すかはら。~恋するドジっこ女子は、スカートに風を孕んで空を飛ぶ。~
あすなろ第一中学校の1年生の間で、恐ろしい流行、
「スカート捲り」の嵐が吹き荒れていた。
その急速なビールスの感染拡大は、カースト上位の女子から、タイムループ系主人公の窓際族女子にまで被害を及ぼし、
少女達は今日も、「女子は制服のスカートを履かなければいけない」という校則を呪いながら学校に登校してきていたのだった。
「おい、高幡。」と少年が声を掛けてくる。
名前を呼ばれた少女は、幼い頃からのトレードマークだったカニさんWピースおさげを、今はタカアシガニのように伸ばした姿で振り返り、寄り目気味の目で素早く周囲を伺った。
そして徐々に大人びてきた表情を、必要以上にツン!とさせながら、高幡 芽林は「なによ?」とつっけんどんに答える。
「お前……大丈夫か?」「だからナ二がよ?」と芽林は、苛々とした様子で言った。
彼女は周りの生徒達の様子をもう一度チラッと見渡すと、「……もう話しかけないで。……私、行くわよ……」とコソッと囁くと、後はわき目も振らずに教室を出ていき、そのままスタスタと歩き去っていってしまう。
女生徒に話しかけた男子、小林 歩兎は、心の中で30秒ほど数えると、芽林が去っていった方角へ自分も歩き出した。
誰かに見られていないかを気にしながら彼は、音楽室の先の曲がり角を越え、B階段をいったん下って、少し薄暗い資料室の先の、廊下の少し窪んだ所に向かっていき、
そこで待っていた高幡 芽林に「お待たせ」と再び声を掛けた。
タカアシガニさんWピース女子、芽林が、ブカブカ気味の制服のジャケットの胸の前で腕を組み、「も~う!!」と頬をぷ~~~と膨らませて待ち構えていた。
「アルト?何度言ったら判るのよ??人前でめりんに話しかけないでよ!忘れた?小5の時、私達が幼馴染みだってバレて、その後の学校生活、ず~っとからかわれちゃって大変だったでしょ?!みんなからは、めりんは負けヒロインだ、負けヒロインだって言われるし……。」「まあ、確かにお前は勝ち組ではないな……」と歩兎が言う。
「それどういう意味??」と芽林が、親の顔より見たこの少年ことをギロッ!と睨む。
「いや、なんつーの。メリンはさ、俺みたいな奴とず~~っと一緒でさ。ホント、申し訳ないと思うよ。あれか?別々だったのは結局5、 6年の時だけだろ?まあ、委員会は一緒だったけど。俺の方なんかはお前が居てくれて凄く助かったけど、なんかゴメンな?お前も俺も掃除が好きなせいで、中学でもまた美化委員のペアにまでなっちゃって……。美化委員なんて、行き着く先は掃除のおじちゃん、おばちゃんだよ……。メリンみたいに目立つ女子が、こんな日陰者の仕事をやる必要はないんだぜ?……て、なんだその顔は……?その表情はナニを意味しているんだ……な、なんか怖いぞ。」と言って、歩兎は後ろへ1歩下がった。
タカアシガニさんWピースおさげを指でクルクルと巻きながら、芽林はくねくねと身体を動かし、「えへへへ……」とニヤニヤしながら「そっか~~おじちゃん、おばちゃんになるまでかぁ………」と、嬉しそうに呟いた。
「いえいえ、アルト君!」と芽林は彼の肩をバンバンと叩く。「お掃除は立派なお仕事ですよ~!アルトはゴミ処理場に就職しなさいよ!あの温水プールと植物園が併設されてるとこ!私はおうちでゴミを分別してあげるわ!…そうね、ついでに紙についたホッチキスなんかも外してあげる!」
………芽林は心の中で、いってらっしゃいのホッチキスをする自分を想像して、……((ぼふん))と顔から火を噴き出して「そっか~~おじちゃん、おばちゃんまでかぁ~」と楽しそうに変な踊りを踊っていた。
