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チェック・メイト  作者: 神門
~謎多き学園~編
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第六局~VS学園最強 後編~

後編です。いや~相手の強いのなんの。ではどうぞ。

 焦りとは、己の心の余裕の無さから生まれるものだ。

 追い込まれ精神状態が不安定になると、それが徐々に表面に現れる。故に、正しい判断を下せなくなることが多い。焦りを隠していても、必ず行動に現れる。

 俺は今正に、その状態に陥っていた。


「お前ら!戦線離脱しろ!後は俺一人で良い!」


「何!?」


 その合図で、暗鬼さんを除く全ての駒が演習場から消えてしまった。俺はもう何が何だか分からなくなってしまう。何をもってこの場に一人残った?

 まさか一人で俺達全員と戦うと言うのか?いくらなんでもそれは無いだろうと思ったが、そのまさかだった。


「ここからは俺一人が相手だ」


「暗鬼さん、ふざけてるんですか?」


「大丈夫だ。お前らの負けは決定してるからな」


 そうか。そこまで言うのなら試してみよう。


「科世、四式を使え。悠聖、暗鬼さんに脱出不能牢(アルカ・トラス)だ」


 暗鬼さん一人を悠聖達が囲み、科世の四式大水牢が暗鬼さんを捕らえる。これで後は、暗鬼さんの耐久力が潰えるのを待つだけ、か。

 しかし、水牢の中の暗鬼さんが一度フッと笑ったかと思うと、科世が詠唱した水牢は先ほどの水弾と同じように弾けて消え去ってしまった。


「そ、そんな……馬鹿な!」


「嘘!?四式まで!?」


「だから効かないって言ってんのによ。耐久力は残り二三〇〇、か」


 ゆっくりと地に降り立って微笑む暗鬼さんの姿は、俺には神に等しくも見えた。それくらい神々しく、圧倒的な存在感。さらには耐久力二三〇〇と桁違いの数字を誇る。

 俺の自信は完全に砕かれた。戦術も戦略も、何の意味も持たない。暗鬼さんの前では、全てが無意味。


 (か、勝てない……)


 俺は悟っていた。どうしようもない。強すぎる。規格外の化物。これが『掟破り(アンチルール)』と呼ばれている所以なのだろうか。

 口の中が枯渇してカラカラになり、息をするのが難しい。威圧されるとは正にこの事。このまま暗鬼さんと戦っても、勝ち目が無いことは火を見るより明らかだ。


 (せめて悠聖達だけでも……)


 俺が悠聖達に指示をしようと通信をオープンにした時、先に悠聖から通信が入った。


「神夜お前、まさか俺達だけでも逃がそうとか思ってるんじゃないだろうな?」


「!」


 あれ?何故俺の考えてることが分かったんだ?一言も喋っていないのに。


「図星のようだな……馬鹿が。そんな事して俺達が喜ぶとでも思ってるのか?もしそう思ってるのなら、とんでもない勘違いだ」


「し、しかし……このままじゃ、お前達は」


「神夜!」


 いきなり大声を上げる悠聖。俺はビクッと体を震わせて縮こまってしまう。凄い剣幕だ。だが、次の瞬間にはその剣幕が消え失せ、笑顔に変わる。


「信じろよ神夜。俺達、仲間だろ?もし負けるときがあっても、お前一人で負けさせたりなんかさせない。<歩兵(ポーン)>一組はみんな一緒だ」


 ふと見渡すと、クラスの皆が俺に笑顔を向けているのに気付く。

 はぁ……何を考えていたんだ俺は。仲間を信じることを忘れていた。部下を信じれないで、何が<(キング)>か。全く……俺はなんて大馬鹿者なんだろう。穴があったら入りたいぜ。え?使い方が間違ってる?あら、それは失礼。


「暗鬼さん」


「ん?どうした?」


「部下を、民を守ってこその<(キング)>だとは思いませんか?」


「俺もその意見には賛成だな!」


 暗鬼さんが加速し、距離を一気に詰めて来る。俺は考えるよりも先に体が動いており、自分の武装で暗鬼さんの攻撃を受け止めた。

 動いた。絶対に動くことはないと思っていた玉座から、俺は動いたのだ。


「ぐうっ!」


 とてつもない衝撃。流石に学園最強と言われるだけのことはある。今の攻撃で耐久力を三〇〇は削られた。残り六〇〇とちょっと。<(キング)>の装甲にこれだけのダメージを与えるなんて、一体どんな装備を使っているのやら。

 確かに一般の駒の装備とは少し形状が違う。何かデッカイ剣持ってるし。


「漸く、<(キング)>の成すべきことに気が付いたみてぇだな。神夜」


「ええ、おかげさまで目が覚めましたよ。ご教示感謝します」


 そう、暗鬼さんが俺に伝えたかったこと。それはクラスの<(キング)>として成すべきことだった。

 “王は部下を守る者”。たいていの人は部下の方が王を守ると思っているかもしれない。実質そうであるが、国とは人なのだ。王が一人居たところで国は成立しない。

 

