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チェック・メイト  作者: 神門
~謎多き学園~編
22/28

第二十一局~正す者達~

遅くなりました。読んで頂ければ幸いです。


−終冴と大介が激突した、その翌日−


 沈黙先生が担当する現国の授業。今時間は答案用紙の返却に費やされるようだ。基本的にどの学校も、試験が終わってから最初の授業で答案を返すらしい。

採点が間に合わなかったとかで若干の遅れを有する場合もあるが、大抵は一週間以内に返却される。

 夏休み前の中間試験。出来は良い方だと思う。

何と言ったら良いか……そう、分からない問題が無かったのだ。だが、出題された問題には、深刻な問題があった。

 二年最高の頭脳を持つ疑心暗鬼さん。その教えの斜め上を、いや、方向など完全無視した、現国の教科に掠りもしない様な問題ばかり。

 それでも全ての解答欄を埋められたのは、問題が歴史や神話に偏っていたからだということも、少なからず影響していた。

 二十代前半で歴史好きというのは、別段珍しいことではない。

 しかし、沈黙先生のイメージとは全く合致していないのも事実。それに、沈黙先生が歴史好きなおかげで、俺、明星神夜が助けられたというのも、これまた事実である。こう考えてみると、俺は結構運が良いのかもしれない。


「それでは答案を返しますが、その前に一つお知らせです。今回……なんと満点が出ましたぁ」


 クラス中がどよめいた。

 あのテストで、あんな偏りまくった問題で満点を取るのか。凄まじい奴も居たもんだな。賞賛に値する成果ではないか?

 それこそ、一人で多勢の敵を数秒という時間で壊滅させるような、そんな華々しい成果だ。


「え〜、平均点は78点です。では、出席番号順で取りに来てねぇ。一番、藍川くぅん?」

 

 一番から一人ずつ順に席を立ち、先生の待つ教卓へと歩みを進めていく。それにしても、平均点78点は高い。流石は名門校。悔しいが、現国と何の関係も無い問題に対しても免疫を持つ奴が半分だったということだ。

 そして、返却された紙切れに描かれた点数を理解するのに時間がかかったらしく、暫くの間固まっていたクラスメートの半分くらいが、漸く自己解凍を完了し、肩を落としていた。


 まぁ、肩を落とすなんてどこの学校にもよくある光景。誰も自分の思い通りの点数が取れると思ってはいない。

 しかし、それでも良い点数であってほしいと、希望を抱かずにはいられないのが人間という生き物だ。かくゆう俺も例外ではない。


「次、神夜くぅん?」


「あ、はい」


 先生の前に立つ。すると、


「おめでとう」


 先生は小声で賞賛の言葉を俺に送った。


「え?何の……」


 紙切れに視線を落としてみる。その点数欄に書かれていたのは100の数字だった。

 紛れもなく満点を意味する数字である。凄まじい奴、華々しい成果を上げたのは、俺だったのだ。普通の奴なら、ニヤニヤが止まらなくなって気味悪がられるか、自慢しまくるところだろう。しかし、状況を理解する事に時間を要した俺の口から出てきたのは、


「奇跡って……あるんですね」


 この一言だった。いや、もうこれは奇跡以外の何物でも無い気がする。


「それは奇跡じゃなくて、努力の賜物って言うのよ?」


 沈黙先生はそう言ってニッコリと微笑んでくれた。ヤバい……眩しくてとともではないが見ていられない!

 ……まぁそんな事は置いといて、だ。

 先生は努力の賜物と言ってくれたが、俺は努力型の人間ではない。苦か楽のどちらかを選べと言われれば迷わず楽を選ぶ、どこにでも居るような人間である。

 自ら進んで苦を選ぶ奴なんて余程の逆境好きか、かなりの負けず嫌い。いわゆる主人公気質というやつだ。

 この結果だけに限って言うならば、俺があたかも努力して得たように見えることだろう。が、しかし、俺がこの結果を出せたのは暗鬼さんのおかげに他ならない。暗鬼さんの適切なアドバイスでこの結果を出せたと言っても過言ではないくらいだ。逆に暗鬼さんが居なければ、俺は現国だけでなく、数学や物理、英語と魔法学においても、とてもではないが他人には見せられない点数を取っていただろう。


「学年別の順位は明日廊下に貼り出されるから、楽しみにしておいてねぇ?」


 沈黙先生はそれだけ言うと、長い黒髪を揺らしながら教室を後にした。後姿も画になる人だなぁ。

 後の時間は自習になるらしい。とはいっても、真面目に勉強する奴などトーマくらいのもので、他の奴は友達とだべるか密かに持ってきたマンガや雑誌を読んだりしていた。学校に雑誌やマンガを持ち込む事が校則違反なのは、誰もが分かっている。だからこそ、違反は、バレない様にやるものだ。

