05:黒竜襲来
黒竜。一般にはブラックドラゴンと呼ばれるドラゴン種の中でも上位の攻撃種だ。
攻撃方法は主に爪や牙などに加え炎のブレスなど。
しかしその攻撃力は一番遭遇率の高い緑竜に比べると大人と子供ほどの差があるという。
間違っても駆け出しの冒険者が対峙するような相手ではない。
そもそも街道に竜が現れるなんてまずないだろう。
竜の出現するような場所に街道を作るだなんて危険極まりない。
よほどの理由がない限りはありえない話だ。
つまり今何故黒竜が目の前にいるのかというと。
「非常識すぎるだろ、ヴォケーッ!」
兄や姉といいこの黒竜といい、非常識すぎる。
非常識なんて大嫌いだ。
俺の心の叫びなど竜に通じるわけもなく、ジリジリとこちらとの距離を縮めてくる。
「聖雷破!」
青白い雷が黒竜を包み込む。
聖なる雷を相手に放つこれでも上級に分類される呪文。
しかしバチリという音がしただけで平然とこちらに歩み寄る黒竜。
うん、全然効いちゃいねぇってことですね。
すでに黒竜との距離は数メートル。
「ルッツ!!」
「大丈夫ッ・・・そこから動くなよっ・・・と」
黒竜が勢いよく尻尾を叩きつけてくる。
当たったら悲惨なことになるのが目に見えている攻撃。とっさに横に飛んで避ける。
しかしそこへ尻尾の回転の勢いを使った黒竜の爪が振り下ろされる。
避けるのは間に合わない。ならば受けとめるか受け流す!
「光刃剣!」
物質に光の刃を纏わせるという俺の得意呪文。
そこらの剣よりもよっぽど切れ味が良く刃を纏わせた物質の重さという素敵な剣が出来上がる。
ぎんっと金属同士がぶつかり合うような音をたてる爪と刃。
「おわっ!」
反らしきれなかった力を受けてバランスを崩してしまった。
次の攻撃受けられるかな、などという考えが頭をよぎった瞬間。
『グルッ・・・』
黒竜の口元に生まれる熱源。
黒竜の顔はレティ達の方向を向いている。
「ちぃっ・・・!」
結界があるとはいえあの炎を受けてはただではすまない。
呪文を唱えつつレティ達の元へ向かう。
間に合うか・・・?
『ガアァッ!』
呪文の完成よりも早く黒竜のブレスが吐き出される。
レティ達を守るものはブレスに対するには薄すぎる結界のみ。
いくらレティでもこれはどうにかできるレベルじゃない。
「装甲障壁!」
それまでしていた詠唱を中断して強制的に呪文を発動させる。
威力は落ちるが多少なりともブレスを防ぐことができると信じて。
「・・・ッ!!」
レティが息をのむのがわかった。
頭の奥でチカチカと危険信号が鳴っている。
レティ達が炎に飲み込まれるというその時。
俺の障壁呪文もろともブレスが真っ二つに割れて。
「まだまだね」
悪魔の声がした。