歩兎は、そんな不気味な幼馴染みの姿を見ながら………50代のメリンが、背中を丸めて商業施設のトイレ掃除をしている姿を想像し、「……いや、お前こそいつまでも実家暮らししてないで、ちゃんとした所に就職しろよな……」と言った。
「も~う!アルトったら!そんなに一緒に居たいの?……しょうがないなあ……ムフフ。私もその処理場で働いてあ、げ、る♡でも幼馴染みだってことは内緒よ?職場の人にもからかわれちゃうから!」
「お、おう……」と歩兎は若干引きながら言い、「ところでメリン?お前大丈夫なのか?」と彼女の足元を見ながら聞いてきた。
芽林は幼馴染みの少年が、格好つけてネクタイを軽く緩めて第一ボタンを開けているのを見て、……アルト、中学になって急に背が伸びたな……と考えていた。
「ん?で、ナニが大丈夫かって?」と彼女は、歩兎の胸元を凝視していたことがバレないように慌てて聞き返す。
歩兎も慌てて、芽林の紺色のスカートの下に覗いた白い脚から目を逸らして「あ、そ、その……お、お前はスカート捲りの方は、大丈夫なのか?」と言った。
「へ?」
と、芽林が間抜けな返事を返す。
「ナニが『へ?』だよ。つまり、だ。お前はスカート捲りの被害に合っていないのか?」
芽林は一瞬ビックリしたような顔をした後、……すぐにニマァァァァ……とだらしない笑顔になり、「あれれれれれ~アルトくん??そんなに心配ですか?」と言って、自分のスカートをパタパタと軽く仰ってみせた。
「やめろよ。はしたない。そりゃ心配だろ?俺はずっとお前のこと知ってるからな。」と歩兎は、壁についたボールがこすれたような黒い汚れを見ながら言った。
「へえ~……ふう~ん……めりんのことが心配デスカ……大丈夫よ!私、まだ一度もそういう目に合ったことないから!……で、そーいうアルト君こそ……スカート捲りしてないでしょうね……」「するかバカ」と彼は即答し、「……そっか。されてないならひとまずは安心だな。」と言った。
そして歩兎はネクタイを横断するように腕をぐるんと組み、「……この流行ヤバいよな。だってお前、小さい頃からパソシ汚いもんな……」と呟いた。
「……はい??」
「ほら、幼稚園の頃から俺たち家を行き来していただろ?よく洗濯も手伝ってたから俺、よく判るんだ。スカート捲られたらヤバいだろ?お前のパソシ、いっつも真ん中が汚れてるだろ?あれってちゃんと拭いてないせいか?なんでいつもあんなに汚くなるんだよ?あと、お前ゴシゴシ洗い過ぎてないか?この前も毛羽立ってたぞ?」
「死ねーーーー!!?!」と華麗に一回転しながら、芽林の脚が歩兎の太ももの裏にクリーンヒットした。
「いって~~!なんだよ!!人が心配してやってるのに!」
「よ、余計なお世話よ?!へんたい!!!」と芽林が真っ赤な顔をして叫ぶ。「女の子はね!女の子はね!もれなく普通にしてても汚れるものなの!!アルトにナニが分かるってのよぉ、うぇぇぇぇぇぇん………」
泣き出した幼馴染みを、歩兎は「まあまあ……」となだめながら、「ゴメンって……悪気はなかったんだよ………だってほら、俺はさ?そういうの慣れてるからいいけど………ほら、スカートを捲った奴が……メリンのこと汚い、とか思うと……それは何か違うと言うか、心外と言うか……俺もあまりいい気はしないから……」とモゴモゴと言う。
「め、めりんだって嫌だよ……アルト以外にお洗濯してほしくないよ……ぐすん…」
「だろ?」と歩兎は少しホッとしたような声で言い、「だからさ、俺、色々調べてみて、これを買ってきたんだ。」とポケットからお菓子の袋のようなものを取り出した。
「…ナニコレ………」
