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『幼馴染が俺に渡す装備に【安物】って書いてあるんだが、実は聖剣だった件~ヤンデレ幼馴染の愛が重すぎる~』

「……ふぅ、やっと終わったわ」


カナは荒い息を吐きながら、誰もいない路地裏で膝をついた。

手の中にあるのは、昨夜、大陸全土を揺るがす地鳴りとともに目覚めた聖剣『エクス・レプリカ』。

神代の英知が結晶化したその白銀の輝きは、あまりに眩く、あまりに「高価」すぎた。


「こんなの見せたら、あいつ……また自分を卑下してどっか行っちゃうじゃない」


カナはボロボロの指先を震わせながら、懐から一本のペンを取り出した。

それは、いかなる高位解呪魔法でも消すことができない、因果律に刻み込む魔筆――『消えないミラクルマジックペン』。

彼女はためらうことなく、世界に一振りしかない神具の腹に、デカデカと文字を書き殴った。


【 安 物 】


それだけでは足りない。

カナは顔を耳まで真っ赤に染め、呼吸を荒くしながら、その「安物」という文字の端に、アリの歩いた跡のような、極小の文字を刻み込む。


(……カナチャン大好き……)


「…………っ!!」


書いた瞬間にあまりの恥ずかしさで発狂しそうになったが、これは保険だ。

万が一、本当に万が一、あいつがこれの正体に気づいたとき。

この呪文……もといメッセージを見れば、あいつは二度と私から逃げられなくなる。


「よし……。あとは、これね」


カナは瞳の奥に深い魔力を宿すと、自らの精神を削るほどの高純度な『幻魔法』を起動した。

神々しい白銀の輝きが歪み、くすみ、どこにでもある、刃こぼれした「なまくらな鉄の剣」へと姿を変えていく。

誰がどう見ても、武器屋の隅で10ゴルドで売れ残っているゴミ。

だがその内側には、一振りで概念を断つ神の力が凝縮されている。


「……完璧。……さあ、受け取りなさいコウタ。……あんたには、そのゴミがお似合いよ」


返り血を拭い、ボロボロの装備を魔法で整え、カナはいつもの「尊大な幼馴染」の仮面を被る。

手にした偽物の鉄の剣が、まるでコウタとの繋がりのように、熱く彼女の掌を焼いていた。



鉄塵の狂騒


「……ぷっ、ははは! おい見ろよ、あいつの剣!」


活気溢れる冒険者ギルド。

その中心で、最前線帰りのエリート冒険者が腹を抱えて笑っていた。

視線の先にいるのは、背中に一本の「なまくら」を背負ったコウタだ。


「おいおい、そんな刃こぼれした鉄屑で何をする気だ? ……ん? 待てよ、刀身に何か書いてあるぞ……『安物』……? ぎゃははは! ご丁寧にラベル付きかよ!」


ギルド中に嘲笑の渦が広がる。

コウタは困ったように頬を掻き、背中の「ゴミ」をそっと撫でた。


「……カナがくれたんだ。掃除してたら出てきた粗大ゴミだって。でも、俺にはこれで十分だよ」


その様子を、少し離れた席からカナが眺めていた。

腕を組み、不機嫌そうに足を組み替えているが、その瞳は血走っている。

(……笑えばいいわ。そのゴミ一振りで、あんたたちの家系図ごと消し飛ばせるんだから……!)

内心で毒づきながら、彼女は必死に幻魔法の維持に集中していた。

少しでも気を抜けば、神代の光がギルドを焼き尽くしてしまう。


その時だった。

ギルドの防衛結界が、凄まじい衝撃音とともに粉砕された。


「――緊急事態だ! 街のすぐ外に、深淵階層の『絶望の巨神』が出現した!」




鉄塵の断罪と血戦の幕開け


「――カナ様! どうか、どうかあの大巨人を止めてください!!」


冒険者ギルドの面々が、悲鳴のような声を上げてカナに縋り付いていた。

街の防衛結界を粉砕し、悠然と迫りくる深淵階層の『絶望の巨神』。

エリートを自称していた男たちは皆、腰を抜かして震えている。


「……ふん、あんなの、私一人で十分よ。あんたたちはそこで指でもくわえて見てなさい!」


カナは尊大に言い放ち、一人で街の外へと歩き出した。

だが、その背中は冷や汗でびっしょりだった。

(……冗談じゃないわよ。あんなの、昨日無理して聖剣を取りに行った時の傷が治ってない今の私じゃ、相打ちが関の山だわ……!)


