06:救世主?
真っ二つに割れた障壁とブレス。
それはまさに斬られたというのが正しい。
そんな常識を無視したことをできる人間を俺は一人しか知らない。
そして聞こえた悪魔の声。間違いなくあの人だ。
「ルッツ、この辺りは俺が結界を張るから周りのことは気にせず黒竜を」
もう一人の悪魔の声。やっぱりいやがったか・・・!
しかしあの悪魔の張る結界ならばどんな無茶をしても大丈夫。
そして俺は心置きなく自身の扱えるであろう最上級の呪文を唱える。
「やれ」
それは結界が完成したことを告げる声。
すぐさま完成した呪文を展開させる。
「霊崩破!」
俺が使えるであろう最強呪文。
黒竜が対抗すべくブレスを吐く。
俺の手から放たれた青白い光の衝撃波と黒竜のブレスが衝突する。
「いけっ!」
物理的な威力も十分高いのだが精神面からのダメージを与えるのが特徴のこの呪文。
精神面への攻撃に鎧や硬い皮膚などなんの意味も持たない。
衝撃波はブレスを掻き消して黒竜を飲み込む。
激しい爆音とともに砂煙が巻き上がった。
やったか・・・?
これで倒せてなかったら正直キツイなぁと思いつつ、念の為次の呪文をすぐに展開できるようにしておく。
「まったく、要領が悪すぎる」
砂煙の向こう側。
動かなくなった黒竜をぺちぺちと叩きながらため息をつく勇者の片割れの兄・エリク。
「竜牙砕!」
兄エリクの呪文によって倒れた黒竜の周りの地面が牙の形をとって盛り上がり黒竜を飲み込む。
「よし、スッキリ」
地面が元の形に戻った時には黒竜の姿は消えていた。
そこで俺もそれまで組み上げていた呪文を中断し、ほっと一息つく。
「ちょっとルッツ!!」
「あぁレティ・・・ごふぉッ!」
呼ばれてそちらに振り返ると同時に背中に強い衝撃を受け倒れる。
見上げるとそこには興奮した様子のレティ。
どうやら思い切り肩でタックルされたようだった。
「女の子が興奮のあまりタックルするのはどうかと思う・・・」
「そんな些細なことはどうでもいいの!それよりどうしてココにイェーガーの勇者がいるのよ!」
「それは・・・」
俺の名前から察してくれ、と言おうとしたのだがその言葉は遮られた。
「ルッツは私達のかわいい弟なのよ」
自分の身の丈よりも大振りの剣をもつ姉、ティアナがにっこりと微笑んだ。
見ればわかるだろうが姉が剣士で兄が魔道師だ。
「・・・ウソ・・・・・」
「嘘だったらどれだけ幸せだったか・・・」
「じゃあツェルニーって本当に本名だったの?」
「信用してなかったのか。ひど・・・」
酷い。その言葉はやっぱり遮られることになる。
「酷いのはルッツでしょう!こんなにも愛情を注いでいるのにッ・・・!」
数メートルの間合いを一気に詰めた姉の制裁が下され俺は地面に沈んだ。