第二局~運を味方に~
タイトル名は気にしないでください。良いのが浮かばなかったので。
「ふふふ、さぁ神夜、この状況をどう覆す?」
「これで勝ったら奇跡だぜ?」
「神夜っちの負け決定かな?」
「…………」
登校初日の休み時間。
俺は今、今日出来た友達もとい、仲間の城ヶ崎悠聖を加えた四人で……大富豪をやっている。今チェスしてたと思った方、すみません。大人数でやるなら大富豪が良いと、悠聖からたっての希望があったものでして。
ここらで、後の二人を紹介しようではないか。
一人は悠聖の友達、水床終冴。悠聖に負けず劣らず愛想の良い奴だが、悠聖のように馴れ馴れしいわけではなかった。こいつとは、仲良くなれそうだ。
そしてもう一人、白状科世。ネタみたいな名前をしている。こいつは女子だが、俺らのやり取りを見ていて面白いと思ったらしく、『私も混ぜてー』的なのりで自然と打ち解けあった。そして、魔法が使えるらしい。属性は水だとか。まぁ、読心術を操る幼馴染を持つ俺にしてみれば、別に珍しいことではないが。
この女が俺のことを“神夜っち”なんて呼びやがるから、俺はクラスでも浮いてしまっている。
一応アイドルらしく、ファンもたくさんいるとのこと。もちろん、このクラスにもファンはいるわけで、“神夜っち”と呼ばれたときに、俺に刺さる視線が痛いのなんのって。
さて、ここで話を戻そう。
俺の手札は五枚。八、四、三、Jack、そしてJoker。悠聖、終冴、科世はそれぞれ二枚ずつ。恐らく、あれはかなりデカイ数字のはず。だがしかし、どんなにデカイ数字でもJokerには勝てないことを教えてやる! スペードの三は、俺が持っている。jokerを破る最後の切り札が無い以上、こいつらに勝ち目はない。
さぁ、逆転劇の始まりである。奇跡を起こしてやろうではないか。
「クックックッ……お前らが、大富豪で俺に勝てると、本気で思ってるのか?」
「な、何!?」
三人の声が重なる。それに対し、俺はカード持った腕を高らかと天に突き上げた。
「その思い込みが無駄だということを見せてやる! 先ずはJoker!」
全員が“しまった”というような顔でJokerを見つめるがもう遅い。俺の勝利の方程式は既に完成しているのだから。
「続けてJack! ……下だ」
通称ジャック・バック。jackが出た場合、下か上かを指定し、下なら十一より下を。上なら十一より上を出さなければならない。三が三枚出た今、三は俺のが一枚のみ。八も、俺の持つ八が唯一。下の序列において、三の存在は最強だ。当たり前のように三を出す。ターンが流れて俺の番。
「喰らえ! 八切り! これでお終いだあああぁぁぁぁ! 四!」
短くも激しい戦いに終止符を打ったのは、俺の放った四だった。唖然としているのは三人だけではなく、馬鹿騒ぎを聞きつけ、集まってきた他の連中の口もあんぐり状態。それは俺の勝ち方云々より、テンションに向けられたあんぐりだと思う。
「約束通り、ジュース一本奢りな」
俺はそれだけ言うと、教室を後にした。向かう先は、自販機。
話していなかったが、あの大富豪はジュース一本を誰に奢るかを決めるものだったのだ。昔から賭け事には強く、負けたことは無い。仕組んだだろ、とその度にいわれ続けてきたが、何度やっても俺が勝つのだから仕方あるまい。そもそも大富豪には、色々なルールが存在する。というのも、やっている地域や場所によって自分達独自のルールを作っているからだ。ババ抜きのように統一されたルールが存在しているわけではない。だからルールの事でたまに衝突が起きるのはその為だと言っても良いだろう。
