つないだその手を離さずに。
こくりと唾を嚥下すると、その音が乾いた空気に思わぬほどに響いた気がし、その泡立つ心の波をさらにかきたてる。
相手に気づかれぬよう、こころを押し殺しつつ、視線の端にその端正な横顔を映してみるが、その表情には動揺は勿論のこと、曇りも変化も、何の感情の兆しすらも表れない。
シズリが乱るる心を面に、所作にだすまいとこれだけ四苦八苦しているというのに。
それをずるい、と思ってしまうのはおかしいのだろうか。
中佐殿はずるい、と。
いつでも涼しい表情で、思いもがけないことを言ったり行動したり。
それに振り回されるこちらの身にもなってほしいものだ。
心臓が保ちません、全く。
そう内心で嘆息し、相変わらずばくばくと震える心の臓の音を抑えようとしつつ、今度は右下にちらりと視線を走らせる。
普段なら中佐殿と同じく、黒の軍服と白手に包まれているはずの自らのその右手に。
その手は今なお、何故か中佐の左手に包まれたままなのだから。
先程の喫茶室で差し出された手、その手をとったはいいけれど、つなぎっぱなしってどうなんでしょ?
軍人らしく皮が硬く厚くなった掌、ごつごつとした大きな指、剣でできたたこ、この温かで、男らしい彼の手がシズリの右の掌を包んでいる。
その掌の温もりが今度はシズリの頬に燃え移ったかのように熱く、燃えるようだ。
そんなシズリの内心なども気づきもせず、ヒューバートはまるで・・・まるで何一つ変わったことなどないかのように、しごく当然のことかのようにシズリの手を握りしめたまま歩を進めている。
中佐殿はずるい、と改めて思う。
これでは手を離してください、と言えないじゃないですか。
そしてシズリ自身、本当に離してほしいのかどうか、自分でもよくわからないのであった。
* * *
喫茶室より数ブロックさらに街の奥に進み、いくつかの角を曲がると、この街の繁栄の要の一つでもある、工芸地域が広がる。
空の青と鉱山の緑に対比するかのように造られた、赤で彩られた街並みは鮮やかで、技術者の街らしい喧噪と賑わいに満ち溢れる。
各工房や工房運営による店舗の前の歩道には白い石畳が敷かれ、その工房の名を意匠としたマークが扉に彫られ、鮮やかな色でもって描かれたプレートを軒下に下げている。
この街の人々のモットーは実に簡単だ。
「よく働き、よく食べ、よく寝ろ」
恵まれた土地というだけでなく、人々のこの健全なる精神が繁栄を生み出している、と言われる所以とも言えよう。
シズリは初めて訪れるこの街並みの風景を楽しんでいた。
駅からの景色は筆舌に表しがたい美しさではあったが、この人々の活気ある様子にも、戦場と軍に身を投じた人間としては素直に心が和む。
珍しい工芸品や細工、被服店に染物、毛織物の店など様々な品に溢れる店を興味深く眺めていると、そこはシズリもやはり年若い女性、知らず知らず心が躍るのを感じる。
そのとき、未だつながれたヒューバートの手にくん、と手を引かれ、見ると彼は
ある店舗のショーウィンドゥにじっっと視線を向けている。
・・・嫌なものを感じる。
見ないほうが幸せかもしれない。
でも見ないと後で後悔しそうだ・・・。
上官殿が注意を払うことは部下として当然知っておくこと、これ即ち正しい副官としての役目、任務だ。
うん、そうだ、そうに違いない!!
括目せよ、この目は節穴ではないはず!
――シンプルながらも凝ったデザインのワンピース(※ミニスカート。ここ重要!)――
薄いラベンダーブルーの身頃にぴったりとしたデザインで、きゅっと絞られたウェストからヒップにかけて身体のラインに沿うようにスカートが広がり、裾の部分だけフレアーなシルエットを描いている。
(繰り返すがミニスカート。)
スカートの裾部分はティアード上に生地が重ねられ、細かいプリーツの襞で飾られた、一見シンプルながらも、凝ったデザインのワンピースだ。
(何度も言うが、ミニスカート。)
まぁ、とっても素敵なワンピース!
上官殿にとっても似合うかと思いますわ♪♪
その輝くシルバーブロンドにラベンダーブルーがとっても素敵。
・・・じゃないし!!
つながれたままの手をこれ幸い、馬を引くように、むずかる飼い犬を引っ立てるようにヒューバートを引きずりながら、ずんずんと道を進むシズリであった。
タイトルの意味、ご理解いただけましたでしょうかww
前々回だったか(自分で忘れてる・・・)ミニスカ云々の話を書いたとき
予想外にミニスカへの食いつきがよかったので出してみました。
そして予定通りに全然話が進みません・・・。