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チェック・メイト  作者: 神門
~謎多き学園~編
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第二十七局~第三回実践演習~

遅くなってしまい申し訳ありません。

テストからの急展開になりました。

いつも通りの駄文ですが、お付き合いください。

 今日はテストの結果を含めその順位が発表される日だ。

 国語は満点、数学も限りなくそれに近い点数をたたき出したが、トーマや悠聖には及ばなかった。

 悔しさも残るが、今は一時限目の物理の結果が良い点数であることを祈るのみだ。

 物理の担当は霜月叶恵先生。美しい銀髪が特徴の女性だ。沈黙先生をクールにした感じ、と言えばわかるだろうか。正直に言うと、かなりタイプな女性である。しかし、笑っているところを見たことがない。教室に入ってから授業が終わるまで、無表情を貫いてから帰って行く。

 終冴なんかは「仮面付けてるみたいだな」などと言っていた。別にそれを悪く言うつもりはないが、見ているこちらとしてはあまり良い気分ではない。

 クラスの連中が美人だが近寄りがたい雰囲気だと話していたのを聞いたこともある。それを鑑みれば、沈黙先生の方が余程話しやすい。だが、俺にはワザとクールに振る舞って、他人を遠ざけているようにも見えてしまう。まるで「自分に関わったら碌な事にならないから近付かない方が良い」とでも言うように。


「では、答案を返します……藍川君」


 相変わらずのクールさで答案を返していく霜月先生。それを一番最初に受け取る藍川はきっと複雑な心境なんだろうな。ここで、藍川について少し語っておこう。

 〈歩兵(ポーン)〉一組出席番号一番、藍川崚(あいかわ・りょう)。炎属性の魔法使いで、成績は上位の方だ。魔法使いとしてのランクも上級とまではいかないが、中の上くらいの実力がある。演習での駒は〈僧侶(ビショップ)〉。


「次……明星君」


 おっと、俺の番が来たらしい。ベクトルの計算やモルの求め方など、暗鬼さんに教えられたら事をあらかた頭に叩き込んで望みはしたが、俺は物理が得意ではない。寧ろ苦手、嫌いの部類に入る。

 あの暗鬼さんに教わっておきながら、無様な点数を採ることは出来ない。しかし、ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない。


「…………」


「……明星君、緊張しているの?」


 緊張が顔に出ていたらしく、霜月先生が不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。その顔は相変わらずの無表情だが、やはり美しい。


「まぁ、少しは」


 目を逸らしたいのを我慢して、ぎこちない笑顔を作って返す。自分でもぎこちないと分かるような作り笑顔に成っていることだろう。

 しかし、


「フフッ……あなたの点数はそんな心配なんて霞むくらいの高得点よ?」


「えっ……?」


 渡された答案の点数は……九十五点。

 ……!?!?!?!?!?

 俺が、こんな高得点を!?

 いや、今はそれよりも……霜月先生が、笑った?

 微かに、微笑み程度であったが、確かに霜月先生は笑った。しかも角度的に俺にしか見えない位置で微笑みかけてくれた。


「さぁ、席に戻りなさい。連絡があるから」


「あっ、はい」


 言われるがまま、俺は回れ右をして自分の席に向かった。


「神夜? 顔赤いよ? どうかしたの?」


「あぁ~……何でもない」


「?」


 訊いてきた科世を適当にはぐらかして先生の方に向き直る。何か連絡があると言っていたが、大方の予想はつく。


「今日の午後からの演習の対戦相手を発表します」


 だろうと思った。

 演習の対戦相手はランダムで決まる。といっても、一年生を二年〈(キング)〉に当てるようはバカな組み合わせは無い。あれは、暗鬼さんからの申し込みを俺が受けただけ。担任である沈黙(しずか)先生にも猛反対されたが、それを押し切って対戦を組んだのだ。

 結果は惨敗だったが、学ぶべきことがたくさんあった対戦でもある。


「今回の対戦相手は……一年五組です」


 五組、か……。

 直接顔を合わせるのは今日が初めてになる。何せ、五組とは全く絡みが無い。

 二組や三組は教室が隣だから移動も容易い。悠聖や科世の友達と話すことだって少なくない。四組は鐘騎の奴が呼んでもいないのに遊びに来るんで、必然的に繋がりを持ってしまう。