「あ、やっぱりお前も知らなかったか?これ、パソシの内側に挟んでおけるシートなんだってさ。これ、凄いんだぜ?片面がシールになってて、更に折り返しがついててズレないようにもなってるんだ。吸水性がいいわりに通気性も良くて、お肌にも優しいって店員さんも言ってたから、敏感肌のメリンでも安心だ。」
「こ、これ……アルトが1人で買ったの……?」
「ああ。恥ずかしかったけど、そうも言ってられないからな。女の店員さんだったけど、『ひょっとして彼女さんにですか~?』
とか言われちゃって……。顔から火が出るくらい恥ずかしかったぜ。プレゼント包装してくれそうになったから急いで買って逃げてきちゃったけど。……なんだその顔は?ほら、遠慮するな。大して高い買い物じゃなかったから、やるよ。気に入ったら次からは自分で買えよな?」
芽林は何か言おうとして、口を開きかけたが……、「……もう、いいわ……アリガト……」と言って個包装の袋を受け取った。
「ち、ちなみにアルト?こ、これ、もっと沢山入ってなかった…?」「ん?バレたか。」と制服を軽く着崩した少年が答える。「念のために何個か俺も試してみたんだよ。まず体育の時、脇の下に入れてみたのと、靴底にも敷いてみた。……なかなか快適だったぞ。大切な服なんかは汗染みを防ぐ為に、これを使うのもいいかもしれないな?Yシャツの襟に仕込むのもいいな。あそこはすぐ黄ばむから……て、なにか言いたいなら言えよ……。黙ってそんな顔されると不安になるぞ……」と彼は言って、ふて腐れたようにポケットに手を突っ込んだ。
「…………もういいわ。本当に悪気がなさそうだから……あ、ありがとう。……早速試してみるけど、……アルトはもう二度とこれを買わないでね……下手したら通報されて、二度とシャバに戻ってこれなくなるわよ……」と小さな声で言った。
そして徐に、捻れたスカートの裏地をタックを摘まんで上から引っ張り、さり気なく直そうとしたメリンは、………んん?……むむむ………?はて??と難しい顔をして、変な中腰の姿勢で固まりながら、アルトの顔を突き抜けてどこか遠い過去と未来の方向を透視していた。
「……どうした?」とアルトがいささか不穏な空気を感じながら聞く。
タカアシガニさんWピース少女が「……いや、その……なんて言うか………、つまり……、」と呟き、「つまり?」と少年が聞き返す。
「めりんね……パソシ履いてくるの忘れたかも……」 ぐすん。と目を涙でアメーバのような形にして少女が言った。
「………はああ????!!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ??そ、そんなことあり得るか??確かにお前は小学生の時何度かランドセルを持っていくのを忘れたことがあったよ??…でも、これとそれとは大違いだろ??パ、パソシ履き忘れることなんてあるの??」と歩兎が大声で叫ぶ。
「うるさい!ちょっと待って!!い、今思い返してみるから!」と芽林が言い、側頭葉に人差し指をぶっ刺した。
「今さら思い返してみたところで、どーなるってんだよ?!」と歩兎が怒鳴った。
……落ち着け、めりん…あ、あれは、確か……今日の朝……。情報番組でやっていた、働く女子のルーティーン……。1日の始まりにモチべーしょんアップする為に、パソシを新しくして出掛けるという特集……。そうだ!それを見て、すでに制服に着替えていた私も、夜に履いていたやつを替えようとしたんだ……。そして……洗濯機に入れたはいいが、……新しいのを出すのを忘れたんだ!慣れないことはするもんじゃないわ!!どおりで今日は体重が軽いと思ったはずだわ!