「カナっ!」


コウタは衝動的にカナの腕を掴んだ。

彼女の疲弊しきった顔色を見れば、今のカナがどれだけ無理をしているか、コウタにも痛いほどわかる。


「……なんで、こんな時に無駄口叩いてるのよっ! さっさと逃げなさい、この無能!」


カナは振り払うように叫ぶが、その声は微かに震えている。


「でも、カナは怪我してるだろ!? ……俺だって、少しは力になれるはずだ!」


コウタの背中に背負われた「安物」――刃こぼれし、刀身に【安 物】とマジックペンで書かれたその剣は、どう見ても戦力外だ。

カナはコウタを庇うように一歩前に出る。


「バカ言わないで! あんたがやったら、ただの足手まといよ! いいから、そこを動かないで見てなさい!」


カナはそう言い残し、単身、巨神へと向かっていった。

(……私は大丈夫。コウタ、あんただけは絶対に死なせないから……!)

残りの魔力を振り絞って大魔法を展開するカナだが、巨神の拳がそれを上回る速度で振り下ろされる。


「――ぐっ!?」


直撃。カナの体が吹き飛ばされ、荒野に叩きつけられる。

(……ダメ……このままじゃ……!)


「カナっ!!」


コウタの脳裏に、幼い頃からずっと隣にいたカナの笑顔がフラッシュバックする。

いつも強がって、けれど、誰よりも優しいカナの背中。

守りたい。

その一心で、コウタは砕けた地面を蹴り、巨神の懐に飛び込んだ。

背中の「安物」を抜き放つ。


「……っ、うおおおおおおおおおおっ!!」


巨神の返り拳がコウタの腹部に直撃した。

鈍い音とともに、コウタの体は宙を舞う。

血反吐を吐きながらも、コウタは地面に叩きつけられる寸前、カナがくれた「安物」を両手で強く握りしめた。


(……折れるなっ! カナがくれた、大切な剣なんだっ!!)


その時、コウタの掌の中で、「安物」が熱く脈動した。

表面の【安 物】という文字が、まるで溶けるように輝き、刀身の幻魔法が弾け飛ぶ。

神々しい白銀の光が荒野を照らし、刃こぼれしていたはずの刀身は、完璧な姿を取り戻していた。

それは、本来の聖剣『エクス・レプリカ』の真の輝き。


そして、剣の根本に小さく書かれた、もう一つの文字が浮かび上がる。


(……カナチャン……大好き……)


「……っ!!」


コウタは目を見開いた。

この剣は、まさか――。


「……邪魔するな、化け物っ!!」


コウタは全身の力を振り絞り、巨神に向かって聖剣を横薙ぎに一閃した。

放たれた一撃は、光速の刃となって巨神の核を正確に貫き、残存する悪意の概念ごと消滅させる。

深淵の巨神は、断末魔すら上げることなく、静かに光の粒子となって霧散した。


地面に倒れ伏すコウタ。

彼の握りしめた聖剣は、再び【安 物】の姿に戻っていた。

その顔は蒼白だが、心なしか、満足そうに微笑んでいる。


「……コウタ、あんた……今、何したの……!?」


カナは這いずりながらコウタのもとへ駆け寄り、彼の無事を確認すると、その胸に顔を埋めて震えだした。

(……このバカ……! こんなにボロボロになって……でも、無事で……!)


コウタは弱々しい手でカナの頭を撫でた。


「……カナがくれた剣が、俺を助けてくれたんだ。……ありがとう、カナ」


「………………っ」


カナはコウタの言葉に、嬉しさと、そしてバレてしまったかもしれないという焦りで、顔を真っ赤にしていた。

(……勘違い……よね? まさか、あの文字も読んだとか……!)