 しかし、わざわざ五組の教室まで遊びに行こうとは思わないだろう。だから、情報は皆無と言っても過言ではない。

 勝ち負けを左右するのは情報だ。情報を敵より多く持っている方が勝つ。戦争でも試合でも、敵のデータを見て研究すれば、弱点を突いて倒すとも不可能ではない。

 ……ある一部の人を除けば、だが。


「では、授業終了後速やかに演習場に移動して下さい。……号令を」


 一通りの号令を済ませ、霜月先生は教室を後にした。……というか、まだ授業終了時間になってないんですが……。

 だが、先生がそう決めたなら終わりということなのだろう。


「さて、と」


 言って席を立つ。向かうは〈歩兵(ポーン)〉四組の教室だ。志野原鐘騎なら、あいつなら、五組の情報を少なからず握っているはず。

 順位を確認するのは演習が終わってからでも大丈夫だと先生が言っていたから今は情報が欲しい。



 四組の教室までやってきた。

 扉に手をかけようとした刹那、背後に気配を感じ、振り向きながら裏拳を繰り出す。


「ゴハァ!!」


 鈍い音と変な声を出しながら、俺の後ろに居た何者かは吹き飛んだ。まぁ、それが誰なのかはだいたいの検討がつく。でなければ裏拳など出すわけがないからな。


「五組の情報、知ってること教えてくれ。鐘騎」


 床で「ふおぉぉぉぉぉ!」と唸っている鐘騎に向けて言う。


「ぐっ……最近更に容赦無くなってないか? お前」


「ああ。何たって、お前だからな」


 制服に付着した埃を手で叩きながら、鐘騎が立ち上がる。そこまで本気では殴らなかったから、立ち上がるのは簡単だろう。そもそも、決して力があるわけではない俺が殴ったところで大したダメージにはならない。

 鐘騎がケロッとして立ち上がったのが良い証明になっている。


「五組の特徴は、スピードだな」


 唐突に話し始めた鐘騎。てっきり何か意地悪でもしてくるのかと思ったが、そんなことはなかったようだ。

 まぁこちらとしても、余計な事は抜きにしてもらった方が助かる。というか、それなら俺が裏拳なんて出してしまった事が一番余計だとは思うが。


「クラス全体の動きが速い。今までの演習を見てると、陣の展開から攻め、撤退までほんの数十秒で完了してる。そのスピードを生かしたヒット&アウェイが基本戦術だ」


 流石は鐘騎。五組の特徴をしっかりと理解している様だ。これなら対策も立てやすい。


「ありがとうな。今度何か奢ってやる」


 踵を返してから言う。なんとなく、面と向かって礼を言うのが気恥ずかしかったから。


「なら、明日の昼飯頼むわ」


「明日は学校休みだ」


 後ろから聞こえた鐘騎の声に一度だけ手を振ると、俺は演習場を目指した。

 ……スピードを活かしたビット&アウェイ、か。なら、今回はアイツの出番かもしれないな。



「藍川、ちょっと良いか?」


「なんだい?」


 演習場で陣を敷き終えた後、俺は藍川に声を掛けた。真面目が服を来て歩いているような藍川だが、演習の時は顔が引き締まって怖いくらいになる。


「今日はお前の力を借りたいんだが、お披露目しても大丈夫かな?」


「ということは、僕の術式を?」


「あぁ、今回の鍵だ」


「了解したよ。隙を見て仕掛けるから、巻き込まれないようにね」


 快く返事をくれた藍川に礼を言って五組と向き合う。

 今回はかなり苦しい戦いになるが、俺の思惑と藍川の術式が相手に知られていないというアドバンテージがある。これをどう活かせるかが勝負の決め手だ。


「一組〈(キング)〉明星神夜だ。よろしく」


「……」


 五組の〈(キング)〉と向き合い、握手を求める。黒い髪と瞳に眼鏡という出で立ちで、インテリな印象を受けるそいつは、俺の差し出した手を握りはしたが、返事は返してこなかった。眼鏡の奥に見える双眸が冷たい印象を与える。

 そして、手を放して背を向けあった瞬間。


「……堀井剛光(ほりい・たけみつ)だ」


 それだけが微かに聞こえてきた。

 人と面と向かって話せない、いや、話さないのか。それは恥ずかしさからなのか、拒絶からなのかは分からなかった。しかし、名前を教えてくれたということは、少なくとも拒絶はされていないように思う。しかし、恥ずかしがっているというのもなにか違う気がする。