「で?……一応聞くけど、どんな理由があたんだ?」と青ざめた顔の歩兎が言った。
同じく青ざめた芽林は「朝はいつも履き替えないから、脱ぐだけ脱いで…。でも聞いて!私だって汚れのことは気にはしてたのよ!洗濯機に入れる前に石鹸を塗って古い歯ブラシでこすってたから、履くことにまで気が回らなくて……」と言う。
「……つまり、忘れたんだな。」「まあ、そうとも言いますが……」
「あり得ないだろ??!スカートなのに!パソシを!履き忘れるなんて!?どーすんだよ、今日??も、もしスカート捲りに遭遇したら!そこで!お前の!人生が!終了するぞ?!」と歩兎は幼馴染みの少女の肩を掴んで、ガタガタと揺らした。
ポ……と頬を赤らめた芽林は「……乱暴しないで…」と言う。
「そうだ、メリン!俺がさっき渡したやつ、あのシートをとりあえず貼っておくのはどうだ?」と少年は叫んだ。
「え……粘着側を直接?」と、タカアシガニさんWピース女子の芽林が言う。髪の長くなった幼馴染みの姿を見ながら歩兎が、「いや、待てよ。駄目か。さすがに後で剥がす時に抜けて痛そうだな……。」と言って、彼女の肩に置いた手を、そのままポンポン……と元気づけるように叩いた。
「そこのところは心配しないで。」と芽林が微笑み、「試しに付けてみるわ。むこう向いてて……」と言って、歩兎が後ろを向くとガサガサと布ずれの音が聞こえた。
「……大丈夫か……後で痛いぞ……」と背中を向けた歩兎が言う。
「いや、その点はご心配なく。」と芽林は言い、すぐに「あ……ダメだ……。肌相手だとすぐに剥がれちゃうみたい……」と言いながら床に落ちたシートを拾った。
「そうか、ダメか……」と歩兎が振り返って言う。「今日は体操着のズボンは持ってきてないのか?」「体育ないでしょ。持ってきてないわ。」
「そっか……。よし、今日は俺、1日メリンの側にいて護衛をするよ。ぴったりくっついていれば何とかなるだろ……」
「だ、だめよ!」と芽林が赤くなって、顔の前で手をブンブンと振る。首も振ることで、長めのカニさんWピースおさげが、でんでん太鼓のように左右に揺れた。「ずっとくっつかれてたら、私達が幼馴染みだってことがバレちゃうじゃない!」
「そっち???今日はもっとバレちゃいけないことがあるでしょ?!優先順位おかしくない??」と歩兎は叫び、「……教室に戻ったら出来るだけ椅子にずっと座っていろよ。」と言った。「あ、そうだ。……メリン?昨日は教室前の廊下にニスを塗ってるからな?気を付けないと足元が映り込むから……あんまり足を開くなよ。あと階段を昇る時も注意しろ。あ、あと急な悪戯な風にも注意だ!そう言えば今日の予報はどうなってたっけ……台風とか接近してなかったかな……?不用意に窓に近付くなよ??」
歩兎は幼馴染みの少女の周囲をぐるぐると回り、「お前、スカートの丈もう少し長くできないか?」と言った。
芽林は腰周りをに指を入れ、2cmほどスカートを下ろすと「でもアルト?スカート捲りの流行って、もうピークを過ぎたんじゃない?私の周りでも、もうあんまり聞かないよ。」と言う。
「ちょっと前にC組は、9人捲られて、だいたいクラスの10%を越えたってことで学級閉鎖してたな。うちは今、知ってるだけでも3人くらいか?まだまだ油断出来ないぞ。人ゴミには近寄らない方が無難だ。」と歩兎は言うと「ああ、そうだ!保健室に行けばマスクを貰えないかな?とりあえずマスクをしよう。それがいい!行くぞ!」と歩き出した。「ほら、今は誰も見てないから!」と言って、彼の手が芽林の腕をギュッ!と握る。
少女は「ん」と呟いて内股で後ろをついていった。
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「すみませ~ん……」と一年A組の男子小林 歩兎は、保健室の横開きの扉をガラガラ……と開いていった。
部屋の中央にある長いソファに座る女子が顔を上げる。
「何か用?今、先生はいないわよ。」
と、中学一年生にしてすでに保健の先生のような風格を漂わせた保健委員、小荒井 結花理がスカートの中で足を組み変えながら、最近かけた細縁の伊達眼鏡をクイッ!と上げた。
入ってきた少年の後ろから高幡 芽林が顔を出したのを見て、結花理はサッ…とソファから立ち上がる。
「あら、A組の高幡さん。どうしたの?」
「あの…」と歩兎が口を開きかけたところで、 結花理がスッ……と手刀を上げて「アナタには聞いてないわ。」と制した。
