07:最凶の兄と姉
「ルッツの姉のティアナ=ツェルニーです」
にっこりと微笑んでレティの手をとる姉。
みるみる真っ赤になるレティ。
同性であっても姉のあの笑顔はかなりの効力がある。本人もわかっていてやっているのだからタチが悪い。
「あたしはっレティシア=ルグランですっ!今回ルッツの依頼にゅしやってまひゅ!」
・・・かみまくりだし。
「面白い子だね。僕は兄のエリク=ツェルニー。よろしくね、レティシア」
王子スマイル全開で微笑む兄。
コレで大抵の女の子は鼻血でも噴きそうなぐらい真っ赤になる。
もちろん確信犯。真っ赤になるのを見るのが楽しいらしい。
見た目に反して二人とも中はかなり真っ黒。
もちろん俺にはあの笑顔は胡散臭いとしか思わない。
それでもその実力は事実で、世界を救ったというのも事実。
多くの人を魅了する笑顔と勇者の功績。
多少の妬みなどは受けるが基本的に評価は高い。
その高すぎる評価で俺が迷惑を被るのもまた事実。
それはただ単に優秀すぎる兄や姉と比べられるというものだけでなく。
あの笑顔の裏では俺に対して愛情という名の嫌がらせのような仕打ち。
姉はやたら俺にスキンシップを求める。
しかしそのスキンシップは自分の身の丈よりも大きな剣を片手で振り回すほどの腕力で繰り出される。
吹っ飛ばされるなんて日常茶飯事。内臓まで逝きかけたことだって何度もある。
愛情に押し潰されるのも時間の問題だった。
俺は必要に迫られて回復魔法を覚えた。
回復魔法は神聖魔法に分類されるのだが俺はかなり相性がよかったらしく、どんどん呪文をマスターしていった。
しかしそれが次の悪夢への始まりだった。
魔法の才能を魔法師の兄に目をつけられて、突然魔法攻撃を仕掛けられるようになった。
姉よりもこっちのほうがきつかった。
兄は基本的に攻撃系の魔法である黒魔法しか使えない。
しかも黒魔法のなかでも派手で破壊力の高いものが得意で。
まともに食らえば死ぬだろうというものばかり。
「ゴメン。俺って加減とかって苦手なんだよね」
その一言で片付けられ、ほぼ全力だろう魔法を放たれた。
それでいて結界は得意なので周りには被害は出ないし気づかれることもない。
兄の訓練は姉の愛情よりも死に近い過酷なものだった。
誰も兄の訓練を目撃することがないので、どんなにボロボロになってもその傷が兄によるものだとは信じてもらえなかった。
勇者と呼ばれる最強の兄と姉は俺にとっては最凶でしかない。
決して嫌いなわけではない。
ただ関わるとろくなことにならない。だから最凶。
そんな兄と姉は依頼主と楽しげに会話をしていた。