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チェック・メイト  作者: 神門
~謎多き学園~編
18/28

第十七局~二年という壁~

お気に入り登録してくださってる皆様、お待たせしました。

遅くなってすみません。

今後ともよろしくお願いします。

「マジかよ……生き返らせるって、どんなトンデモ能力だ」


 どんな能力者が出て来ても驚かない自信があったのに、“死者を生き返らせる”なんて人の概念を超越した能力を目の当たりにしたら、その自信が崩れ去るのは時間の問題である。しかし、能力者にとってみれば、それは珍しくも何とも無いのだろうな。


「その能力から、別名『生をねじ曲げる者(ライフ・ブレイカー)』とも言われてるの。聞いた事無い?」


「……いや、全く」


 聞くもなにも、俺は今の今までその『生をねじ曲げる者(ライフ・ブレイカー)』とやらを全く知らなかった。これは俺の憶測だが、その通り名の方が本名よりも知名度は高くなる。もし知っていたとしても、あだ名すら知らなかった俺が、本名を聞いたって思い出せるわけがない。それなら残るは、『顔を見る』これしかない。

 だが、今は無理の様だ。


「どうしたの?神夜、顔が赤いよ?」


 うっ……やけに鋭いな。

 キスの事思い出して照れてる、なんて言えないよなぁ。

俺は照れを誤魔化していたつもりなのだが、この人はやはり俺の姉の様で、直ぐに見抜かれてしまった。


「な、何でも無いよ……それよりも、本当に……義姉さんなんだね」


「えぇ……間違い無く、あなたの姉、時皇子時雨よ」


 俺は自分の身体から力が抜けていくのを直に感じた。緊張の糸が切れたのだろう。膝に力が入らず、廊下にへたり込んでしまった。床に突いた手に、割れたガラスの破片がいくつか刺さったが、気にもならない。

 ……嘘です。ちょっと痛いです。


「神夜!どうしたの!?」


 義姉さんが駆け寄ってくる。そして、二年前に俺の頬を撫でたその指で、もう一度、俺の頬を撫でてくれた。懐かしい。とても懐かしい感覚だ。


「あぁ……何だか俺の体、勝手に安心したみたいでさ……力が入らないんだ」


「安心?」


「まぁね……俺は今まで、義姉さんが居なくても一人でやっていこうと思ってた。実際一人でやれてたんだ。学校に通って、友達作って、勉強して、自分で飯作って……そんな当たり前がとても楽しかった。でも、やっぱり義姉さんが居ないとって思うようになった。今まで俺を支えてくれたのは、義姉さんなんだ。どんな形であれ、俺の前に帰ってきてくれた。

 義姉さん……おかえり」


「!」


 義姉さんの目が見開かれ、その端には雫が溜まっているように見えた。それを手で覆って隠すあたり、どうも本当に泣いているらしい。

 俺からそんな事を言われるとは思っていなかったらしい。常人なら気味悪がって拒絶すること間違い無しだろうが、此処は日本の中でもブッチギリの超人達が集まる学園だ。

 魔法使いや能力者を各種取り揃えてある。そんな中で生活してきた俺の常識は、少なくとも常人が『常識』と呼称出来る代物では無くなっていた。もう自信がどうとかは関係ない。


「感動の再会ってやつか?まさか時雨が神夜の姉だったなんてな。どうりで気にかけるわけだ」


 いつの間に戻ってきたのか、俺の後ろに居たのは、さっき部屋のドアを蹴破って飛び出した暗鬼さんだった。

 何処に行ってたんだこの人は。


「暗鬼君……」


「なぁ時雨……単刀直入に聞く。この窓ガラス壊したの……お前だな?」


「え?」


 俺は暗鬼さんの言ったことが理解できなかった。確かに、可能性からすると、この窓ガラスを割ったのは義姉さんしか考えられない。

 だが、寮に有る窓の数は決して少なくないし、それこんなにもたくさん、ましてや一瞬で破壊することなぞ不可能だ。まぁ、それも『常識的』に考えればの話。


「暗鬼さん、そう思う理由は何ですか?」


 俺は大して驚く風もなく、暗鬼さんに訊いた。


「お前が最初に言ったろ神夜。破片が濡れてるって。水使いがやったんだ」


 聞いてたんかい。なら何故出て来なかったのだろう。


「じゃあ義姉(ねえ)さんは」


「そう、時雨は水の魔法使いだ。それも……」


「待って暗鬼君。その先は言わないで頂戴」


 一瞬目を鋭くした義姉(ねえ)さんは、暗鬼さんにそう告げる。暗鬼さんも仕方無さそうに「分かったよ」と肩をすくめてみせた。

 確かに魔法使いなら何らかの術式で窓ガラスの一斉破壊をやってのけることが可能だろう。俺も追求する気は起きない。人には誰しも知られたくない事が一つや二つ有る。この俺が体験した『混沌の放課後(カオス・アフター)』のように。