「あ、あの……マスクを借りにきました。」と芽林がおずおずと手を上げる。
「借りるの?じゃあ後で返してくれるの?」とにこやかに保健委員は言い、「冗談よ!」と言って笑った。「いいわよ!まだまだ一年生の間では流行ってるからね。つけていきなさい。」
ビニールに個包装された不織布マスクを受け取った芽林は、「ありがとうございます」と、同年齢の小荒井 結花理の大人の迫力に気圧されながら敬語を使った。
「おい、その大きさで大丈夫か?もっと大きいの貰った方が良くないか?」と歩兎が小さな声で言う。
「……あの、もう一回り大きいのありませんか?」とタカアシガニさんWピースの少女が言った。
「え?いいけど?そうね。まんいち鼻マスクになっちゃったら困るわよね?どうぞ、Lサイズよ。」
「ありがとうございます。では、私達はこれで………」
「ここでつけていかないの?」と保健委員が言った。
「あ、いえ、後でつけますので……」と芽林が頭を下げて後退していく。
「そ。じゃ気を付けてね」大人っぽいセミロングの保健委員は微笑むと、入ってきた時にしていたプリントを折る作業に戻っていった。
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「無事ゲット出来たな。」と歩兎が言う。
「じゃ、早速つけてくるね」と芽林は言い、すでに袋から出したマスクを開いて腰の辺りで伸ばし、耳ゴムの長さを確かめてから「……丁度良さそうね……」と言った。
御手洗いに入っていく幼馴染みを見送り、歩兎は待つこと数分、変に腰を引いた状態で歩いてくる少女を出迎えて、「どうだ?うまくつけられたか?」と聞いた。
「あ、うん……布の量が心許ないけど……まあ、大事な部分は隠せたかな。」
「まだ安心は出来ないぞ。スカート捲りをされる可能性がある。」
「……でもさ、アルト?」「なんだ?」「スカート捲りされた、って話は聞くけど、……そもそも誰がやってるんだろうね。やってる方の話はあんまり聞かないよね。」
「ん?ああ、言われてみればそう言えばそうだな。いったいどこのどいつが、こんな事を流行らせたんだ?俺の知ってる奴らでも、したって奴には会ったことないぞ?確かにこっちが気を付ける以前に、スカート捲りする側をどうにかした方が良くないか?」
「そうだよね。なんでこっちが気を付けなきゃいけないのよ!」プンプン、と芽林は上に向けたWグーパンチを胸の前で握ってみせる。
教室に戻った2人は、瞬時に離ればなれになり、芽林に至ってはツン!と鼻を天井に向けてこっちと目を合わせようともしない。
幼馴染みの少女が、無事着席したのを見届けると小林 歩兎は、早速クラスの女子達に聞き込み調査を開始した。
「ごめん、相原?ちょっといいか?」「なによ?」「この前、相原がスカート捲りされた件だけどさ……どんな奴だったんだ?」「はああああ??そ、それを聞いてどーすんのよ?!」
大声を出したクラスメイトの相原のん子を見て、チラチラと自分の席に座る芽林が、こちらの方を心配そうに見ている。
「いや、違うんだ。犯人の情報を知りたくてさ。どんなやつだった?差し支えなければ教えてよ。」と、ちょっと格好いいクラスの男子の小林が、やけに体を近くに寄せて聞いてくる。
遠くから半分腰を浮かせた芽林が、激しくこっちをチラッチラッチラッ!!と伺っているのを見て、歩兎は首を振り、(座ってろ!見えるぞ!)と手のひらでジェスチャーを送った。
「そう。……捜査に役立つって言うなら教えるけど……。あなた美化委員でしょ?美化委員って何でもするのね?社会のゴミまで清掃するの?」「…まあ、そんな感じだ。」
「じゃあ、教えるけど」と髪をポニーテールにした相原のん子が言う。「……私がスカート捲りされた時、どんなやつだったかと言うと……」(ゴクリ……)
「ミントグリーンに黒のラインが入っていて、お腹らへんに英語で「beautiful day♪」と書いてあるやつだったわ。」
「……ほう。」と歩兎はメモ帳にその情報を書き入れた。
……ミントグリーンの服か……。これは貴重な情報だ。犯人がぐっと特定しやすくなるぞ。
「他に特徴はあったかい?」「……特徴って言ってもねぇ……あ、赤城さん!丁度いいところに!美化委員の小林がスカート捲りの調査してるみたいなの!赤城さんも協力してあげて!」
黒髪ロングの、四角い眼鏡をかけた生真面目そうな女子が「そうなのか?」と胸の前に抱えたノートの束をこちらに向けながら歩み寄ってきた。