 実は俺も…………あ、ヤベ……持ってくるの忘れた。


「ねぇ終冴……手、大丈夫?」


「ん? あぁ、どうってことないさ。しっかし、あの人なんつう馬鹿力だよ。まだ手に痺れが残ってやがる」


「あれから一日経ってるのに、まだ痺れてるの?有り得ないよ、そんなの。生物学的に考えて」


 科世が周りに聞こえないよう、囁く様に言ってはいる。しかし、近くの席に座る俺には丸聞こえだった。

 科世の言うとおり、終冴が先程からさすっている右手がふと気になった俺は、トーマの席へ移動する。その理由は単純。終冴本人から訊く気にはなれなかったから。

 終冴なら直接訊いても大丈夫だと思うが、人の心はいつ何時傷付くか分からない。どんなに心が強くても、胸の内に抱え続けていられなくなる様な重荷もあるのだ。

 下手な質問で相手の心をぶち壊しになどしたくない。


「終冴の奴、どうかしたのか?右手に外傷は見られなかったが」


「相変わらずよく見てるな。実は昨日、三年の先輩とちょっとしたゲームをやってたんだ。結果は終冴の勝ち」


「そん時に拳の突き比べでもして右手をやった、と?」


「その観察眼と推理力、感服する。簡単に言うならばそういう事だ」


 俺は再度、終冴の右手を見る。

 ちょっとしたゲーム、か……大方、終冴の言葉遣いが悪くてその先輩と一悶着あったってところだな。

主に物理的に。悪い奴じゃないんだが、感情を隠せない性格のためか、敵を作ってしまうこともしばしばある。

 しかし、手の痺れとはいえ、あの終冴にダメージを負わせるとは、一体どんな先輩だろうか。ただ者じゃない。


「しかし神夜、何故そこまで見抜ける?」


「俺も推測だけで喋ってたんだ。お前のちょっとしたゲームって言葉で、たった今確信したところさ。終冴がいくらバカだからって、自分で自分の手を破壊するような真似はしないし、昨日の表情から何かに悩んでたとも考えにくい。

と、なると……」


 そこまで言いかけた時、教室のドアが乱暴に開け放たれた。

 そこには腕に腕章を付けた数人の男女。何やらお怒りのようで、全員が、一目で不機嫌と分かる。そんな表情をしていた。

 俺、何かマズいことしたかな…………いや、違う。俺じゃない。恐らくこいつらは、


「風紀委員です。〈歩兵(ポーン)〉一組、トーマ・オーフェンリル君、水床終冴君、白状科世さん。一緒に来ていただきますか?」


 やはり、か。トーマの言うちょっとしたゲーム。終冴と三年の先輩が()り合ったという、ただの喧嘩。

 しかし、その事が話題にならない筈はない。話題になるどころか、クラス中で知っているのがあの三人だけということは、何らかの方法で隠したということ。誰にも見られないようにするならば、トーマの言っていた、空間から空間をピンポイントで切り離す、『空間凍結魔法』なるものが必要となるはず。