そうこうしている間に、自販機へと到着。今回奢ってくれるのは科世だ。アイドルだし、結構稼いでいるだろうという俺の勝手な予想で連れて来てしまった。
「いや~、神夜っちは強いね~。私なんか、もう手札Kingと六しかなかったよ」
「まぁ、な。俺、賭け事で負けたことないから」
「何か必勝法とか在るの?」
「別に無いさ……あぁ、しいて言うなら、『運を味方につけろ』かな」
「へぇ~……分かった。私も運を味方につけられるように頑張るよ!」
「応援してるぜ」
科世に奢ってもらったジュースを飲み干した俺は、科世と並んで教室へと帰る。途中、周りの生徒からの視線が嫌というほど突き刺さったが、何とか無事に教室へと戻り、静かに寝息を立てた。隣では、悠聖、終冴、科世の三人が何やら話しているが、俺の耳は封鎖状態にあり、ほとんど聞こえない。
……そういえば、次の授業『実践演習』だったっけ。演習ったって何をするのだろう。全く映像が沸かないのは俺だけだろうか。ちょっと聞いてみることにした。
「悠聖、『実践演習』って何をすんのか、知ってるか?」
「いや、何も。これから、咲群先生から説明があるみたいだ」
悠聖がそう言うタイミングを待っていたように、沈黙先生が何やら資料を大事そうに抱えながら教室へ入ってきた。余程重かったのだろう、息が上がっている沈黙先生。
「え~、これからみんなに『実践演習』のやり方を説明します。席に着いて下さい」
皆が席に着いたのを確認した沈黙先生は、手に持っている資料を…………配らないだと!? じゃあ資料は何の為に持ってきたんだ! 労力の無駄ではないか!
天然なのかわざとなのか、やはり掴みどころの無い人だ。
「演習は、クラスから十六人を選出し、<歩兵>八人、<僧>二人、<城>二人、<騎士>二人、<女王>、<王>をそれぞれ一人ずつ決めてもらい、その人達で布陣を作って、戦ってもらいます。ただし、魔法を使える人に限り、<僧>に就いてもらいます」
ほぅ、面白そうだな。十六人とは、まさにチェスではないか。これだ! 俺はこういうのを待っていたんだ! というより、魔法使える奴なんて科世以外に誰が居るんだ? 自分から名乗り出てくれなきゃ分からないぞ。
「では先ず、全ての指揮を執る<王>を決めてもらいたいと思うんですが、誰か良い人は居ませんか?」
ん!? 何故みんな一斉に俺を見る! 他に居るだろ!? 悠聖とか!
「うん! みんな、神夜君が良いみたいなので、無条件で神夜君に決定します」
もう、好きにしてください。
「じゃあ、私は……」
「<女王>!!!!」
教室内の全ての声が重なり、科世が女王に決定。そこはお決まりのユニゾンだ。実際、魔法が使えるので<僧>かとも思ったが、皆が言うならそれで良いのだろう。
そして、悠聖は<騎士>、終冴は<城>になった。駒としては最高に良い材料が揃ったが、さてどうやって戦略を組み立てようか……。
◆
長い廊下を上品な足取りで歩く一人の女性。その腕には一冊の本。立ち止まったのは、校長室だ。
「駒野校長、私です」
「霜月君か……入りたまえ」
霜月と呼ばれたその女性は校長室のソファーに腰掛けると、おもむろに腕に抱えていた本を広げる。どうやら今年度の新入生一覧のようだ。その一覧には、神夜や悠聖、終冴に科世の名前や顔写真が記載されている。
「ほぅ、これはこれは……」
「中々生きの良い子たちが集まっています。この時点でも、即戦力として起用できる水準ですが……」
「そうですか……では、この調子でお願いしますよ?」
「はい。この霜月叶恵、あなたのお心のままに」
二人の目線の先には、校長室の窓から見える演習場。丁度、神夜達<歩兵>一組が入って行くところだった。
少しは進展できたと思います。感想あればよろしくお願いします。