彼女は必死で幻魔法をかけ直し、コウタが意識を失う寸前、囁くように言った。


「……バカっ! ……そんなの、ただの偶然なんだから……! ……もう二度と、私を置いていかないでよね……」




 隠蔽と誤解の凱旋


「――見たか!? あのカナ様の放った究極魔法を!!」


街の外に駆けつけた冒険者たちが、消失した巨神の痕跡を見てどよめきを上げた。

砂塵が舞う中、膝をつくコウタと、その隣で顔を真っ赤にしているカナの姿が、劇的な「救世の瞬間」として彼らの目に映る。


「凄まじい閃光だった! 巨神を一撃で蒸発させるなんて、さすがはカナ様だ!」


「それに見てくれ、あの無能なコウタを! カナ様の魔法の余波で吹き飛ばされてボロボロじゃないか。あんなゴミみたいな剣で立ち向かおうとするからだ、身の程知らずめ!」


周囲の称賛と嘲笑が入り混じる中、コウタは荒い息を吐きながら、手元の剣を見つめていた。

表面には再び、マヌケな【 安 物 】という文字と、ボロい鉄の質感が戻っている。

けれど、握った手のひらには、まだあの温かい鼓動が残っていた。


「……、…………っ! そうよ、あんたたち、今の見た!? 私の……私の超絶ミラクル究極魔法の凄さを思い知ったかしらっ!!」


カナは震える足で立ち上がり、腰に手を当てて高笑いした。

内心では、心臓が爆発しそうなほどの焦燥に駆られている。

(……危なかった……! コウタに全部バレるどころか、この剣が聖剣だってことまで世間に知られるところだったわ……!)


カナは周囲の目を盗み、コウタからひったくるように「安物」を回収した。

そして、これでもかと幻魔法を幾重にも上書きする。


「……コウタ、あんたは大人しく私の後ろに隠れてなさいって言ったでしょ! あんたの持ってたそのゴミが、私の魔法に反応して暴発しただけなんだから! ……二度と、勝手なことしないでよね」


カナは突き放すような言葉を投げかけながらも、コウタの血の滲んだ腕を、誰にも見えない角度でそっと自分のマントに隠した。


「……ごめん、カナ。……でも、助かったよ。やっぱりカナは、世界一の魔法使いだね」


コウタの純粋な笑顔に、カナの胸がズキリと痛む。

手柄を横取りしたことへの罪悪感ではない。

自分の「重すぎる愛」が、彼を傷つけ、そして彼自身の真の功績さえも闇に葬り去っていることへの、狂おしいほどの矛盾。


「ふん。当たり前よ。……さっさと帰るわよ、この『ゴミ』のせいで手が汚れちゃったじゃない」


カナは「安物」を抱きしめるようにして歩き出す。

その剣の根元、自分にしか見えない極小の文字――「カナチャン大好き」という呪縛を指先でなぞりながら。

周囲がカナを称賛すればするほど、コウタへの「ゴミ」扱いは強まり、皮肉にもカナの隠蔽工作は完璧なものとなっていく……。



 

「……そうよ。コウタがどれだけ凄いかなんて、私一人だけが分かってればいいの」


街への帰り道、称賛の声を浴びながら一歩後ろを歩くコウタを振り返り、カナは心の中で独りごちた。

世界中が彼を「無能」と蔑み、笑えばいい。

そうすれば、この輝きを放つ原石を、私だけの箱に閉じ込めておける。


「……カナ? どうかした?」


「な、なんでもないわよ! ほら、さっさと歩きなさい! 怪我人のくせにノロノロして……」


カナは荒々しくコウタの手を引くが、その力加減は壊れ物を扱うように繊細だ。

彼の手にある「安物」の剣。

その真実の力を知る者は、この世界で自分ただ一人。

彼が流した血の価値も、土壇場で見せたあの気高さも、すべて私の記憶の中にだけ刻みつけておく。


(……あんたを英雄になんてさせないわ。……だって、みんなにあんたの凄さがバレたら、……私の手の届かないところへ行っちゃうじゃない)


カナは「安物」を握る手に力を込めた。

たとえ彼が偽りの汚名を着せられようとも、その裏で、自分だけが彼に最高の装備を貢ぎ、最高の守護を与え続ける。

それがカナにとっての、歪で、けれど唯一無二の愛の形だった。


「……いい? これからも、あんたは私の後ろで大人しくしてなさい。……余計なことは、全部私がやってあげるんだから」


「……うん。カナがいてくれるなら、俺はそれでいいよ」


コウタの無防備な信頼に、カナの胸が甘く、そして重苦しく疼く。

彼を「ゴミ」と呼ぶたびに、自分の魂が彼に深く依存していくのを、カナは心地よく感じていた。


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