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勝利演説          :約2000文字 :社会

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/02/18

 夜、とある街の駅前。舗道にはまだ昼間の熱がこびりつき、雑踏の吐息が空気を湿らせていた。そしてその一角は、ひときわ熱を帯びていた。黒い塊のように蠢く人だかり。皆一様に期待と高揚を顔に貼りつけ、その視線は壇上――マイクを握りしめて立つ一人の男へと吸い寄せられていたのである。


「このたび、我々繁泰党は今回の選挙で多数の議席を勝ち取り、見事大躍進を遂げました! これもひとえに、支援者の皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!」


 仏田代表は腹の底から声を張り上げ、深々と頭を下げた。

 観衆から「こちらこそありがとー!」「おめでとうー!」と一斉に声が弾けた。


「我々繁泰党は、選挙に勝ったからといって、ここで立ち止まるつもりはまったくありません! 今回掲げた公約の実行に向けて、これからも全力で戦っていきます!」


 仏田代表は拳を力強く突き上げた。その一挙手一投足に反応するように、観衆の熱はさらに膨れ上がり、空気が震える。


「まず第一に、小麦粉の廃止です。そもそも、メリケン粉――つまり小麦粉はアメリカから来た粉ですから、戦前のこの国には存在していませんでした……。メリケン粉を食べるようになってから、この国では癌が増えて続けているわけです! 考えてもみてください。小腸癌や大腸癌を患った人は例外なく、小麦を大量に摂取しているではありませんか! メロンパンを食べた翌日に、いったい何人の人間が死んでいると思いますか!」


「そうだー!」「廃止! 廃止!」「その通り!」「小麦やめろー!」


「ありがとうございます。続いて、新型ウイルスに対するワクチン接種の廃止。これはもう、説明不要でしょう。ワクチンは殺人兵器です。接種した高齢者のほとんどが十年以内に死亡しているんです! しかも! 注射の際にマイクロチップが体内に仕込まれている! 国民は監視されているんです! ワクチンに不純物が混入していたという報道は、皆さんもご存じでしょう! これは政府の陰謀なのです!」


「ワクチンは危険だ!」「ウイルスは作られたもの!」「ワクチン廃止!」


「さらに、外国人の排除。この国を愛さない人たちには、全員出て行ってもらいます。そして、核兵器への抑止力として国全土を覆うバリアを展開します! ……これをね、陰謀論だとレッテルを貼り、恐れている人たちがいます。攻撃してくる人たちがいます。しかし! そういう人たちがこの国を弱くしたから、この国に生きる人間が誇りを持てなくなったんじゃないんですか! ふざけるなよ! それを変えたくて私はこの政党を作ったんです! 私をボロクソに否定する人たち。発言の一部だけを切り取って流す人たち。そんな連中に負けるわけにはいかないんです! 繁泰党ファースト! 我々ができる形で、この国を守っていきましょうよ!」


「がんばれー!」「仏田さーん!」「かっこいいー!」「ありがとう!」


 嵐のような声援を浴び、仏田代表は感無量といった表情で目を閉じた。胸いっぱいに息を吸い込む。その目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。


「仏田さーん!」「繁泰党!」「繁泰党!」「負けるなー!」


「皆さん、ありがとう……本当にありがとう……! えー、私が『せーの』と言いますので、よかったら『い』『ろ』『繁泰党』とご唱和ください。この国をね、もっと盛り上げていきましょう! では行きます! せーの! い!」


「い!」「い!」「い!」「い!」


「ろ!」


「ろ!」「ろ!」「ろ!」「ろ!」


「繁泰党!」


「繁泰党!」「繁泰党!」「繁泰党!」「繁泰党!」


「ありがとうございました! 皆さん、ありがとう! ……私は宇宙人です!」


 盛大な拍手の渦の中、仏田代表は耳の後ろに手を添えた。

 次の瞬間、その薄ら笑いを浮かべた顔がぐにゃりと歪んで伸び上がった。そして、それはべりりと剥がされ、頭上へと掲げられた。そのマスクの下から現れたのは鱗状の皮膚だった。街灯の光を受けて、ぬらりと艶やかに煌めている。


「私はこの国と母星をつなぐ架け橋です! この星は、この星を愛するすべての存在のものです! まずはこの国から、そして世界へ友愛の輪を広げ――」


 ――しまった。


 一瞬にして静まり返った観衆を前に、仏田代表は凍りついた。

 やってしまった。気持ちよくなりすぎて、つい正体を明かしてしまったのだ。マスクなど脱ぎ捨て、あの熱気に身を浸したいという欲望に溺れた。

 いくらなんでも、これは誤魔化せない。すべてが終わった。これまで積み上げてきた成果も、侵略計画も。そして、任務に励むふりをしながら母星から活動資金を引き出し、悠々自適に暮らすという目論見もすべて吹き飛んだ。

 まんまと乗せられた。ここまでか――。


「繁泰党ーっ!」

「ばんざーい!」

「正直に言ってくれてえらい!」

「ありがとー!」

「アンチに負けるな!」


 だが次の瞬間、観衆は再び大歓声を上げた。

 熱気と喝采が渦巻く中、仏田代表は眉間に深い皺を刻み、ぽつりと呟いた。


「こいつら、やっぱ宇宙人だな……」

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