第五局~VS学園最強~
一番出したかったキャラが出せました。
「ちと邪魔するぜ? お前が明星神夜だな?」
教室に入ってからそんなことをぬかすのは、一人の男子生徒。ネクタイの色的に二年生だろう。
cmで表現するのが難しいくらい大きな体をしていて、腕を組みながら俺の机の前に佇んでいた。しかも、かなりのイケメンときた。ほら、みーんなが見てる。しかも結構引いてるよ?どうすんの?この状況。覆せる者がいるなら是非やってもらいたい。
ここで本音を言おう。誰か助けてくれー!
「…………」
う~ん、しかしこの男、本当に邪魔だ。
何せ俺は食堂での昼食を終え、昼寝という、全人類にとってなくてはならない行動(と俺は思っている。いやマジで)の真っ最中だったからだ。せっかく気持ち良く寝ていたというのに、寝首をかかれた俺は相当に苛立っている。教室の物全てを武器にして戦えるほどだ。
「あなた、どちら様? 俺、眠いんすけど?」
「おっと、すまなかった。誰だって昼寝を邪魔されるのは良い気分じゃないからな」
当たり前だろうが! 睡眠を邪魔されて嬉しいやつなんて居るわけがない。そんなやつがもし居たら、俺が天誅を下してやる! 足腰立たないくらいに悪口言い続けてやる! 三次元から追放してやる!
しかし、てっきりキレると思っていたがこの男、中々広い心の持ち主のようだ。一応確認しておくのも良いだろう。ちょっと怖いけど。
「……キレないんですか?」
「あん? 何にだ?」
「いや、俺が生意気な口を利いてるから、てっきり怒ってるんじゃないかと……」
そこまで言いかけた時、男は笑った。俺何か面白いこと言ったかな?
「このくらいでキレるかっての。それに、悪いのは俺の方だしな」
おぉ! 何と物分かりの良い人! 世の中にはこんな良い人も居るわけだ。
「そういや、自己紹介が未だだったな。俺は二年<王>、疑心暗鬼だ。よろしくな」
何だそのあからさまに人を疑いそうな名前は! この人の親はどんだけこの人を人間不信にさせたかったんだ?というか、どういう由来で付けられた名前なのだろう。
そんなことを考えていると、ガタッガタッ! という耳障りな音と共に教室中の生徒が立ち上がった。どうしたというんだ? 悠聖や終冴まで立ち上がっている。顔に驚愕の二文字が浮かんでいるぞ?
科世だけは『どしたの?』くらいの顔でパンを頬張っていた。食堂から持ち逃げして来やがったな?
「ぎ、疑心暗鬼って…………二年でありながら、歴代<王>最強と言われ、『掟破り』の二つ名を持つ、あの疑心暗鬼……か?」
「俺のこと知ってるのか? そりゃ光栄だな。ん? 待てよ? 俺は本当に疑心暗鬼って名前なのか?」
何!? 自分の名前まで疑うだと!? そこまで疑り深いのか! これだとそろそろ自分が誰なのか、いや人間なのかどうかまで疑いだしそうだな。そうならないことを祈ろう。
「この学園に居て『掟破り』、疑心暗鬼を知らないほうが可笑しいですから」
えぇ! そうなの? 俺全然知らなかった。廊下歩いてたって一言もそんな事言ってなかったのに。
あぁいや、寝ぼけて歩いてたから聞こえなかっただけか。俺の特技その一。半睡眠で歩くことが出来る! ……すみません。どうでも良かったです。
『掟破り』、疑心暗鬼か。一体どんな反則野郎なのだろうか。
それはさておき、そんなに凄い人がどうしてうちの教室なんかに?
