08:偶然と必然
「で、兄さん姉さん。どうしてここに?」
いつまでも続く談笑を遮って疑問を問う。
「あー。念の為に言っておくが、別に一緒にお前を探していたわけじゃないぞ、ルッツ」
「ええ。私は別の子を探していてここに来たんだもの。でも途中でルッツに会えるなんてさすが愛よね」
さも一緒に俺を探していたと思われるのは心外だと否定する兄。
否定しながらも家族愛を主張する姉。
兄はともかく姉がここにきたのは偶然ということらしい。
「じゃあ兄さんは俺に何か用があった?」
「あぁ。母さんから伝言を預かっている」
俺達の母親は仕事で王宮勤めをしていて普段は家にいない。
あの二人(一応俺もだが)の母親だけあって少々特殊だ。
きっとろくな用件じゃないだろう。
「至急母さんの所へ来いってさ。わざわざ水鏡を使って連絡してきたからかなり早急な用事みたいだよ」
水鏡とは主に王宮や神殿などに設置してあるお互いの姿を映し、会話することができる通信用の魔道具で我が家にも何故かあった。
勇者の家だからだとからしい。
しかし緊急時以外は手紙を使うほうが多い。理由は単に魔力コストが掛かる為だ。
今回はかなり急を要するということに間違いないらしい。
「・・・依頼が終わったら行くよ。で、姉さんは誰を探してたんだ?」
「カッツェよ」
「カッツェ?」
聞き覚えのある名前。
・・・確か姉さんが捕縛してきた白竜の子供だ。
「家の裏で遊んでいたら姿が見えなくなっちゃったのよね」
家の裏。つまりはあの強力な魔物が住む山のことだ。
俺も魔物に何度か襲われ食われかけたものだが・・・
「あの魔物だらけの山で遊ばせたって・・・それって食われ・・・」
「違うわ。ちゃんと見つけたもの。ほら、そこにいるじゃない」
姉の指差す先にいるのはヴァイス。
「さぁカッツェ、家に帰りましょう」
姉が手を差し伸べるとヴァイスはさっと俺の後ろに隠れる。
「やっ、にーちゃと一緒にいる!」
確かに強力な力を持つ竜は人の姿をとることができるようになるらしいが、そんな竜に遭遇する機会など皆無に等しいので世間ではただの伝説の類だと思われている。
しかしこのヴァイスは白竜の子供のカッツェだという。
言われてみればカッツェの気配、のような気がする。・・・言われるまで気づかなかったけど。
「んー・・・どうすれば?」
後ろに隠れるヴァイスの頭をなでつつ姉に向き直る。
「カッツェのことをカッツェのお母さんから頼まれてるのよね・・・」
「それ寝言じゃなかったのか・・・」
「ルッツ酷い!信じてくれてなかったのね!」
大げさによよよと姉が泣きまねをする。
寝言だと思っていたが本当だったのか・・・?
存在自体が伝説級の白竜に子供を託されるとか、これが勇者補正か。
「黒竜たちに狙われているからだったんだけど・・・間に合ってよかったわぁ」
元凶は姉。
・・・本来こんなところにいるはずのない黒竜に、偶然運悪く出くわして襲われたのかと思ってちょっと凹んだのだが、やっぱりそんなすさまじく運の悪いことなんてあるわけがなく必然だった。
やはり兄や姉が関わるとろくな事にならない。