09:黒竜対策
間に合った、と姉は言うのだが。
「俺がいなかったら間に合ってないじゃないか」
「結果がよければいいのよ」
これ以上何か文句を言えば殺す、そんな笑顔で微笑まれた。
ひやりと冷たいものが背中をつたう。
わかってはいる。俺は兄や姉には勝てないと。
「でもどうしたものかしら。カッツェがルッツと一緒にいたがるなんて・・・また他の黒竜がくるだろうし・・・」
心底困ったように姉が言う。
こちらとしても行く先々で黒竜に襲われるのは勘弁してほしい。
だが、うるうるとこちらを見つめるヴァイスを姉につき返すのも気が引ける。
決して俺が甘いからそう思うのではなく、あの兄と姉と一緒にいるのが気の毒すぎるのだ。
長年一緒に生活してきたからこそ言える。あれはキツイ。
「何だ?黒竜に見つかるのがまずいのか?」
「そりゃ・・・俺は守りながら戦うのは苦手だし、街中なんかで出くわしたら街にも被害がでるだろうし」
「それなら常にその竜に結界を張り続けていけばいいだけじゃないか」
「それ普通は無理だから」
さらっと人外なことをしろと言われた。
結界を維持して移動するのはかなりの高等技術で、そんなことをさらっとできる人間は数えるほどしかいないだろう。ちなみに俺は結界は張れるが苦手な部類だ。
そもそも常に結界を張り続けるということがキツイ。
「しょうがない、コレを使うか」
兄が取り出したのは白濁色の小さな石のついたペンダント。
「あら?それって結界石じゃない?」
「あぁ。先日野盗に襲われたから反撃ついでにアジトまで壊滅させたんだが、その時に野盗のアジトで見つけたんだ」
兄を襲うとはなんて気の毒な野盗。
ついでで壊滅させられたとは思ってもいないことだろう。自業自得なのでどうでもいいが。
そして笑顔で野盗を壊滅させている兄が脳裏に浮かぶ。
「えっと、結界石って何?」
「あぁレティは知らないのか。結界石ってのはその名前の通り結界を張る時に使う石で、結界を維持するために使う物だよ。ちなみにかなりの高級品」
「高級品ってどれぐらい?」
今まで静かに話を聞いていたレティがひょっこりと後ろから覗き込んでいた。
結界石なんてそうそう目にするものじゃないし、あまり知られていないのだろう。
「そうねぇ、これなら王都に豪邸が建つ程度かしら」
「うえっ、本当ですか!?すごーい・・・」
そのまま姉とレティは装飾品がどうとか服がどうとか、女性の好きそうな話題で盛り上がっていた。
とりあえずそういう話には関わらないほうが得策なので放置する。
「コレにこうして・・・」
兄が呪文を唱えるとぱぁと光の輪が2つ兄の周りに現れる。
呪文の種類にもよるし、他の人間でも同じようになるが兄はそれがやたら様になっている。
「うん、完成だよ」
光はすっかり収まっていて、結界石はほんのり青みがかった色に変化していた。
それを兄がヴァイスの首にかけてやると、ふっとヴァイスの気配が変わる。
それはまるで普通の子供のような気配。
「これは?」
「白竜の気配だけを隠すようにアレンジした結界。これならこの結界石でも十分だ」
「アレンジって・・・」
「簡単なものだからね」
ウインクをしながら答える兄。
弟に色目を使ってどうするとツッコミたいところだが、呪文アレンジの難しさはわかるのであえてスルーしておく。
決して兄の報復が怖いわけではない。・・・多分。