第十一局~守護者の住まう城(ガーディアン・パレス)~
更新遅くなりました。どうもすみません。
楽しんでいただけると幸いです。
「悠聖、終冴は部隊を率いて敵軍後方へと回り込み、脱出不能牢の体勢を作れ。俺も前に出る」
「神夜、間違っているぞ。アルカ・トラスではなくアルカ・トラ“ズ”だ」
指示を飛ばしていた俺にトーマからの訂正が入った。
そうなのか。それは知らなかったな。これからは間違わないようにしなければ。でも、濁点が有るのと無いのでこうも響きが違ってくるのか?
トーマは何故その間違いに気付いたのだろう。そして、周りの連中は何故俺の間違いに気付かなかったのだろう。
う〜ん……疑問は尽きないが、そろそろ現実に戻るとしようかな。
<僧>へと就任したトーマに間違いを正して貰い、気分を新たにした俺は<王背筋に悪寒が走り、不安が込み上げてくるが、俺はその不安を取り払うかの様に首を何度も振ると、次の指示を飛ばした。
「悠聖、終冴、そのままの陣形を保ちつつ、敵を二十メートル南に先導してくれ。そこが大水牢の威力が最大限に発揮できるポイントだ」
「分かった」
「任せな」
俺の指示通り、悠聖と終冴率いる小隊の先導で緋狩の軍は一メートル、また一メートルと南に動かされつつあったが、後もう少しというところで緋狩の軍はビクともしなくなってしまった。
まるで、“今までわざと乗せられてあげていましたよ”とあざ笑われているかのような感覚が俺を襲う。
(こちらの意図を理解しているような動きだ……何故だ?何故読まれている!?)
「何故って……神夜、あんたまさか忘れたの?私の能力」
能力?…………あ!そうだった!
緋狩は読心術を使う能力者という事を忘れていた。何故もっと早くに思い出す事が出来なかったのだろうか。
希少な能力者が、俺の近くには二人も居たんだな。一人は言うまでもなく、目の前でふんぞり返っている、俺の幼なじみこと咲群緋狩。
そしてもう一人は世界が滅んでも自分だけ生き残っていそうな規格外の最強二年生、疑心暗鬼。そういえば暗鬼さん、あの後どうなったのだろう。何も聞いてないから大丈夫だとは思うが、後で二年<王>の教室に行ってみるとするか。
しかし、よくよく考えてみれば俺はそんな恐ろしい人を相手に足掻いていたんだな。自分の無謀さに感心するよ。
「私の能力は『声を聴く者』。相手の心の声を直接に聴く事が出来るの。心を読むとは少し意味合いが違うかしらね」
どう違うと言うんだ。
“心を読む”と“心の声を聴く”。この二つに目立った相違点が無い様に思うのは、もしかして俺だけなのか?
相違点が有ったとしたら、入学式の日に“相手の心を読む”能力と説明した俺の間違い、ということになってしまうが、別に構いやしない。
自分の能力の事は、能力者本人が一番良く解っているのだから、そこに俺が口を挟む理由も無いしな。
「“心を読む”は自分から意識を相手の心に入れて心を読むの。でも、“心の声を聴く”は勝手にその人の思いが頭の中に流れ込んで来る。結構便利なんだから」
つまり、自分の意志とは関係なく相手の心の声を受信してしまう能力ということらしい。
便利か?それ。
俺にしてみれば、四六時中周りの奴の声が聞こえるってだけの、厄介能力にしか聞こえないんだがね。それでは五月蝿すぎておちおち学校で居眠りも出来ないではないか。
っと、緋狩はそんな不真面目野郎じゃなかったな。しかし、緋狩の能力は相当厄介だ。どれくらい厄介かというと、大剣『炎月』を振るう暗鬼さん。とまではいかないがとにかく厄介なのだ。何せ、戦略を全て覗き見られてしまうのだから。
「声が聞こえるのは能力の発動中だけよ。OFFにすれば聞こえなくなるわ」
あいつ今、俺の心の声を聞いてやがったな。
お礼に脱出不能牢で綺麗に囲ってあげよう。包装してあげよう!丸く収めてあげよう!
