第八局~神夜の優しさ~
急展開になりました。何かISみたいです。ではどうぞ。
今日は日曜日。世間一般では全てが休みの日だ。まぁ、日曜でも仕事がある人は居る。
買い物、映画、旅行。どこで何をするかは人によって様々だ。他人のやる事に口出しをするほど俺は暇ではない。
え?俺はどうするのかって?ふっ、愚問だな。俺はもちろん寝る!!!!!!というか、それ以外にやることが見つからない。
悲しい奴だって?ほっとけ!俺の好きなことは寝ることだからそれでいい。
因みに、ここは俺の部屋ではない。昨日家を無くした俺はひとまず寮の空き部屋の一つを借りて、そこに住むこととなった。
「そういえば、今日悠聖が申請書届けにくるはずだったよな」
申請書。平たく言えば、寮に住まわせてもらうために必要な紙切れだ。
『第六百六十六条、寮に入る者は申請書を提出し、学校側の承認を得ること』って書いてある以上、提出は必須だろう。
「それにしても…………」
(六百六十六……何か不吉だ)
そんなことを考えながら、入り口までやって来た。扉は開きっぱなし。何故かというと、悠聖が入る時に俺が寝ていたら起きれる自信が無いから。ふと顔を上げると、数メートル先に人影が。
「かーみーやー!」
「さよなら」
バタン!
開いていた扉を全力で閉めた。何も見てはいないぞ!?
でも、さっきのは多分科世だ。手を振りながら、俺目掛けて疾走中だったに違いない。入れない理由……それは、俺の睡眠を邪魔されたくないからだ。ただそれだけ。
欠伸をしながらベッドに戻り、腰掛ける。何か無駄に疲れた。
「か~み~や~」
「なぁ!?」
ベッドの下から顔を出したのは他ならぬ科世。何で!?何で!?何で!?部屋には入れてないぞ?扉も閉めたのに。何でぇ!?
「ちょっ、お前!どこから入った!扉閉めたんだぞ!」
「ん?あそこ」
科世が指差す先には、開いた窓。こいつは窓から入ってきたらしい。いやいや!そんな事はどうでもいい。重要なのは……
「さっき、扉の前に居たよな?いつの間に窓側に回り込んだんだよ」
「瞬間移動」
な、何と……科世にはそんな特技があったのか。魔法も使える上に瞬間移動とは、天は異物を与えたわけだ。
「と言うのは嘘だよ」
ガン!!
……思いっきりこけた。もう新喜劇もビックリするくらい。後頭部がものすごく痛いのですが、どうしましょう?
「まぁ、私の移動手段とか神夜がこけた理由は置いといて」
置いとくなよ。
「ねぇ神夜、これが欲しくない?」
そう言って科世が差し出した物、それは寮に入る為に必要な申請書だった。何故に科世が?悠聖が持って来てくれる筈だったというのに。科世の奴、悠聖に何をした!?
「悠聖が持ってきてくれる筈だが、どういうことかな?科世」
「その悠聖が『面倒だから代わりに頼む』って私に」
あの野郎おぉぉぉぉぉぉ!それでも友達、いや仲間か!?とんでもないことをしてくれたな悠聖。こういう時の科世は何かと面倒事を持ってくる。しかも、俺にとって面倒な事だ。
「これは渡すけど、条件がありま~す」
何という事だ!!!俺の(物になる予定)申請書が人質に!くっ、仕方が無い。ここはひとまず、その条件とやらを聞こう。話はそれからだ。
「何だよ?その条件って」
「じゃ、じゃあ……その……」
「嫌だ」
「ま、まだ何も言ってないよぉ~!」
だって嫌な予感がしたんだもの。俺の至極の一時を、休日を潰されてしまう様な何かが待っている気がした。科世が次に何を言うのかは大体分かっている。
「どーせ買い物に付き合って、とか言うんだろ?」
「な、何で分かったの!?」
やはりそうだった。科世は無類の買い物好きらしく、平日だろうが休日だろうが誰かを誘って買い物に出かけているのを見たことがある。
俺が科世と同じく買い物好きだったら、迷わず付き合っただろう。だがしかし、俺は買い物が嫌いだ。何かと付けて荷物持ちをやらされてきたから。
故に、俺は行かない!寝て過ごすのだ!誰にも干渉せず、誰からも干渉されずにこの一日という時間を満喫するのだ。それを邪魔させはしない!
「とにかく!俺は行かないからな!」
「そうかぁ~、なら仕方が無い…………強硬手段だ」
……何か今『強硬手段』って聞こえたような気がする。その瞬間、俺の背筋に寒気が走った。
ん?科世が鋏を持ってきて?その刃を申請書に当てて?
「チョキッ」
っておいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!何て事をするんだ!それは大事な申請書だぞ!?
「やめろおおおぉぉぉぉぉぉ!」
俺は無我夢中で、科世の手から申請書を取り返そうと科世に手を伸ばす。おぉ!風を感じる!室内なのに!
この時の俺のスピードは、豹と並んで走っても引けをとらないくらい速かったに違いない。だが、
「蒼き水脈、我を守護する障壁と成らん!十二式蒼流壁!」
ガン!