 トーマの事だ。人的被害を避ける為だったのだろうが、その喧嘩自体を止めなかったのが唯一の誤算。お前らしくない。 だがまぁ、俺もそのゲーム、止めなかっただろうがな。


 この場合の魔法使役は『第二百六十七条、校舎内及び寮内での魔法の使用を禁止する』に引っかかる校則違反だ。 

 そして終冴の場合は『第二百六十六条、演習場以外での戦闘行為を禁止する』に引っかかる校則違反。科世は当事者である、という理由だろう。


 いくら隠しても魔法使役の痕跡は残る。

 風紀委員はその名の通り、風紀を乱す輩を取り締まる委員会。魔法使いや能力者の集まるこの学園だからこそ、風紀委員や学園自治団の必要性が他校よりずっと高いのだろう。


『校則違反』


 これ以上無いほど典型的な風紀乱雑の例だ。風紀委員にとっては、言い方は悪いが、格好の獲物だったに違いない。


「はぁ……勘弁してよもう。こないだだって鉄城先輩と霜月先生の対処で走り回ってたのに、追い討ちをかけるように問題起こしてくれちゃって」


 その中に居た一人の二年女子生徒が頭を抱えて呟いた。何とも気だるそうに。

言葉遣いはサバサバしているが、整った顔に、燃えるような真紅の短髪が特徴的な女性だった。


「だったら放っておけば良いんじゃないですか?こいつらの事なんて」


 その発言に説明不能なムカつきを覚えた俺は、そう言い返していた。


「そうしたいんだけどね。風紀委員(こういうの)に所属してる手前、見過ごすわけにはいかないのよ。先生達が後で何言うか分かったもんじゃないんから」


 俺の発言に対して、まさかの本音をぶっちゃけやがったよこの人。そういう本音は心の中だけに留めておくものではなかったか。

 確かに風紀委員は立場上、生徒間の問題を嫌でも摘み取らなくてはならない。その問題を放っておくと、教師からの追求を余儀無くされる。

 ならば何故入ったのかという根本的な疑問にぶち当たるのだが、言ったらキレそうだから言わないでおく。


「そこの君、今、何故風紀委員になったのか、とか思ってたでしょう?」


「……あ〜、バレてます?」


「うん。顔にそう書いてあるよ。明星神夜君?」


 何? そんなバカな……って、あれ?


「どうして俺の名を? 一度も名乗った覚えはありませんが」


「君の事は緋狩から聞いてるよ。あ、紹介まだだったよね。私は二年〈騎士(ナイト)〉の美司波冷火(みしばれいか)。緋狩と同じクラスなの。よろしくね」


「はぁ……」


「それに、緋狩から聞かなくても君のことは耳に入って来たと思うよ。君は今期話題性ナンバー1の一年生だからね」


 話題性、か。

 幼馴染の緋狩は良いとして……鐘騎の奴め。入学早々あんなにふれ回るから、俺が度々面倒事に巻き込まれるんだよ。

 ……ったく、人の気も知らないで。


「呼んだかなぁ!? 神夜ぁぁ!」


「呼んでない! 帰れぇぇぇ!」


「どわぁぁぁ!」


 教室の入り口に姿を現した鐘騎の顔面へ、女装を……じゃない。助走を付けまくった跳び蹴りを食らわせ、廊下へと弾き出す。

 鐘騎の身体は盛大に床を跳ね、床の摩擦によって静止した。相当なダメージを負ったのか、体が小刻みに震えている。


「くっ……久々の出番だと思って来てみれば、何だこの扱い」


「お前の所為で俺が今どんな状況下に置かれているか説明してみろ、漢字三文字でな」


「面倒事?」


「ふんっ!」


 うつ伏せに倒れている鐘騎の顔面へ向けて蹴りを放つ。

 自分で説明させておきながら、予想通りの憎たらしい答えが綺麗に返ってきたことに対して、無性に腹が立ったからだ。

 俺をこんな状況に陥れた張本人を前にして、怒りのボルテージが上昇傾向にある。先程の跳び蹴りが『挨拶』のレベルに落ちる程。

 鐘騎に教えてやろう。俺を敵に回すとどれだけ恐ろしいか、ということを。

 と言っても、俺が一人で鐘騎に何かする訳ではない。ここには俺の仲間が居る。人を使うのが、俺のやり方。

 実践演習でこそ、一組の〈(キング)〉として前線に立つが、普段の俺は、人の影に隠れ、自らは手を汚さずに高見に立ってその様子を見物している卑怯な人間だ。周りはどう思っているのか知らないが、少なくとも、俺自身はそう思っている。

 思うようにしている。

 自分が善良な人間だと認めなければ。卑怯な屑野郎だと思い込めば。くだらない正義感を振りかざす必要もないのだから。自分の思うままにムカつく奴を蹴飛ばせるし、罵る事も出来る。

 正義の味方はそんな愚行を犯さない。


「ちょっと、神夜君?あなたもたった今、校則違反で連行する事に成っちゃったんだけど」


「え?」


「第二百六十六条に引っかかってる。今のは明らかに戦闘行為だよね?」


 ……しまった。

 「怒りに我を忘れていた」と言うのが正解か、俺は風紀委員の目の前で見事に校則違反をして見せていた。油断にも程がある、と、俺が実感した瞬間だった。違反を正す者達の眼前で違反を犯したのだから。


「言い訳は? ある?」


 今更何を言っても無駄な事を知っている癖に、その問いを投げかけるか。そもそも、言い訳と言い切っている時点でこちらの言葉を聞き入れないという意思表示ではないか。

 美司波冷火。この人、相当性格が悪いと見える。多分、俺よりも。


「……いいえ。ありません」


「うん、素直でよろしい。じゃあ、私達の根城まで案内するからついて来て」


 ここでつまらない意地を張っても仕方がない。素直に従うことにした。

 冷火さんは笑顔になると、手招きで俺達について来るよう合図する。俺、悠聖、終冴、科世は無言で席を立ち、心配そうな視線を注がせてくるクラスメート達に“心配ない”と目配せしてから、冷火さんの後を追った。

 鐘騎は……気絶してるな。放っとこう。


「私たちのリーダーにして風紀委員長。『粛清王』の名を取る人が待ってるから」

感想あれば待ってます。

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