「本題に戻るわね。確かに私がこの窓ガラスを壊してこの僚に侵入した。女子寮から遥々やって来たの。神夜、あなたに会うためにね。正攻法じゃ入れてくれなかったから」


 義姉さんは寮生だったのか。どうりで会わないわけだ。まぁ寮生じゃなかったら、俺の家で一緒に生活してたろうけどな。

 ただ、男子寮と女子寮はこの学園の敷地内に建てられているから、歩きでも十分とかからない。遥々という表現はどうかと思う。


「でも義姉さん、わざわざ窓ガラスをこんなにぶっ壊して入って来ること無いでしょ?別室の人達に…………っ!」


 待てよ……他人?

 この場には暗鬼さんと俺、そして義姉さんの三人しかいない。俺は最初の疑問に再度ぶち当たった。義姉さんとの再会という感動的な場面の介入によって、意識の外へと追いやられていた疑問である。


「そうだ……義姉さんは眠らせた訳じゃないって言っていた。ではどうなってるのか説明してくれますか?この無人状態のからくりを」


「どこから説明すれば良いのやら……とりあえず、部屋に人は居るのだけれどこの騒ぎには気付いていない、と言うべきね」


 気付かないわけがあるものか。あれだけ耳障りな騒音。気付かない方がどうかしてるよ。

 と思ったが、状況が状況なだけにそうも言ってられない。実際、この場には暗鬼さんと俺、そして義姉さんしか居ないのだから。


「私の友達に“そういう”能力者がいてね、ガラスの割れる音を遮断してもらったの。“あなただけに音が届く様に”」


 それなら一枚だけ壊して入って来れば良い話であろうに、義姉さんはわざわざ俺の住む学生寮二階の窓ガラスを全てぶっ壊した。


「ならば一枚壊せば良い話でしょ?何故全て壊して入ってきたの?」


「腹いせ」


 めちゃくちゃタチの悪い腹いせだった!

 正攻法で入れてくれなかったからってここまでやるか普通?俺も暗鬼さんも寮生活だからあまり気にしないが、寮には門限があるらしい。

 確か『第三百八十四条、寮生は午後十一時をもって外出を禁止する』だったはず。そして『第三百八十五条、寮生以外の生徒は午後八時をもって訪問を禁止する』というのが、この寮に関する校則の一部。これは男子寮と女子寮に共通した決まり(ルール)だ。午後九時を回ってしまった今、義姉さんはこの男子寮には入って来れない、ということになる。決まりに従うタイプではない俺も、“これを守らなければ寮生活の許可は出来ない”なんて言われちゃ従うしか他に道など無かった。


「こりゃあ、後で寮長が大爆発しそうだな」


 絶対しません。

 大激怒はするかもしれないけど。


「ああ、そうだ。暗鬼さん、主神の一撃(オーディン・ストライク)の方はどうなりました?」


「そこに居るじゃん」


「そこって?」


「ほら」


 と、暗鬼さんは義姉さんを顎で指す。

 「冗談でしょ?」という眼差しを暗鬼さんに向けてみるが、暗鬼さんは首を横に振った。暗鬼さんの反応から察するに、どうもどうやら、義姉さんは主神の一撃(オーディン・ストライク)の一員らしい。


「……マジ?」

 

 義姉さんは照れ笑いしながら小さく頷いた。その笑顔がとても愛おしい。俺は無意識に義姉さんの正面に立つと、その体を抱き締めていた。

 今は主神の一撃(オーディン・ストライク)がどうとかはどうでも良い。ただ義姉さんの存在を認識したかったのだ。


「え……あ……」


 とても細くて華奢な義姉さんの体は、少し力を加えただけで簡単に壊れてしまいそうだ。義姉さんは少々驚いてはいたものの、抵抗しなかった。

 俺に体を預けてくれる。ふわりと、義姉さんの良い匂いがした。

 義姉さんにとって、二年間という時間はかなりの障害になったことだろう。二年前に死んだ筈の人がいきなり目の前に現れれば、誰でも肝を冷やすこと請け合いだ。いや、肝を冷やすならまだ良い。多くの人は、近付くのも躊躇うだろう。

