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灰色の王に捧ぐ

掲載日:2025/09/26

――我が名は灰色の王。おまえの願いを叶えよう。代償は……心だ。

空は灰色だった。街の底まで、光は届かない。

レオンは砕けたパンを拾い、泥水をすすってパンを口に放り込む。

腹の虫が鳴る。

妹のリリィに食べさせる分は、まだ確保している。


俺達は孤児院だ。

妹は今年で十歳か…。俺は妹より六つも上だから、俺が支えてやらないと。リリィがこうなったのも俺のせいなんだから。


孤児院で育った俺達は二人で支え合って生きてきた。

孤児院も…悪くはなかったが

育った孤児院も口減らし…おれが十五を過ぎたからだ。

だからって妹のリリィまで一緒に追い出す事なかったんだ。

「出ていけ!」

と言った、冷たい神父の顔が頭から離れない。

人生ってどこまでも残酷だ。


今日も生き延びた――だが運は、もう微笑まない。


広場で泣き叫ぶ声がした瞬間、レオンはすべてを悟った。


リリィが、貴族の馬車に轢かれたのだ。助けようとした者はいたが、誰も声を上げない。逆らえば命はない。


夜、雨に濡れた石畳に座り、レオンは無惨な姿で、冷たくなった妹を抱き締めた。


「……もう嫌だ。まともに生きたかっただけなのに」


井戸の底から、低い囁きが響いた。

――願え。


振り向くと、そこに“それ”があった。

人とも獣ともつかぬ影。灰色に光る瞳だけが、冷たく輝く。


――我が名は灰色の王。おまえの願いを叶えよう。代償は……心だ。

「心……?」

――痛みも、哀しみも、何も要らない。俺にはもう何もない。


レオンは乾いた笑いを漏らす。

「……くれてやるよ。こんな心」


影に飲み込まれた瞬間、世界がひっくり返った。痛みと恐怖、そして膨大な知識の奔流が脳裏に押し寄せる。


「あああああああ!!!」


賢者が毒を調合する手元。処刑された魔女の最後の呪文。戦場で絶叫する兵士たちの戦闘経験。

数え切れない他人の記憶が、一瞬で刻まれた。


俺は意識を失った。

目覚めた時、清々しい気分に俺は高揚した。

「なんでだっけ…」


記憶を辿った。


「なるほど……これで知識を得たのか」

理性では理解できないが、身体が勝手に動く。刃の握り方、毒の配合、策の立て方……すべてを知っている。


目を開けると、灰色の瞳が光る。もう、少年ではない。

――次は、貴族だ。妹の命を軽んじた罪…


復讐の夜、屋敷は血に染まった。貴族たちは争いの渦に飲まれ、絶望の中で倒れる。

レオンの胸に湧くのは、ただ冷たい計算だけ。

だけどすごく…馴染んでいる。


屋敷の晩餐室は燭台の明かりで揺れていた。絨毯、銀の皿、そして誇らしげな笑い声。


レオンが投げた最初の種は、一通の差出人不明の手紙だった。夜陰に紛れ、枕元に押し込まれたそれは、ある男の“裏の交渉”を暴露する内容だった。

 翌朝、男は顔を紅潮させているのを見られ、他の貴族の嘲笑と冷ややかな視線が集まる。噂は油を注ぎ、疑念が広がる。


 二つめの種は、静かに注がれた杯――音もなく、匂いもない液体が一つの喉を締め上げる。男は言葉を詰まらせ、目を見開いたまま椅子に沈んだ。誰もその杯の中身に気づかない。だが恐怖は拡がった。

 感情の起伏に耐えられなくなったある一族は、公開で決闘を要求する。古くからの恥が掻き立てられ、堂々とした刃の交わりが始まる。血が飛び、辛うじて面目を保とうとする者たちが互いに首を絞め合う。

 最終的に残ったのは、虚ろな瞳と裂けた誇りだけだった。外から見れば「一族の自壊」。

だが裏では、すべてが巧みに仕組まれた歯車のせいだと、静かに笑う者がいる——灰色の瞳を持つ少年だ。


「はっはっはっはっは!なんと愚かな。

妹の復讐だったが、もう全てはどうでもいい。

こいつらウジ虫野郎共が思惑通りに動いているのを見てる方が楽しい!」


闇に染まった背中は、王都へ向かう影となった。

心の奥底で、わずかに「普通に生きたい」という声だけが、彼の魂に残っている。


灰色の王の囁きが、夜に消えない。

――よくやった。次は、王都を喰らえ。


少年は立ち上がる。灰色の瞳が闇の王都へ向けられ、世界はまだ、彼の野望の前に震えていた。




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