「木曜日に赤城さんがスカート捲りされた時、どんなやつだったか小林に教えてあげて。」
赤城さんは眼鏡の位置を直し、「なるほど。」と呟くと、「…水色にピンクのストライプが入ったものだ。」と言った。
「……ストライプというと縦じまか?」と歩兎が尋ねる。「いや、こういうのは普通横じまだろう?」
のん子が「ウソ!可愛い~、なんか意外~」と言って、赤城さんの背中を軽く叩いた。
「……やめてくれないか。」と彼女は言い、「小林?何かの役に立ったか?」と微かに頬を染めながらプイ!と横を向く。
「ありがとう。……なんか随分とお洒落な奴だな。て言うか制服着てないのか?部外者か?教室にいたらすぐ分かるんじゃないか?」と歩兎が、即席でメモ帳に描いた絵を見ながら言う。
「あ、七海さん!確か七海さんもスカート捲りに会ったよね??聞いていい??」と美化委員の少年が、軽く癖っ毛の髪を無造作におでこの上で縛った少女に声をかけた。
2人の被害者も一緒についてきて、「どんなやつだった?」と聞いてくる。
「え?なに、なに??なんで?なんでそれを言わなきゃならないの?」と七海さんは驚いた顔をして、男子1人、女子2人のことを代わる代わる見つめた。
「犯人を捕まえる為に情報が必要なんだって!!」
「そ、そうなの……?じゃ、教えるからにはちゃんと捕まえてよね……?……私の場合は白よ。で、真ん中にイチゴの絵が描かれていて、小さなリボンがついていた。」「え?白!?現実で初めて聞いた!」と、のん子が叫ぶ。
「リボンって……小学生じゃないんだから……」と赤城さんが冷静な口調で言う。
「確かに謎が深まるな……。リボンを付けているとなると、捜査範囲を女子にまで広げ……」
「小林!!??」
と、上ずった大きな声が教室の空気を切り裂き、3人の女子と1人の男子が振り向いた。
……そこにはスカートの中で肩幅に足を開き、制服のジャケットの肩をいからせたタカアシガニさんWピース少女、高幡 芽林が顔を真っ赤にして怒って立っていた。
「アナタ達、なに?!さ、さっきから黙って聞いていれば!!小林に変なこと吹き込まないでよ!!そして小林!アナタが今女子達に聞いていたような情報、ホントに必要???て言うかアナタが犯人なんじゃないの??!」
フサッ………と彼女の足元に、耳ゴムの切れた白いマスクが落ちてきて、
立体ギャザーの形を残したまま床に立ち上がって傾いた。
皆の視線がそれに注がれると、歩兎が慌てて彼女に駆け寄り「た、高幡さん??マスク落としたよ!」と言って素早くそれを拾う。
クラスメイト達は、マスクの落ちてきた先に一瞬の疑念を抱いたが、のん子が「それにしても、この流行早く終わってほしいよねー」と言うのを聞いて、七海さんが「そうだよね~、いつ捲られるか分からないから、いっつも可愛いのを履いとかなきゃいけないし、清潔に保つのも大変だよねー」と言ったことで、なんとなく状況がうやむやになっていった。
「ですよね。」と真面目な顔をして赤城さんも同意する。「高幡さんも気を付けた方が良いですよ。いつなんどきスカート捲りをされるか分からないですから。」
「その通り!」と歩兎が手にマスクをぶら下げながら怒鳴り、「高幡さん?……ちょっとお話が……美化委員の件で……」と急に小さな声になり、芽林に教室の外に出るよう促した。
――――――――――――――――
「アルト??!さっきの会話はいったいなんなの???可愛い女子3人に囲まれて、あ、あれは俗に言うハーレムとか言うやつですか??幼馴染みは負け確定とでも言うんですか??うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……」と、周りの目も気にせず芽林は大泣きをする。
「おい、め、めりんちゃん??みんな聞いてますよ?ほら、冷静になって……」と歩兎は言い、あたふたとマスクを差し出したり、引っ込めたりを繰り返した。
急に泣き止んだ芽林は、いきなり彼の胸ぐらを掴み「他の女の子は可愛いパソシを履いてて、そりゃ~アルトもご満足でしょうよ!!どーーーっせ私は……」と唾を飛ばしながら言い、「待って待って!それ以上は言っちゃダメだ!」と歩兎が叫んだ。
彼はそのまま嫌がる幼馴染みを引っ張って、廊下の端まで連れていき、「落ち着け!」と怒鳴って肩を押さえ付ける。ムキ~~!と手をぶんぶんと振り回す芽林を、歩兎は消火器が置かれた角の壁の窪みに押し込んで、体をあちこち叩かれながら「めりんちゃん!お、落ち着いて!!」ともう一度言った。
……ポカポカポカ!!