無念。科世の作り出した蒼流壁に顔から突っ込んでしまった。痛い。痛いよすごく。主に鼻が。顔面と後頭部に大打撃を受け、俺は床でのたうちまわることになる。
「のわあぁぁぁぁぁ!」
きっと俺の叫びは、周りから見れば何と言っているのか分かったものではないだろう。それ位痛い。
うわ~ん!反則だそんなの!『第二百六十七条、校舎内及び寮内での魔法の使用を禁止する』って書いてあったでしょうが。ちゃんと読みなさい。って良く覚えてたな俺。
自分の記憶力に拍手を送りたくなったが、それを我慢しつつゆっくりと立ち上がり、科世に向き直った。科世は得意げに鼻を鳴らしている。
「どうするぅ?付いて来れば、この申請書は返してあげるよ?」
くっ!卑怯な!
どうする……状況はこちらが圧倒的に不利だ。無理矢理に行こうとすると蒼流壁で阻まれる上に、俺は一般人。魔法使いに勝てるわけが…………待てよ?魔法?そうか!その手が有ったじゃないか!
「科世、俺は今からお前に申請書を取り返そうと突っ込む。魔法を使うのは自由だ。好きにしろ……魔法使用禁止の校則を破った事を、俺が報告しても良いというのならな」
「うっ!」
よし、動揺している。人の感情を揺さぶる材料などそこらにいくらでも散りばめられているということだ。こんなにも容易い。
ここで俺はさらに追い討ちをかける。
「お前は既に魔法を使った。魔力の痕跡という証拠も在る。理事会側に頼んで調査してもらうことも出来るんだが、そっちの方がお望みかな?白状科世様?」
「あ、あうううぅぅぅぅ……」
(ちょっとやり過ぎたか……)
半べそになっている科世を見ていると、少し可哀想になってきた。申請書も床に落としてしまっているし、このくらいで許してやろう。しかし、もう眠気も覚めてしまった。今から寝るのは……とても無理だ。
「じゃあこの申請書は返してもらうからな。さてと……科世、行くぞ」
「え?」
「だから、買い物。行くんだろ?一緒に行ってやるよ」
「ほ、本当!?ありがとう!神夜大好き!」
瞬時に表情を明るくした科世は俺に抱き付いてきた。そこまで嬉しかったのか?まぁ、仲間が喜ぶのを見るのは嫌いじゃない。でもそんなに思い切り抱き付かれたら苦しいんだなこれが。
はぁ、どうしていつもこうなるのだろう。振り回されるはめになると分かっているのに、何故か最後の最後で俺が自分から折れてしまう。
以前この事を悠聖に話したら、『それはきっとお前の優しさだろ』って言われたっけ。振り回されてやるのも優しさの内、ということなのか。
あぁ……何て厄介な優しさを持って生まれてきたんだろう。
◆
「ここだよ!新しくオープンしたとこ」
「ふぅん……『セラフィム・ヘヴン』ねぇ……大層な名前だな。精霊の天国ってか」
俺と科世がやって来たのは、最近出来た学生に人気の雑貨屋。寮から徒歩五分と最寄。その上中々デカイ。そこらの店と比べてもその大きさの違いは一目瞭然だ。まさか科世と二人で来ることになるとは思わなかったなぁ。
「入ろう、神夜!」
「あ、あぁ」
とりあえず、中に入ってみる。おぉ!店内も相当な大きさだな。本からステイショナリー、食品に至るまで結構な品揃えだ。主婦にとっては正に天国なのだろう。
今度からここで日用品を揃えるかな。寮からも近いし。
「ねぇ?手……繋ごう?」
「ん?あぁ、別に構わないが」
科世が俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。何だか変な感じだ。今までこんなことなかったし、初めてだからということもあるのだろう。
ん?何やら視線を感じる。見渡すと、そこら中の人々が俺を敵視の眼差しで見つめていた。
あ!そういえば……忘れていた。科世がアイドルだったということを。この敵視はそのせいか。皆が知る科世が、どこの馬の骨とも分からん奴と手なんか組んでたら、そう思うのは自然な反応だろう。
で、科世は何故誇らしげな顔をしているのだろう?
◆
「さ、買い物も終わったし、帰ろうよ、神夜」
「そうだな。コーラもたくさんゲット出来たし、今日はこれで引き上げだな」
両手一杯にコーラを抱えた俺は上機嫌だった。かつてこんなにもコーラを手に持ったことがあっただろうか。いやなかっただろう。コーラ天国だなこりゃ。
はっ!まさか……これがヘヴンの真の意味だとでも言うのか!?俺は大層な名前などと、この店を愚弄してしまった……くぅ~!あの時の自分をこの世から排除してしまいたい!店長の前に引きずりだして土下座させてやる!
「今日はありがとうな、科世」
「あ、う、うん。私の方こそ。手伝ってもらってありがとう」
う~ん、全く手伝ってない気がする。まぁ科世が満足ならそれで良いか。実質俺も科世のおかげでここを知ることが出来たわけだからな。
俺は帰り道を科世と二人で並んで歩いていた。時間はもう七時を回っている。
(ちょっと遅くまで居過ぎたかな)
天気は晴れだったため、そこまで暗くはない。
俺は科世と話していたが、前方から黒いスーツを着た男がこちらに近づいて来ているのが見えたため、会話を一旦切る。俺と科世は、気にも留めずに通り過ぎようとしたが、男は俺と科世の前まで来ると立ち止まった。
「明星神夜だな」
「そうですが……何か?」
「死ね」
そう言う男の手には、鈍く光る拳銃。おい!嘘だろ!?ここは日本だぞ!?銃刀法違反だ!
タァン!!!!
響くのは、乾いた銃声だった。
この後どうなるか、お楽しみに。
ではまた会いましょう