 他の駒を犠牲にするくらいなら<(キング)>自らが出向いて戦う。というのが暗鬼さんの考え方で、その考え方は俺にも伝染した。

 とにかく、前で戦いたくてしょうがない。


「悠聖!他のやつらはその場で待機!俺と暗鬼さんの一騎打ちだ」


「分かった。派手に負けて来い」


「ああ!」


 負けるという単語が大嫌いな俺も、この『負ける』ばかりは好きになれた。これも暗鬼さんのおかげであろう。

 暗鬼さんと向かう合うように剣を構える。<(キング)>の初期装備は剣が一本。何と乏しいことだ。暗鬼さんはあんなにデッカイ剣持ってるのに。まぁ、言ってしまったからにはやるしかない。


「行きますよ?暗鬼さん」


「来い。全力で相手になってやる」


 暗鬼さんが振り下ろした剣を横にずれてかわした俺は、そのままのスピードで懐に踏み込み、暗鬼さんの肩に向けて突きを放つ。

 だが、それを身を捻って避けると同時に暗鬼さんは、更に剣を振り下ろしてくる。俺は避けきれずに剣で受け止めた。

 

-ギィン-


「ほぅ、この王嵐(おうらん)の剣、炎月(えんげつ)を受け止めるとはな。見直したぜ」


「…………ど、どうも」


 王嵐。それが暗鬼さんの装備の名前だろう。全体的に赤をベースにした武神を思わせる鎧。そして剣の名前は炎月。

 それにしても、暗鬼さんは装備に名前なんて付けてるのか?

 

 とにもかくにも、その王嵐の攻撃を何とか受け止めることに成功した。が、あまりの衝撃と威力に腕が麻痺して震えている。痺れで握力も一時的に無くなっているため、剣を握ることが出来ずに腕から剣が零れ落ちてしまった。この攻撃力、相当に厄介だ。


「おいおい、一発で手首アウトかよ。まぁ、俺の剣を受け止めて無事だった奴は居ないけどな」


 それは残念。俺が記念すべき一人目になってしまった様だ。


「! 神夜、お前……」


「すみません。俺、両利きなんですよ」


 動かなくなった右腕の変わりに剣を握っているのは、俺の左腕。これで何とか戦えるが、もう暗鬼さんの攻撃を一撃も喰らうことは許されない。

 後一度でも暗鬼さんの攻撃を受け止めでもすれば、両腕が使えなくなってしまうことは目に見えているからだ。


「すみません。応援呼んでも良いですか?」


「良いぜ。何人でも呼びな」


「では……悠聖!」


「はいよ!」


 待ってましたと言わんばかりに悠聖が飛び出してきた。いつもいつも気が利きすぎてるよ全く。一騎打ちと言っておいて格好が悪いが、少しでも長く暗鬼さんと戦い、あの強さの秘密を暴きたかった俺にはどうでも良く感じられる。

 悠聖と俺は二手に分かれ、暗鬼さんを挟み撃ちにする。両腕が使用可能な<騎士(ナイト)>、悠聖が先に攻撃を仕掛けるが、鬼さんはいとも簡単にそれを受け止めると、俺に向き直った。

 その瞬間、


「科世!六式!」


「はいは~い!六式連水砲!」


 科世の作り出した二丁銃から、暗鬼さんを目指して一直線に水弾が発射される。その位置取りが丁度暗鬼さんの真横だったため、暗鬼さんは空いた片腕を払って水弾を弾き飛ばす。弾かれることは分かっていた。だが、それで良い。隙の出来た暗鬼さんに俺は、無防備な正面から剣を振り下ろした。


「これで!」


-ガッ-


「!」


「これはまだ魅せるわけにはいかなかったんだが……やむを得ねぇ」


 俺の攻撃は暗鬼さんの額に当たる寸前で、何か見えない壁のような物質に阻まれ、空中で静止していた。どれだけ力を加えようとも、ピクリとも動かない。いやいや!わざとやってるわけじゃないぞ!?本当に動かないんだよ!


「これは……!」


「何!?」


 驚いたのは俺だけではない。悠聖や科世はもちろん、この場に居た全員が暗鬼さんの、わけの分からない能力に息を呑んだ。


「教えてやりたいところだが、まだその時期じゃねぇな。あばよ」


「神夜ぁ!!十二式蒼流壁(じゅうにしきそうりゅうへき)!」


 科世の詠唱で水の壁が俺を守るように出現する。しかし、暗鬼さんの振るった炎月は、容易く蒼流壁を切り裂き俺の装甲へと到達した。


「がっ!」


 たった一撃。それだけで俺の耐久力は一気に〇になり、力無く地面に倒れ伏した。薄れゆく意識の中、俺が見たもの。

 それは圧倒的な強さで、俺達が傷一つ付けることも出来なかった二年生の姿だった。



「試合終了!二年<(キング)>の勝利です!」


 沈黙先生の声が演習場に響き渡る。観客席には四組の志野原鐘騎がただ一人、楽しそうな笑みを浮かべていた。


「神夜のやつ、『掟破り(アンチルール)』こと疑心暗鬼にあそこまでやるとは。また差が広がったか」


「楽しそうだな」


 第三者の声。容姿的には外国人だろうか。金髪に翡翠の瞳をしており、背も高い青年だ。瞬間、鐘騎の目が鋭くなり、青年を睨み付けるが、青年は物怖じ一つしない。


「トーマ……余計なことは言わなくて良い、行くぞ」


「分かった」


 トーマと呼ばれた青年と鐘騎は、静かに演習場を後にした。

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