「い、痛いよめりんちゃん!冷静になって!
」「ざけんな浮気男!」幼馴染みの攻撃はやまず、歩兎は壁に叩きつけられながらパンチやキックを受け止めていた。……こうなるとめりんはもう手がつけられない……かくなるうえは……と、彼は空気を引き裂く爪をよけながら身を屈め、
目を閉じて「ごめん!!」と叫ぶと、芽林に顔をひっかかれながらサッ!と両腕を下にさげると、ガシッと彼女のスカートの裾を掴み、一気にガバッ!とそれを上に捲り上げた。
沈黙。……歩兎は…恐る恐る薄目を開ける。
…………見ーえた、見えた。北条政子ちゃんのつるおかはちまんぐう♪……縦に伸びるよ段葛……。いい箱作ろうカマクラバクフ……
芽林は一気にしゅん……と大人しくなり、歩兎は、見てはいけない幼馴染みの幼いしじみを見て、「ごめん…」 ともう一度言ってスカートを戻した。
「アルト……」「な、なあに?」
「責任とってね♡」「はい……」と少年は肩を落として答える。
そんな2人を少し離れて見ていた3人の少女達、のん子、赤城さん、七海さんは、それぞれが心の中で………あれってアリなんだ………。と思い、……でもなんか……すんごく羨ましい……。と、いい感じの2人のことを眩しく見つめていた。
少女達は、まだ履いている流行遅れの自分達をダサく感じてきて、居心地が悪そうに腰をもぞもぞと動かした。
そして今見た『儚い系コーデ』に俄然興味が湧いてきて、ね無駄毛処理も完璧にして恋人をゲットした高幡さんを、新しいファッションリーダーと捉え始めていた。
この儚い系コーデの流行により、付随的に始まった空前のスカート捲りブームのリバイバルは、一度下火になっていた流行りを復活させ、
お洒落に敏感な女子達の間で派生した『お転婆絆創膏コーデ』を併用しながら、やがてあすなろ中学を席巻していくのだった。
せっけんと言えば、インフルエンザ対策には石鹸での手洗いとうがいが一番ですね。そしてマスク。あと人混みを避けるのと、こまめな換気ですかね。
しかし、寒い冬でも生足でスカートを履くJCのお洒落欲と、それに反する男子のいやらしい目線はいつまでも平行線を辿ることとなり、
『…ざけんな!好きな男子以外からのスカート捲りは誰も望んでないっつーの!』と彼らを見下す女子達は、
今日も女子目線のみで、100円ショップで買った可愛いキャラものの絆創膏を貼って、スカートの後ろを手の甲で押さえながら階段を昇るのだった。
面白いと感じましたら、連載作品の方にも移動をお願いします。向こうの読者が一向に増えないのでカレイドスコープワールドの入り口となる短編を万人に向けて書いております。
恐れずに評価もよろぴく!反応がないと魅力的なキャラクター達がどんどんお蔵入りになりますよ~




