がくすぶり、坑内の魔鉱石がすすり泣きをやめない。

ヒューバートは身の内にたぎるそれを納めるべく、肩で息をつく。



「―――落ち着け、ラーツィヒ中佐。魔鉱石が反応する」



冷めたような窘めるようなその口調がヒューバートの神経を逆なでする。

先程までヒューバートと白刃を切り結んだ男、今しがたも暴走しかけたヒューバートの魔力を青の焔で鎮めた男、シズリの身体に傷をつけ、唇までをも

奪った忌々しい男に厭悪の感情が止められない。



――――この男は気に食わない――――

本能が、心が、頭が全身がそう訴えている。



男は焔の消えた剣を拭い、鞘に納めた。

再び静まり還った坑内に金属のこすれあう独特な音がきん、と響き渡る。

これ以上やりあう気はない、ということらしい。



ヒューバートは改めて男を眺めた。

闇のように深い、漆黒の髪と瞳、年齢は恐らく25、6――少佐と呼ばれていたこと・・・そして、何よりも靑の焔をたたえる魔剣。

このことから頭に納められた情報(データ)から隣国のある人物と符合がいく。



「―――シノブ・カンザキ―――神崎 忍少佐か―――?」



口調は問いかけるようであったが、確信を持った瞳で男を見やった。

当然、男からの返事はない。

覆面をしていたのは名を、立場を隠すためであろう。

バレたからといって正直に答えることはあるまい。



何のために境界地であり、自由区でもあるここローザンヌに現れたのか、なぜこの魔鉱石の場にいたのか―――そして、なぜたまたま居合わせたシズリ達を襲ったのか―――聞いたところで素直に話すことはないだろう―――たとえ、力づくであろうと。



そして、自国の直轄地ではないここ、ローザンヌでは拘束及び同道を命令する権限はヒューバートにはない。

当然あちら側にも、ではあるが。



だが、おめおめと逃がす気はない―――。

尤も、それは何よりも自分自身の私情・私怨によるものが大きいのではあったが。

再び魔刀を構えるヒューバートに男が冷たい視線を向ける。



「―――よせ。こんな場所でこれ以上やりあう気は俺にはない。俺もお前も自殺行為だ。死に急ぐなら一人でやれ。

それにそこの女―――早く手当をしてやらねば傷が塞がらぬぞ?いくら俺とて腕の魔傷までは癒せぬ。

特に魔剣の傷は・・・跡になるやもしれぬ。―――まぁ、俺の痕跡を身体に残したくば、好きにすればよいのだが。」



それもまた一興、と男が薄く笑みながらシズリを見やる。

壁に背をあずけ、焔の魔剣による傷ゆえの燃えるような痛みと熱い疼きに、荒い息をつきながらも耐え、気丈に立っている様が目に映る。

その肩から腕、掌にかけて未だ血が流れ、白かったシャツは朱に染まり、破れた布地から血に染まった白い素肌がのぞいている様が痛々しくも艶めかしい。



歯噛みしつつも、溢れそうになる感情を抑え、ヒューバートはゆっくりとその魔刀―――天冰を(おろ)した。

ぎりりっと歯噛みする音と魔刀が冷たい鞘に収まる音だけが坑内に響き、沈黙が辺りを包んだ。




そんなヒューバートを他所に、男―――カンザキ シノブ―――は倒れ伏したままの兵士達を自らの足元に集め、懐から転送陣らしき魔符を取り出した。

その瞳にかかる前髪を払い、魔符に印を結んだ両の掌をかざし、帰還の詠唱を始める。



ヒューバートはその、いかにもてきぱきとした、無感動な仕草に再び苛立ちがつのる。

自分でもわかっている。

奴と自分は驚くほど似ている。同族嫌悪なのだと。



故に、あの掌がシズリの顔に触れ、あの唇が柔らかな、ヒューバートすら未開の果実を奪ったのかと思うとそれだけで心の内にどす黒いものが湧き上がる。

ただ見ているだけ。

一矢報いるでもなく、おめおめと見逃すしかできない自分自身も許せない。



魔力反応による独特の重い、厚みのあるような空気が彼等を包み始め、魔符から放射線状に光が走る。

周囲の魔鉱石がその魔力にひかれて再び共鳴のざわめきを始める中、ヒューバートに助け起こされるシズリに漆黒の双眸が向けられた。



「顔は見せたぞ、名を教えろ」


シズリは思いがけない言葉に面喰い、まじまじと相手の双眸を見返す。

そういえば、先刻名を聞かれたときに顔も見せぬ者には名乗らぬ、と言った気がする。

シズリの沈黙を拒否と取ったか、忍は焦れたように更なる言葉を続ける。


「まさか、(げん)を違える気か?」


「・・・シズリ・シノノメ。東雲 雫璃(シノノメ シズリ)


肩に走る痛みと熱に堪えながら、口早につぶやき、視線を強めた。

ヒューバートには止める間もなかった。

男の無機質な双眸に光が宿る。


「東雲・・やはりそうか・・・」


シズリの名を口に含み、口内で舌で転がすように、確かめるように呟く。

その瞬間、青い光が彼等を包み、転送陣が完成した。



一閃の輝きが走る!

そして・・・彼等は・・・消えた。



―――まるで何事もなかったかのように―――光も魔法反応も消えた坑内に男の言葉だけが残されて。



「これも運命。雫璃(シズリ)、そしてラーツィヒ中佐、また相見(あいまみ)えようぞ・・・」



それだけがこだまし・・・風に交じって消えた。






・・・張りつめた緊張の糸が途切れ、急速に疲労感がシズリの全身に広がる。

崩れ折れかけたところをあたたかでがっしりとした腕に支えられ、見上げれば群青の瞳が気遣う様にこちらを見下ろしている。



「ラーツィヒ中佐・・申し訳ありません・・・」

「・・・いや、よく頑張った」



そのごく簡単な、彼らしい簡素な一言に、胸がじぃんと温まり、泣きそうになる。頬を撫でる手は、身体を支えてくれる温かで大きな手は、記憶通りのあの優しい手で。



あのクリスピンを人質にし、シズリを拘束した兵士の手とは全く違う。

ただ、そのことに安堵した。

その掌がシズリの肩に優しく当てられた。



「肩に魔傷が広がっている。仕方ない、応急処置をする。少し痛むが我慢しろ。」



ひんやりとした感触を肩に感じたかと思うと、冷たい無数の針が刺さるような傷みを感じた。

ぐっっと歯を食いしばり・・・痛みに堪え・・・脱力する。


力の抜けた肩を優しく、その手が支えてくれた。

瞳を閉じると思わずため息が漏れる。

そのまま、謝罪の言葉を囁くような声で口にした。



「すみません・・・ご迷惑をおかけしまして・・・」

「いや・・・こんなことになるとは私も予想外だった。今は気にせず休め。街に戻って傷の消毒と手当をせねば・・・それがまず先だ」



魔剣の前にあっさりと敗北した自分がふがいなく、腹立たしい。

突発的事態に対処できなかったことが情けない。

挙句の果てに守るべき上司に助けを求め、介抱までして頂くとは・・・。



震えるシズリの唇をヒューバートの指がそっとなぞる。


「・・・ここも、消毒してもよいだろうか・・・?」


そのまま囁きかけるように、宥めるように・・・そして請うように尋ねた。

なぜか長くなり、前回ほんのり予告していたところまで、

全然辿りつけませんでした・・。


続きを早めに書いてUPしたいとは思うのですが。

話の展開上必要とはいえ、真面目なシーンばかりで申し訳ないです。


次こそ楽しいお約束&コメディを!

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