 俺がもしその立場なら、拒絶されるのが怖くて顔も見せられないと思う。だが、そんな事を省みず、義姉さんは俺に自分の存在を知らせに来てくれた。


「義姉さんは、いつも唐突過ぎる。今日だって腹いせに窓ガラス大量に破壊してさ。でも、それが義姉さんなんだよね?」


 義姉さんを抱き締めたまま、呟く様に言葉を紡いでゆく。

 壊れてしまいそうな程華奢な存在(ねえさん)を確認する様に。


「昔から何一つ変わらない。それが時雨(わたし)よ……そうでしょ?、神夜」


 俺の背中へと回した義姉さんの腕に力がこもり、抱きしめ返してくれた。義姉さんの温もりが伝わってくる。

 しかし、それと同時に何か別のものも伝わってきた。何と言えば良いのやら……まるで義姉さんという(いれもの)の中に“別の人の命”が存在している…………それも、俺のよく知っている人の命、の様な気がしたのだ。

 俺は気分の悪さに思わず義姉さんを突き放す。

 その義姉さんは“やっぱりそうか”とでも言いたげな顔をしていた。


「あなただけは誤魔化せないみたいね」


「ハァ……ハァ……誤魔化す?何を」


「あなたが気付いたとおり、この体は……私は……」


 止めろ。言うな。義姉さん、その先を言わないでくれ。知ってしまったら……俺は……。


「他人の命で生きてるの……『生をねじ曲げる者(ライフ・ブレイカー)』の能力、生命転移(ソウルシフト)によってね」


 俺は義姉さんを見据えたまま黙っていた。いいや、「言葉が出て来ない」だけだろう、きっと。

 他人の命で生きている……つまりはこういう事だ。


 “義姉さんは他人の命を犠牲にして生きている”


 …………人の嫌な予感というものは、どうしてこうもよく当たるのだろうか。その的中率を宝くじに持っていきたいくらいだ。

 生き返ったのは事実。だが、他人の命を使った蘇生。対象となる人の命を死体に移し替えることでその死者をもう一度この世に呼び戻す、といったところか。そして、命を移し替えられた人は当然のことながら死んでしまう。

 他人の命、それも俺のよく知る人物となると、


「……父さん、か」


 義姉さんは黙って頷いた。

 俺は驚くこともなく、寧ろ納得していた。俺の父親、明星響夜(みょうじょうきょうや)は他人の為に命を張る様な、そういう人間である。それが自分の娘ならば尚更。

しかし、義姉さんがそれを望むわけが無い。

 父さんが『生をねじ曲げる者(ライフ・ブレイカー)』に自ら申し出たと考えるべきだろう。


「本当はこんな命、要らなかった。でも、父さんは私をこの世に呼び戻した。これからは父さんの分まで生きなきゃって思ったから……だから!」


「もう、良いよ……義姉さん。父さんはそういう人だから」


 母さんもそれを承知で止めはしなかったのだろうし、何より義姉さんとまた共に居られる。今はそれだけで十分だ。


「おいお二人さん。取り込み中のとこ悪いんだが、そろそろ寮長が来ちまうぞ?時雨、今日のところは引き上げてくれや」


「そうね。今日は神夜の顔を見に来ただけだから、もう男子寮(ここ)に用は無いわ。じゃあね神夜。テストがんばんなさいよ」


「言われずとも」


 笑顔を残し、義姉さんは窓から飛び降りた。ここ二階ですけど……まぁ大丈夫だろう。あの義姉さんだし。

 俺と暗鬼さんはその場から撤退し、俺の部屋に戻って何食わぬ顔で勉強を再開した。それから暫くして、今にも怒りで大爆発しそうな寮長が部屋を訪問し、「犯人を知らないか」と訊いてきたが、知らん振りを決め込んだことは、言うまでもない。

やっと次話でテストに入れそうです。ではまたお会いしましょう。

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