大水牢の威力が最大ではなくとも、一度囲ってしまえば後はリンチし放題だから問題無い。俺の、いや俺達の勝利は約束されたも同然だ。
「いくぞ!必殺布陣!脱出不能……」
相手の布陣の動きが急に変わったのは、そこまで言いかけた時だった。脱出不能牢の形成中に、敵駒が緋狩から遠ざかる。
まるで、水面に落ちた物体が立てる波の様に規則正しく広がっていき、脱出不能牢の完成を阻止した。囲いを押し広げた、と言う方が適切かもしれない。
「脱出不能牢は、相手を身動きがとれなくなる様に囲む必殺布陣。その弱点は“完成させない”事。私の能力ならそういう弱点も分かるのよねぇ」
「な、何!?この布陣は……」
俺は驚きを隠せなかった。それもそのはず。脱出不能牢を形成する自駒と一対一になるように、敵駒が一寸の狂いなく動いているのだ。機会の様な正確さである。
そんなものを見せられて驚くなと言う方が無理な話である。
「必殺布陣が使えるのはあんた達だけじゃ無いってね。外側からの攻めなら、内側からの守り!必殺布陣!守護者の住まう城!」
緋狩の大号令と共に、全方位をカバーする防御型の布陣が完成した。そういえば、緋狩は攻撃よりも防御が好きだって前に聞いた気がする。
理由は至ってシンプル。誰かを傷付けないから、だそうだ。
それでは甘い。守るという事は、自分が一方的に傷付けられるだけではないか。しかし、俺も“守る”という意見には心のどこかで賛成していた。何故なら、俺もそういう人間だからだ。
(守り……か。確かに守りは、優しさは人間最大の強さだな)
「そう。それなら分かるわよね?この布陣の“強さ”が」
守護者の住まう城の干渉により、不完全な状態の脱出不能牢に合わせて科世の四式大水牢が発動する。
大水牢の効果範囲は広い方だとは思う。事実、脱出不能牢が完成してしまえば、大水牢からは逃げられない。触れただけで大水牢の中へと引きずり込まれてしまう。だが、肝心の脱出不能牢が完成していない状態での大水牢の威力など、たかが知れていた。科世には悪いが、詠唱から発動までに要する時間が他の魔法と比べて長いからだ。
さらには予備動作として、目標とする地点に水の小球が出現し、それが徐々に広がっていく。というのが大水牢の作動傾向。
つまり、かわせるだけの場所さえ確保出来れば簡単に回避可能ということになる。
「みんな、散らばって!」
緋狩の合図で、守護者の住まう城を形成し、脱出不能牢を押し戻していた敵駒が散り散りになり、大水牢は難無くかわされてしまった。しかも、その敵駒の動きには焦りなど全く見えず、恐ろしい程冷静で、見ているこっちが焦らせられるくらいだった。
緋狩を信じているからこその冷静な判断。迅速な行動。それだけ、緋狩はクラスメイトから信用されているのだろうな。まぁ、緋狩は『声を聴く者』の能力を持っているのだから、信用するに足りる人材である事は間違い無い。
相手の心が読めない一般人にとって緋狩の能力は敵の手の内を知る手段として、最たる能力だ。
流石は緋狩……といったところか
って感心している場合では無い!
どうにかして守護者の住まう城を破らなければ。『声を聴く者』は緋狩自身が持つ能力であるからどうしようも無い。
“能力を無効化する”能力でも無ければ防ぐのはほぼ不可能。となると、この戦いの鍵は守護者の住まう城をどう破るかにかかっているようだ。
俺は無意識の内に指を顎に付けていた。
(あれは全方位をカバーする防御布陣……全方位……そうか!)
俺がある考えに至った瞬間、後ろから殺気めいたものを感じた。咄嗟に振り返るが時すでに遅し。
いつの間に回り込んだのか、緋狩の駒、<騎士>の二人と<歩兵>三人が俺に向かって剣を振り下ろしているところだった。
剣で防ごうにも鞘に収めているため、抜刀が間に合わない。もし抜けたとしても一本の剣で同時に五本もの剣を防ぐのは無理だ。
耐久力は残り960。恐らく耐えられるだろう。しかし、その後の戦闘を続けられるのかというと、『うん』とは言えない。
(周りが見えてなかったのかな……バカだ……俺は)
俺は目を瞑った。来たるべき衝撃に備えて。
バキィィィン!
だがその衝撃は、変わりに音として俺の耳に届く結果となる。目を開けたその先には、地に伏している敵駒五人と、ボロボロになった<騎士>が。
その<騎士>は俺の親友、城ヶ崎悠聖だった。
説明や話ばかりですみません。
次は本格的な戦闘シーン入れていきますんでよろしくお願いします。