「で、本題だが……お前達、俺らと勝負しようぜ?」
名前はもう良いのか……って、はぁ!? いきなり何を言い出すんだこの学園最強さんは! 今はそんな気分じゃないってのに。今日は午後の授業全部寝て過ごす予定だった。
まぁ確かに、予定は未定であって確定ではないからそのとおりに物事が進むとは限らないのは分かる。分かるよ!? でも、ここまで狂わされるとは……。予想していなかった。
「時間は今日の五、六時限目。第二演習場だ。じゃあ、待ってるぜ?」
「ちょ、待っ……」
……行ってしまった。何だか嵐の様な人だったな。言いたいことだけ言って去っていった。仕方ない、戦うとしますか。どうせ五、六時限目は沈黙先生の授業だし、頼めば何とかなるだろう。
「行くぞ、みんな」
「そう言うと思ったよ」
一致団結とはこのことを言うのだろう。
俺が立ち上がると同時に悠聖が、終冴が、科世が、皆が立ち上がり、第二演習場を目指してその歩みを進めた。
だがその前に、掃除の時間だ。科世、パンを早く食べなさいパンを。沈黙先生が後ろに居るって。
バシーン! ほら、沈黙先生の制裁が飛んできた。うん、良い音だ。
◆
「よく逃げずに来たな。褒めてやるよ」
「どうも。疑心先輩」
「暗鬼で良いって。堅っ苦しいのは無しにしようぜ?な?」
「はぁ。分かりました。暗鬼……さん?」
「それで良い。俺もそっちの方が親近感が持てるってもんだ」
戦いの前でも、この人のこの口調は変わらないのだろうか。
俺達<歩兵>一組は、二年<王>と試合を行うことになり、第二演習場に来ていた。正直なところ、勝てる気がしなくもない。根拠は無いが。
この試合、沈黙先生には猛反対を喰らったが、何とか説き伏せて許可を貰うことに成功した。
『これも経験です。先生は、生徒の経験の場を奪う気ですか!』この一言が決定打になったらしく、沈黙先生は何も言えなくなってしまいお目付け役として同行してくれたわけだ。お人好しな沈黙先生だった。
「早速始めようぜ? <王>は俺だ」
「俺も一組<王>です」
それぞれ所定の位置に就く。俺は最後尾で待機。これが<王>の本来あるべき姿。そう思っていた。しかし、その思い込みは暗鬼さんのおかげで粉々に打ち砕かれることとなる。
「それでは、<歩兵>一組対二年<王>……試合、開始!」
どちらも動かない。先ずは相手の出方を見る。考えていることは同じのようだ。
演習場は静まり返って、風の音が良く聞こえる。ふと、二年<王>の方を見た俺は言葉を失う。
「な! ……暗鬼さんが……最前線!?」
そう、暗鬼さんが居たのは<歩兵>よりも前。敵と真正面からぶつかることとなる最前線だった。それでは狙い撃ちにしてくれと言っているようなもの。それなら、望みどおり狙い撃ちにしてやろう!
「科世、六式だ! 他の部隊は悠聖と終冴を中心に脱出不能牢の体勢を作れ!」
科世が六式連水砲を乱射し、その隙に悠聖と終冴が敵陣後方に回り込む。
「へぇ、水流魔術師。上級の魔法使いか。だが、俺にはそんな魔法効かねぇよ」
「え!?」
暗鬼さんが腕を一振りすると、バシャン!
水が弾ける音がして、連水砲の水弾が一瞬にして消し去られた。科世は何が起こったか分からないような顔をしている。事実俺も、何が起こったのか分からない。
暗鬼さんの一振りによって、水弾が粉々に打ち砕かれたのだ。いくら強そうだとはいっても、腕を振るった程度で上級魔法使いの魔法を簡単に無効化されるとは思いもしなかった。これが、暗鬼さんが最前線で戦う理由なのだろうか。自らが盾となることで、仲間を護っているとも解釈できる。
俺があれこれ思想を巡らし、科世が唖然としている中に、悠聖からの通信が入る。
「神夜! 脱出不能牢、いつでも行けるぞ!」
ハッとなってディスプレイを確認すると、悠聖と終冴はもう敵陣の後方に回り込んでいた。敵陣は未だに動こうとはしない。誘っているのか、それとも本当にただ突っ立っているのか。
普通なら乗ることはないが、状況が状況なだけにここは攻めさせて、いや決めさせてもらおうか。
「よし! 必殺布陣、脱出不能牢!」
勝利を決めたくて焦っていたこともあったのかもしれない。脱出不能牢の指示を出して俺は、自分の愚かさを思い知ることとなるのだった。
後半へ続きます。