「神夜」


 唐突に声をかけてきたのは、トーマだ。演習まであまり時間が無いのに、どうしたというのだろうか。

 そんな俺の疑問を余所に、トーマは続ける。


「鐘騎から聴いたんだが、五組と対戦したクラスは全て負けている。スピードもそうだが、突然起こった地震で体勢を崩したことが原因かも、だそうだ」


「地震?」


 ここ最近、そんな規模の地震は起こっていない筈だが……。

 俺は言い知れない不安感を覚え、堀井の方に視線を向ける。堀井はジッとこちらを見据えて微動だにしない。

 ゾッとした。

 勝ちを確信しているわけでも、勝負を捨てているわけでもない、俺達の事など塵ほどにも思っていない表情。もしかしたら、こちらを見ているのではなく、ただ視線を正面に向けているだけかもしれないと、ついそう思ってしまうほどだ。


『それでは、演習開始!』


 だが、俺の堀井に対する恐怖など関係なしに、無情にも演習は開始されてしまう。

 いつもの如く、終冴と悠聖を左右に展開させながら、敵駒の動きを牽制する。戦の常套手段の一つ、鶴翼の陣だ。敵もそれは分かっているらしく、両翼を左右に展開して悠聖達を牽制しにかかっている。しかも、展開の速度は一組の倍近くあり、鶴翼が展開し終わる前に敵の陣が完成してまう。なら、


「両翼一時撤退!!」


 大声で指示を飛ばす。

 この場面で先陣を下がらせれば陣形が崩れてしまう。だが、そんな事は百も承知だ。寧ろそれが狙いでもある。その狙いを分かっていて退いてくれる味方が居るのはとても心強い。

 さぁ、これで敵が上手く乗ってくれれば----。


「神夜! 上手く乗ってくれたみたいだ!」


 見てみると、敵軍両翼がこちらに突出していた。よし、仕掛けるか。


「科世! 遠隔射撃開始!」


 そう。魔法とくれば、科世の出番だ。〈歩兵(ポーン)〉程度なら一撃で沈める事が可能な魔力を有している。それに、今回は新作の術式を披露してくれるのだとか。


「白状科世の名において命ずる。無限の弾丸、我の障害総てを蹂躙せよ! 六式改『流弾輪廻銃身砲(ガトリングガン)』!」


 科世の手元に、先ずは拳銃の形を模した連水砲が出現する。それが肥大化して両手で抱えるサイズになり、銃身が長く伸びる。

 連水砲とは違いすぎるフォルム。水で構成されているため、美しくはあるものの、見た目は完全に軍隊仕様の機関銃だ。

 その砲身が唸りを上げて回転を始める。

 そこまで拘らなくても良いと思うのだが、科世は、銃身が回転してから弾を射出するという、ガトリングガンの機能を完璧に再現したかったらしい。


「前衛は吹っ飛べぇ!!」


 耳をつんざく様な絶叫と共に目にも留まらぬ速度で水弾が吐き出され、敵を蹂躙していく。

 科世の持つガトリングガンは、トリガーを引き続ける限り、水弾を発射するフルオート式の便利銃だ。一発一発トリガーを引かなければならない連水砲とは、効率が雲泥の差である。

 うん。やはり科世は敵に回したくない。見てるだけでも恐ろしいってのに、ガトリングを撃ってる時の科世は「アハハハハ!!」と凄く嬉しそうに笑っているんだもの。


「敵駒、残り十」


 固定砲台と化した科世は、敵駒十六の内六騎をも蹴散らしてくれた。これだけでもう今日の功労賞を贈呈したいくらいである。

 騎士(ナイト)は耐久力がある程度高く、スピードも持ち合わせていて、弾を回避出来るし、(ルーク)は盾での防御が可能だ。が、歩兵(ポーン)はそうはいかない。

 三百程度の低い耐久力で科世の魔法を防ぎきれるとは到底思えない、というか無理だ。もし、科世の魔法を前に生き残れる歩兵(ポーン)が居るのなら是非とも見てみたいものである。


「この機を逃さず、追撃!!」


 敵が崩れた今がチャンスだ。俺は陣形を鶴翼から縦一直線へと変更し、悠聖と終冴を前面に押し立てながら自身も前進する。そして、藍川への指示も忘れない。チラリと目配せすると、藍川は小さく頷いて陣形から外れて行った。

 今のところはこちらが圧倒的に有利だ。しかし、五組は今まで対戦した全ての組を蹴散らしてきたと聞く。スピードもさることながら、五組を率いる堀井の手腕が大きいと俺は予想したが、ここまで目立った動きを見せないのはどういう事なのだろうか。トーマの言っていた地震というのも気になる。


「崩れろ」


 突然聞こえた声に俺は振り返る。見れば、堀井が地面に掌を押し付けているところだった。すると、


「なっ……地震!?」


 錯覚ではなく、本当に地面が揺れ動いていた。

テストの順位は、演習が終わってから発表しようと思ってます。

では、また逢いましょう。

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